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元教員インタビュー#2 先生の専門性が認められる社会をつくりたい。学校を離れたからこそ、できることを。

今回インタビューさせてもらったのは、IT企業でコンサルティング営業マンとして働く遠藤成彬さん。

大阪の公立中学校で国語教員として1年間勤務した後に、システムエンジニアや営業、コンサルティングなど、教育業界に限定せずさまざまな職種に関わってこられました。現在は、企業で働きながらも、学校内での働き方を改善すべくプロボノでの活動を続けています。

学校現場を離れた後も、なぜ学校との関わりを持ち続けているのか。その根底にある思いを伺いました。

プロフィール
遠藤成彬(えんどう なりあき)さん
大阪大学卒業後、大阪市の公立中学校で国語科の教師となる。退職後、地元鹿児島でIT企業に転職、SE・営業として数年間過ごした後、教育系ベンチャー企業に転職。自治体における教師の働き方改革プロジェクトのコンサルティングや、文部科学省の働き方改革事例集作成に携わる。現在はIT企業でコンサルティング営業として働きながら、個人で学校の働き方改革に関わっている。

就活、海外渡航、塾講師。1年間で次のキャリアへの準備をした

ーー 教員を辞めてから次の仕事に就くまでは、どのように過ごしていたのでしょうか。

教員を退職したのは1年目の3月末で、それから1年間は就職せずに過ごしました。まずは実家の鹿児島に帰って、4月から8月までの5ヶ月間は第二新卒として就職活動をしました。その間は、「決まらなかったらどうしよう」という不安はありましたね。教員を1年で辞めてしまったことへの後ろめたさもありました。10社くらい採用面接を受けて、最終的に地元のIT企業から内定をもらうことができました。

その後は入社するまで半年以上空いていたので、2ヶ月間南米へ行きました。大学時代から行きたかった場所だったのですが、お金も時間もかかるので断念していたんです。せっかくならこのタイミングに、と思って旅ができたのはよかったです。

帰国してからはアルバイトで4ヶ月間塾講師をしました。1年間の教員経験があったので、集団での授業は即戦力として任せてもらえました。短期間でしたが子どもの成績を上げ、子ども同士のトラブルも適切に対処できたので、そこは教員の経験が活きているなという自信につながりました。

学校が働きやすい環境になるように、教育系ベンチャー企業へ

ーー IT企業に3年間勤めたあとは、教育系のベンチャー企業に転職されたんですね。何が転職のきっかけとなったのでしょうか?

転職して1社目の企業ではSEを担当したあと、営業職として東京支社に異動し、一定の評価も得ることができました。自分の中では、さらに何かに挑戦したい気持ちが強くなったんです。

そんなときに、後に入社することになる教育系ベンチャー企業のことを知って、採用面接を受けました。教育系の企業だと、子どもに対してアプローチしているところが多い中、その会社は先生に対してアプローチしているところが特徴的でした。学校の働き方改革のコンサルティングをしていて、先生たちの働きやすい環境づくりを事業の一つとして展開していたんです。僕自身は教員時代に長時間労働を経験してきて、先生の働く環境がもっと整っていれば子どもにもっと価値を提供できると確信していたので、まさに課題に感じてきたところに関わることができると思いました。

実際に入社すると、いろんな自治体や教育委員会の方との関わりが多く、教員時代には見えていなかった部分まで見えるようになりました。どうしても学校現場にいると、教育行政が敵に見えてしまうことがあるんです。けれど実際は、行政の職員も人手が不足している中、どの職員の方も学校のことを考えて必死に働いていました。

そんな現実を知り、学校現場で起こっている課題の複雑さも同時に見えてきました。教育行政もここまで手が回っていない中、先生たちの働き方を変えていくのは簡単なことではないと思いました。

プロボノで、学校の働き方改革に関わり続ける

ーー 現在は、どんなお仕事をされていますか?

今年の3月末まで働いていた教育系のベンチャー企業を退職し、今はIT企業でコンサルティングの仕事に就いています。本業では教育に直接関わることは少なくなりましたが、プロボノとして学校のコンサルティングをしたり、学校現場の声を集めて社会に届けるプロジェクトに関わったりしています。

ーー なぜプロボノで学校に関わる活動を続けているのでしょうか?

前職では、いろんな自治体や教育委員会、文科省の方との関わりが多くありました。その中で、学校の外の事情も見えてくるようになりましたし、学校の業務改善をしていくために必要なポイントもわかってきた部分があります。

僕自身、先生を辞めた理由の1つには業務量の多さからくる体力的、精神的なつらさもあったので、今も学校現場で苦しんでいる先生に対して、自分ができることをしていきたいという気持ちがあります。だから、本業が教育とは関係がなくなったとしても、こうして学校との関わりを持ち続けたいと思っています。

先生たちの専門性が認められる社会に

ーー 教員を辞めてから現在までを振り返ると、変化したことはありますか?

「学校の先生は社会のことを知らない」と耳にすることがあります。けれど、僕自身はそんなことはないと思っています。いろんな会社を経験してきて思うのは、社会のルールなんてものはない、ということです。あるのは社会のルールではなく、会社のルールなんだと思います。

民間企業から別の民間企業に転職したら、仕事内容やその会社の中で使われている言葉、ルールだって変化します。それは、学校の先生から転職したって同じことだと思います。先生から転職するのは特別なことではないと思いますし、民間企業にも先生にも同じようにいろんな特徴の人がいます。僕自身は、民間企業も先生も経験した上で、「先生だけが特別、社会のことを知らない」とか「常識がない」と思ったことは一度もありません。

そして、先生の専門性がなかなか評価されない現実もあるなと感じてきました。「先生は誰でもできる」「昔先生を目指していた」「先生はもっとこうあるべきだ」と言われることも多い仕事ですが、集団をまとめつつ子ども一人ひとりの特性をみて、40人の子どもの前で授業を進行していくのは簡単なことではありません。高い専門性が必要な仕事です。誰でもできることではないと思います。もっと先生の専門性が尊重され、その上で、先生としての仕事をやり続けたり、転職できたりするような選択肢が取れる社会になると良いなと思っています。

ーー 最後に、自身のキャリアを模索している先生へ、メッセージをお願いします。

僕の教員としてのキャリアはたった1年なので偉そうなことは言えないのですが、やっぱりこれまでに出会ってきた人の中でも、先生は特に能力が高く人間的にも尊敬できる方ばかりだったなと思います。

僕は民間企業では努力したりしてある程度の成果を出すことができましたが、先生としては力不足でした。先生でい続けるということは、いろんなことに興味を持って自分自身が学び続け、それを子どもたちに還元していくことなんです。本当に素晴らしいことだし、それは学校以外の社会でも通用する力だと思っています。

だから、今先生をやっている方には自信を持ってもらいたいなと思います。僕自身は先生をしていたときに身に着けた力が民間企業でも活かせていることを証明し、先生という仕事が社会の中でもっと評価されるように、これからもいろんな活動や発信をしていきたいなと思っています。

ーー 遠藤さん、ありがとうございました!

『教師×転職 (「辞める」か「続ける」か、二択を超えて視野を広げる18の転職ストーリー)』では、遠藤さんの転職ストーリーがさらに詳しく載っています。

編集後記

先生のスキルは、社会では活きない。

そんな意味合いの言葉を、時々耳にすることがあります。その度に、本当にそうだろうか?と疑問を持ってきました。

遠藤さんのお話を思い返すと、先生たちが当たり前のようにやっている仕事は、どれも高い専門性が必要なことばかりだったなと改めて感じます。実際に、教員を経験してきた遠藤さん自身も、転職した先の会社で活躍されていることが伝わってきました。

それは、教員時代に培われた能力があることはもちろん、新しいことを学び続けようとする意欲や姿勢があることも影響しているのではないでしょうか。そんな、教員としてのスキルや資質が、もっと活かせるような価値観が広がっていくといいなと思います。

「元教員インタビュー」では、過去に教員を経験してきた方のキャリアにフォーカスを当ててお話を伺うインタビュー企画です。この企画がスタートした背景には、私自身が教員を辞めて、ずっとキャリアを模索してきた体験が影響しています。

教員はなかなか転職市場では評価されにくいけれど、教員を経験してきたからこそできることはきっとあるはずです。

今まさに次のキャリアを模索している先生へ、この記事が届くことで少しでも世界を広げるきっかけとなれば嬉しいです。


最後までお読みいただきありがとうございます(*´-`) また覗きに来てください。