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『郵便配達は二度ベルを鳴らす』を読んでみた〜光文社古典新訳文庫を読もうシリーズ〜

一生をかけて光文社古典新訳文庫をじっくり読んでみる。そんなシリーズを始めてみようと思います。

ルキノ・ヴィスコンティをはじめ、これまで四度も映画化された作品。

「どうやらタイトルと内容が一致していないらしい」

そんなイメージぐらいしか持っていなかったけれど、光文社古典新訳文庫に原作があったので手に取ってみました。

本書はアメリカ犯罪小説の歴史に名を刻んだ一冊。著者はジェームズ・M・ケイン。

内容を一言で表せば「不倫カップルの共謀による夫の殺害計画とその顛末」といったところでしょうか。

ボリューム自体はコンパクトで平易で読みやすい。内容に関しては後述しますが、主人公の手記形式で構成されています。

カミュの『異邦人』に影響を与えたというのも頷けます。

初版は1934年で思った以上に古典です。ちなみに同年といえば、環世界でおなじみのユクスキュル『生物から見た世界』が出た年であり、日米野球で沢村栄治が活躍した年。

どこか脆さのある主人公

舞台はアメリカ。なんとなくですが、1929年に起きた大恐慌の煽りを食らった不安定な社会であると想像できます。

主人公は無職で転々とする流れ者の男性フランク。ひょんなことから街道沿いのレストランで働き始め、その店主の妻であるコーラに惚れてしまう。

年上の女性がいきあたりばったりで、向こう見ずな若者に目を奪われる。

こういうパターンはよくあるかもしれないけれど、フランクはそんなにワイルドでもないし強かだとは、けっしていえない。

「(中略)あなたって、頭はいいけど頼りにならない」
「頼りにならなくても、おまえを愛している」

事実、一度目の殺害計画は失敗に終わります。でも夫にはバレずに済んだ。なんとか事なきを得たふたり。

では、そこから駆け落ちするかというと、妻のコーラが首を縦に振らない。田舎から出てきた彼女は人並みでそれなりの安定を求めている。

フランクのことは愛するけれど、その場しのぎの生活はイヤなのです。

どこでボタンをかけちがえたのか

ここで話の振り子はいったん止まる。もっといえば、ここが逃げるチャンスだった。だけど、フランクはこれまた偶然のきっかけでレストランへ舞い戻る。

まるでその偶然は決まっていて、最終的な「結末」に手繰り寄せられるように。

前述の通り、この小説は主人公フランクの手記形式で淡々とした一人称の語りです。読後に思ったのが、いつの間にか彼と一体化した読みになっている。

なぜフランクがその結末に行き着いてしまったのか。ここが朧げなんですね。

どこで道を外したのか、泥沼に足を踏み込んでいったのかが、巧妙な小説の設計によってぼやかされいる。そんな感想を持ちました。

後半、二度目のある計画実行とそこから裁判のくだりは、一気に読ませるサスペンスのようなハラハラ感も味わえます。

そして時代が経てど、まったく色合わせていません。人によっては数時間の前半で読み切ってしまうのではないでしょうか。

というわけで以上です!

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