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著: 雪田

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雪田によって書かれたお話たちです。
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【短編小説】世界一幸せかな

【短編小説】世界一幸せかな

 本日は私たちのためにお越しいただき、誠にありがとうございます。無事本日、式を挙げることができました。こうして2人で夫婦になれたこと、これもひとえに皆様のおかげです。ささやかな席ですが、お開きまでどうぞごゆっくりお過ごしください。

 挨拶を済ますと、司会の人が新郎新婦の紹介をしてくれる。自分の名前の前に、新婦、という代名詞がつき、苗字が呼ばれなかったことに、やっと、実感が湧く。
「やっと夫婦にな

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【短編小説】お気に入りのスノードーム

【短編小説】お気に入りのスノードーム

彼女は雪を降らせる。
ふわりふわり雪が舞う。

黒い目を輝かせ、恍惚の眼差しを僕に向ける。その瞳は、嘘偽りなどは感じられないほど無垢で、油断すると吸い込まれてしまいそうな魅力があった。
どうやら僕は、その瞳に一目惚れされたようだ。
僕は、今までこれほど露骨な好意を寄せられたことがなかったため、初めはその圧力に慄いたが、悪い気はしなかった。むしろ素直に嬉しいとも感じた。これがモテる男のサガってやつだ

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【短編小説】マイガールフレンド

【短編小説】マイガールフレンド

サービスだよ。

はい、コンちゃんいつもお疲れ様。
いいのいいの、私が渡したかっただけだから。
開けて見てみてよ、そんな大したものじゃないんだけどね、ほら早く早く。何でしょう。

そう!これ前に見に行きたいって言ってたよね?
今前売り券買うと特典ついてくるんだって。
いつも仕事では "みんなの憧れのエース、近藤さん" で頑張ってるんでしょ?
たまには映画でも見に行って、ゆっくりデートしようよ。

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【短編小説】春夏秋

【短編小説】春夏秋

―春
 薄暗いオフィスの中で1人スポットライトを浴びて液晶に向き合う。残業もそこそこに、その日は会社のビルの管理人に追い出されて帰ることにした。
 職場から駅まで徒歩14分かかるところを10分で帰ることができる近道がある。中央公園の中を横切ると見事にショートカットできるのだ。今の季節は桜が咲き、夜にはライトアップもされる。僕は、こんな時間になってもブルーシートの上で騒いだり意識を手放したりしている

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