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矢口れんと
2019年3月3日 00:25
さようならの足音は、絶頂の日にこそ鳴り響いていた。高らかに、そして痛ましく。委ねることも抗うことも、きっと在りし日の余情に過ぎない。不協和音を折り重ねるペダル。踏んだ足をまだ離さないのは、身を捧げると決めたから。あなたにではなく、祈ることにね。
2019年2月25日 23:23
戸を開いたら、春の香りが広がった。たしかに今朝は心叩く音を感じていた。 一瞬の風にさらわれる香気に、問いかけようとする口を噤めば、いつだって、世界は生まれ変わろうとする。いつかを知るのは今の私だけ。 ある夜に、悲しいアリアの種を包んで、胸元にそっと忍ばせていた。これ以上泣かないですむように、と。 さあ話そうか。夜の続きじゃなく、また手を繋いでさ。また新しく。
2018年12月31日 08:31
覚めたのはきっと現の方だ夢はありったけのあるだけの日々饗宴は ひとすじの星明かりへと楽園は 一輪の花へ 還っていく* * *2018年は大変お世話になりましたどうぞ良いお年をお迎えください矢口蓮人* * *
2018年11月12日 19:51
遠く隔たっているようで、すぐ辿り着ける国の、離れているようで、傍にある塔の話。 聞こえるか、摩擦で上げる雄々しい叫びが。見えるか、対比が示す猛々しい建造が。そうだ。上へ、上へ、上へと積み上げてきた塔だ。烈しさゆえに、物々しくも濃霧に隠された、輪郭と鋭角の象徴だ。 こんな伝説がある。塔の最も高いところに剣を突き立てた瞬間のこと。稲妻が龍の如く天へと昇り、分厚い暗雲をつんざく、と。霧が晴
2018年10月11日 17:31
遠く隔たっているようで、すぐ辿り着ける国の、離れているようで、傍にある泉の話。 立ち込める霧は視界の全ては遮らない。霧は、泉のまわりにある原生林や山々や、その輪郭と色合いをうまく柔和させている。目の前の光景をむしろ美しく、ただ美しく見せ、旅人らを妖しげに誘っていた。 霧と凪は仲良くしていた。ここでは晴れやかな陽気よりも、閑寂とした空気の方が似合うみたいだ。快活な太陽が照らせば、すぐさま光が