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RIPPLE〔詩〕

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#詩的

さようならの足音は、絶頂の日にこそ鳴り響いていた。高らかに、そして痛ましく。委ねることも抗うことも、きっと在りし日の余情に過ぎない。不協和音を折り重ねるペダル。踏んだ足をまだ離さないのは、身を捧げると決めたから。あなたにではなく、祈ることにね。

花の香の種

花の香の種

戸を開いたら、
春の香りが広がった。
たしかに今朝は
心叩く音を感じていた。

一瞬の風にさらわれる香気に、
問いかけようとする口を噤めば、
いつだって、世界は生まれ変わろうとする。
いつかを知るのは今の私だけ。

ある夜に、
悲しいアリアの種を包んで、
胸元にそっと忍ばせていた。
これ以上泣かないですむように、と。

さあ話そうか。
夜の続きじゃなく、
また手を繋いでさ。
また新しく。

四行詩 15.

四行詩 15.

覚めたのはきっと現の方だ

夢はありったけのあるだけの日々

饗宴は ひとすじの星明かりへと

楽園は 一輪の花へ 還っていく

*  *  *

2018年は大変お世話になりました

どうぞ良いお年をお迎えください

矢口蓮人

*  *  *

とある塔の頂で

とある塔の頂で

 遠く隔たっているようで、すぐ辿り着ける国の、離れているようで、傍にある塔の話。

 聞こえるか、摩擦で上げる雄々しい叫びが。見えるか、対比が示す猛々しい建造が。そうだ。上へ、上へ、上へと積み上げてきた塔だ。烈しさゆえに、物々しくも濃霧に隠された、輪郭と鋭角の象徴だ。

 こんな伝説がある。塔の最も高いところに剣を突き立てた瞬間のこと。稲妻が龍の如く天へと昇り、分厚い暗雲をつんざく、と。霧が晴

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とある泉のほとりで

とある泉のほとりで

 遠く隔たっているようで、すぐ辿り着ける国の、離れているようで、傍にある泉の話。

 立ち込める霧は視界の全ては遮らない。霧は、泉のまわりにある原生林や山々や、その輪郭と色合いをうまく柔和させている。目の前の光景をむしろ美しく、ただ美しく見せ、旅人らを妖しげに誘っていた。
 霧と凪は仲良くしていた。ここでは晴れやかな陽気よりも、閑寂とした空気の方が似合うみたいだ。快活な太陽が照らせば、すぐさま光が

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