悩みを抱えるハンドメイド作家リカが自分のコンセプトをみつけるまで②【コンセプト】
再び、たかしがいつものカフェでリカと向き合っていた。リカの表情には前回と似たような迷いが浮かんでいる。編み物作家としての活動を再び軌道に乗せたものの、今度は新たな悩みにぶつかっていた。
「たかしさん、また相談させていただいてもいいですか?」リカは丁寧に言葉を選びながら話し始めた。「前に教えていただいた『温もりを編む』というコンセプトを大事にして、作品を作ってきました。でも、同じように温もりを大切にしている作家さんって、たくさんいることに気づいたんです。私だけの特徴が何か分からなくなってしまって…」
たかしは静かに頷き、彼女の言葉を受け止めた。「確かに、『温もり』というテーマは、ハンドメイドの世界でよく見られるコンセプトかもしれませんね。でも、リカさんにはリカさんにしかない特別な温かさがあるはずです。それを見つけるために、少し話を聞かせていただけますか?」
リカはため息をつきながらカップに手を伸ばし、少し考え込んでから口を開いた。「温もりって、人それぞれ違うのかもしれないって思うんですけど、その違いがどう出てくるのかがわからなくて…。例えば、私が作る編み物は、どこか素朴でシンプルなんです。でも、それが逆に個性を失わせている気もしていて。」
「素朴でシンプルだと思っているのは、リカさん自身ですか?それとも、周りの声ですか?」
「私自身がそう思っています。他の作家さんの作品を見ると、色鮮やかで凝ったデザインが多くて、私の作品が目立たないんじゃないかって…。」リカは俯きながら言った。
たかしは少し考え込んだ後、優しい声で話し始めた。「確かに、派手で目を引く作品は、すぐに目立つかもしれません。でも、リカさんの作品には静かな魅力がありますよね。それをシンプルだと感じるのは、もしかすると他の作品と比べてしまっているからかもしれません。でも、それって本当にリカさんの作品にとって『欠点』なんでしょうか?」
リカはたかしの言葉にハッとし、少し戸惑った様子で答えた。「欠点、ではないのかもしれませんが…」
たかしはリカの顔を見ながら続けた。「リカさんの作品が持っている素朴さやシンプルさ。それは一つの『スタイル』だと思います。派手さがなくても、その中にこそリカさんの手から伝わる温もりがあるんじゃないでしょうか?誰かの目を引くために派手なデザインにすることも一つの方法ですが、それがリカさんの本来の魅力を損なうことになるなら、無理に変える必要はないと思います。」
リカはたかしの言葉を噛み締めるように頷いた。「たしかに…自分が納得できる形で作品を作ってきたのに、周りを意識しすぎて見失っていたかもしれません。でも、同じように素朴さや温かさを打ち出している作家さんも多い中で、どうやって自分らしさをもっと明確にできるんでしょうか?」
たかしは少し考えた後、ふと窓の外に目を向け、リカに問いかけた。「リカさん、編み物をするとき、どういった場面で作りたいと思うんですか?誰かに渡すために作っている、という話を前に聞きましたが、その『誰か』についてもう少し詳しく教えていただけますか?」
リカは少し考えたあと、静かに答えた。「私は、誰かが使ってくれることを想像しながら編んでいます。例えば、寒い冬の日に家でくつろいでいる時に、私が作ったブランケットやマフラーで温かさを感じてもらえたらいいなって。大切な人に贈る気持ちで編んでいます。」
たかしは優しく頷いた。「それが、リカさんの強みなんです。多くの作家が『温かさ』をコンセプトにしているかもしれませんが、リカさんは具体的に、どんな場面で誰に使ってもらいたいかを明確に持っている。その気持ちが作品に表れているからこそ、リカさんの編み物は独特の魅力を持っているんです。そこをもっと大切にして、自分の作品に込めるメッセージをはっきりと伝えていくことが、他の作家との差別化につながると思います。」
リカはその言葉に目を輝かせた。「私の編み物に込める気持ち…確かに、ただ『温かいものを作る』だけじゃなくて、誰かのために、特別な場面で使ってもらうことを想像していたかもしれません。」
たかしは頷きながら続けた。「そうです。それこそが、リカさんのコンセプトをさらに深めるポイントです。温かさや素朴さは、どんな場面で、どんな人に向けてのものなのか。それをもっと具体的に伝えることで、リカさんの作品に独自性が生まれるんです。」
「具体的に伝える…例えば、どうやって?」
「リカさんが想像する場面を、作品に込めるストーリーとして打ち出してみるのはどうでしょう。例えば、寒い夜に家族が暖かいリビングで使うブランケットや、友人とのキャンプで役立つあたたかなマフラー。そういった具体的なイメージを添えることで、リカさんの編み物が、ただの手作りの作品以上の価値を持つようになります。それが、リカさんの編み物が持つ『物語』です。」
リカは静かに考え込み、やがて笑みを浮かべた。「物語を編み込む…そうですね、たかしさんのおかげで、また新しい視点が見つかりました。自分の作品が、誰かの大切な時間や瞬間に寄り添えるようなものを作っていきたいです。」
「それが、リカさんの編み物の真髄だと思いますよ。他の作家さんとは違う、自分だけのストーリーを持っているんです。」
リカは感謝の気持ちを込めてたかしに頭を下げた。「本当にありがとうございます、たかしさん。これからは、自分が大切にしたい場面や人をもっと意識して作品を作っていこうと思います。」
「そうですね。焦らず、じっくりと作っていけば、きっとリカさんらしさがさらに強く出るはずです。頑張ってください。」
リカは再び自信を取り戻し、温かな気持ちでカフェを後にした。彼女の手元には、再び編み物の楽しさを取り戻し、自分らしい作品を作り出すためのヒントが握られていた。
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