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ゆるやかな古典ブーム

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個人の判断で古典とみなした本たち
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『郵便配達は二度ベルを鳴らす』を読んでみた〜光文社古典新訳文庫を読もうシリーズ〜

『郵便配達は二度ベルを鳴らす』を読んでみた〜光文社古典新訳文庫を読もうシリーズ〜

一生をかけて光文社古典新訳文庫をじっくり読んでみる。そんなシリーズを始めてみようと思います。

ルキノ・ヴィスコンティをはじめ、これまで四度も映画化された作品。

「どうやらタイトルと内容が一致していないらしい」

そんなイメージぐらいしか持っていなかったけれど、光文社古典新訳文庫に原作があったので手に取ってみました。

本書はアメリカ犯罪小説の歴史に名を刻んだ一冊。著者はジェームズ・M・ケイン。

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『幼年期の終わり』を読んでみた〜光文社古典新訳文庫を読もうシリーズ〜

『幼年期の終わり』を読んでみた〜光文社古典新訳文庫を読もうシリーズ〜

一生をかけて光文社古典新訳文庫をじっくり読んでみる。そんなシリーズを始めてみようと思います。

巨匠アーサー・C・クラークの傑作SF小説『幼年期の終わり』。1953年に原書刊行されたSFオールタイム・ベストの定番。

スタンリー・キューブリックとの『2001年宇宙の旅』では、高度な地球外生命体はけっして姿を見せなかったけれど、本作では「フツー」に具体的な描写で登場する。

人類と未知の知的生命体と

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フランス恋愛小説の最高峰と呼ばれる『アドルフ』(コンスタント)〜光文社古典新訳文庫を読もうシリーズ〜

フランス恋愛小説の最高峰と呼ばれる『アドルフ』(コンスタント)〜光文社古典新訳文庫を読もうシリーズ〜

一生をかけて光文社古典新訳文庫をじっくり読んでみる。そんなシリーズを始めてみようと思います。

人生は選択の連続であって、現状維持だとしても自らの意思で「そうしている」。何か新しく行動を起こそうとすると緊張で身体が震えたりする。この現象は遺伝レベルのアラート。どうやら人間には「自己保存の本能」が備わっているらしい。

こういう自己保存の本能だとか、回収ができなくなったコストの投下が意思決定に影響を

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『ゴリオ爺さん』を読んでみた〜光文社古典新訳文庫を読もうシリーズ〜

『ゴリオ爺さん』を読んでみた〜光文社古典新訳文庫を読もうシリーズ〜

一生をかけて光文社古典新訳文庫をじっくり読んでみる。そんなシリーズを始めてみようと思います。

1814年、ナポレオンに代わってルイ18世が即位。王政復古の名のもと貴族制度が復活したフランス。物語の舞台は、社交界が息づき、お金と見栄と、ゾンバルトもびっくりするような恋愛と贅沢が蔓延るパリ。

小麦商人のペール・ゴリオ(以下、ゴリオ爺さん)は革命と隣り合わせの不安定な社会を乗り切り、製麺業で財を成し

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『嵐が丘』を読んでみた〜光文社古典新訳文庫を読もうシリーズ〜

『嵐が丘』を読んでみた〜光文社古典新訳文庫を読もうシリーズ〜

一生をかけて光文社古典新訳文庫をじっくり読んでみる。そんなシリーズを始めてみようと思います。

著者のエミリー・ブロンテは29歳で『嵐が丘』を出版し、肺結核を患い30歳の若さで亡くなった。

イギリスの片田舎で魂を削りながらしたためた一冊。生涯で小説はこの一編のみ。彼女の死後、『嵐が丘』は世界文学を代表する一冊と称されるまでに至った。

出版時の著者と、いま読者の自分は時代は違えど29歳の同い年。

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『アンナ・カレーニナ』を読んでみた〜光文社古典新訳文庫を読もうシリーズ〜

『アンナ・カレーニナ』を読んでみた〜光文社古典新訳文庫を読もうシリーズ〜

一生をかけて光文社古典新訳文庫をじっくり読んでみる。そんなシリーズを始めてみようと思います。

毎日、本の感想を書いていると長編の小説には手が出しにくい。というわけで自由気ままに読むスタンスに変えました。

これまでの反動もあって一発目に選んだのは大長編『アンナ・カレーニナ』。本棚にひっそり眠っていて、ようやくです。

トルストイが描く同時代ロシア貴族社会の人物群像劇。タイトル同名の女性、アンナ・

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全体主義的システムの周到さにいまさら驚くディストピア小説『一九八四年』(ジョージ・オーウェル)

全体主義的システムの周到さにいまさら驚くディストピア小説『一九八四年』(ジョージ・オーウェル)

訳者あとがき曰く、英国での「読んだふり本」第一位が本作らしい。漫画版の『村上春樹の「螢」・オーウェルの「一九八四年」』を最近読んだものの、小説の方は学生時代に図書室で読んだ程度で、記憶もおぼろげ。

たしかにビッグ・ブラザーだとかキーワードさえ知っていれば「読んだふり」はできそう。ドキッとして笑ってしまいました。

さて、舞台はビッグ・ブラザー率いる党が支配する全体主義的近未来(1984年)。主人

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で、なんで待ってるのかわかりまてん!『ゴドーを待ちながら』(サミュエル・ベケット)

で、なんで待ってるのかわかりまてん!『ゴドーを待ちながら』(サミュエル・ベケット)

TBSラジオ、ライムスター宇多丸さんのムービーウォッチメン「桐島、部会やめるってよ」の映画評。

たしか「シンボルとなる人物が劇中の最後まで登場しない」という共通点で本作がかるく紹介されていて、ずっと気になっていました。

不条理演劇の代名詞にして最高傑作。デュシャンの泉のようなメインに対するカウンター的存在が、いつの間にか演劇史のなかでどっしりと鎮座している、そんな印象。

本書の解説にある通り

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「見るなよ!」と言われたら確実に見るフラグ!『古事記―マンガ日本の古典』(石ノ森章太郎)

「見るなよ!」と言われたら確実に見るフラグ!『古事記―マンガ日本の古典』(石ノ森章太郎)

漫画界の巨匠であり学習漫画のパイオニア・石ノ森章太郎。足かけ5年の大事業『マンガ日本の歴史』を書き上げた直後に手がけたのが本書です。

「マンガ日本の古典」シリーズの栄えある一発目こそ日本最古の典籍『古事記』。

構成は上・中・下の三部に分かれていて対象は「上巻」のみ。「建国の由来」がテーマで神武天皇へつなぐ物語ですが、著者いわく上巻がおおいにマンガ的であって古典的。

*イザナキ・イザナミの国生

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ふたりにしか見えない師弟愛『春琴抄』(谷崎潤一郎)

ふたりにしか見えない師弟愛『春琴抄』(谷崎潤一郎)

『細雪』のこいさんといえば四女の妙子で恋多き現代的な女性だったけれど、『春琴抄』のこいさん・春琴は、またちがった魅力を持つ人物です。

美貌を持ち性格難ありな盲目の三味線師匠春琴と、彼女に尽くしぬく奉公人佐助の、奇妙かつ壮絶な師弟愛を描いた小説。

「萌え」「ツンデレ」のような要素が感じられて、そのコンパクトな分量からもライトノベル的なのかもしれません。『とらドラ!』の大河が思い浮かんだ。ほんと一

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坂口安吾『堕落論・日本文化私観 他二十二篇』を読み返す

坂口安吾『堕落論・日本文化私観 他二十二篇』を読み返す

学生時代以来の再読です。堕落論の言葉だと思って携帯にメモしていたのが、じつは恋愛論の一文であることに気づいたり、あれ?そもそも恋愛論なんてあったの?だっり、いろいろ忘れていました。

坂口安吾を一躍有名にした堕落論が収録されたエッセイ集。頭からページをめくると文学・芸術・創作論から始まります。目次をご覧になって興味ある箇所から拾っていく、つまみ食いの読みがおすすめです。

徹底的な欺瞞の否定坂口安

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19世紀ロシアを代表する恋愛小説の古典!『はつ恋』(ツルゲーネフ)

19世紀ロシアを代表する恋愛小説の古典!『はつ恋』(ツルゲーネフ)

村下孝蔵の『初恋』は好きと言えなかった気持ちを歌詞に表したように、初恋という言葉には胸に秘めた想いであるとか「甘酸っぱさ」的なニュアンスを感じます。が、

…そんな甘いもんじゃないのがロシア文豪ツルゲーネフの『はつ恋』です。

本書は、19世紀を代表する恋愛小説の古典にして名作とされています。ハンサムで浮気症な父と、地主の母を持つツルゲーネフの自伝的小説です。

16歳の主人公・ウラジミールは越し

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「事実は小説より奇なり」の生みの親!『バイロン詩集』を読んで

「事実は小説より奇なり」の生みの親!『バイロン詩集』を読んで

十八世紀末から十九世紀初頭にかけてのヨーロッパは「近代」を生み出すための「陣痛」の時期、ロマン主義。

イギリスではワーズワース、バイロン、キーツたちが現れます。

ふと手にとったバイロン、読むとその「人」に俄然興味がわくのでした。

人生の境遇と作品が決まっていたかのように絡み合っている。さすが事実は小説より奇なりの生みの親です。

バイロンとはイギリス生まれ、大伯父の死でわずか10歳で「男爵」

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400年読み継がれてきた言葉の宝庫『菜根譚』(洪自誠)を読んで

400年読み継がれてきた言葉の宝庫『菜根譚』(洪自誠)を読んで

「誰が言うか」で言葉に箔がつくけれど、本書はどちらかというと「何を言うか」の力で中国の明代の末期から400年読み継がれてきた古典といえるのではないでしょうか。

松下幸之助、田中角栄といった各界のリーダーたちが愛読してきた理由も読むとわかってきます。

洪自誠という人は都会のエリート生活を経て、田舎で隠居しながら晩年に本書を仕上げたのではないか?

道教的・仏教的儒・仏・道の三教を兼修したとふれこ

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