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「見るなよ!」と言われたら確実に見るフラグ!『古事記―マンガ日本の古典』(石ノ森章太郎)

漫画界の巨匠であり学習漫画のパイオニア・石ノ森章太郎。足かけ5年の大事業『マンガ日本の歴史』を書き上げた直後に手がけたのが本書です。

「マンガ日本の古典」シリーズの栄えある一発目こそ日本最古の典籍『古事記』。

構成は上・中・下の三部に分かれていて対象は「上巻」のみ。「建国の由来」がテーマで神武天皇へつなぐ物語ですが、著者いわく上巻がおおいにマンガ的であって古典的。

*イザナキ・イザナミの国生み
*天の石屋戸
*スサノヲの大蛇退治
*因幡の素兎
*大国主の国譲り
*海幸彦・山幸彦

まさにマンガ的な神話が語られるわけですがとくに印象的だったのが、パンドラの箱やオルフェウス的な「見るなよ!」。上巻のなかで二つも登場し、そこそこ重要なシーンとして語られている気がします。

黄泉の国

舞台は黄泉の国、イザナキは「ぜったいに覗くなよ!」と言われるも変わり果てたイザナミの姿を見てしまい、追いかけられる。逃げながらもヨモツシコメなどに桃を投げて対抗する描写はイキイキしています。

そして千引岩で道を塞いだ後。

イザナミ「1,000人殺す!」
イザナキ「だったら1,500人を生む!」

このやりとりは、増える人口や人間の寿命の有限性への言及。なぜ人は死ぬのかといった回答を神話で提示しているといった読みもできそう。

なんとか逃げ切ったイザナキは禊として水で身体を清め、そこから生まれたのがアマテラス、ツクヨミ、スサノヲ。話はこっから始まります。

海幸彦・山幸彦

釣針を探しに海底へ向かった山幸彦は、トヨタマビメと出会い、結ばれる。やがて山幸彦は地上に戻るも子を宿したトヨタマビメは、居ても立っても居られず地上へ。

産屋に籠もり「ぜったいに覗くな!」と念を押すも、やっぱり見てしまう山幸彦。トヨタマビメはなんとサメの姿だった!

無事に生まれた子の名前はウガヤフキアヘズ。彼は、成長した後に彼の世話役だったタマヨリビメと結婚し、四人の子供を授かります。その第四子こそが後の神武天皇!

つまり、人間ではない異形のトヨタマビメが天皇の血筋をたどると行き着くんですね。

ここには通常の人間を越えた存在であることのアピールかと思いますが、結果として「ぜったいに見るなよ!」とそれを破ってしまう反動が大事な鍵となっています。

ぜったいに見るなよ!

それにしてもなんで人は「見るな!」と言われると見たくなってしまうのでしょう。

プラスマイナスの岩橋さんは禁じられるとぜったいに「それをしたくなってしまう」し、ダチョウ倶楽部は「ぜったいに押すなよ」を伝統芸に昇華させてしまった。

『世にも奇妙な物語』では95年に西村まさ彦主演「そのボタンを押すな!」なんて話があったし、その他昔話では『日本のヤバい女の子』でも紹介されている「うぐいす女房」などもある※別名は「見るなの座敷」でそのまんま。

その一方で『千と千尋の神隠し』の千尋は振り向かなかったから現実世界に帰れたかもしれないし、『鬼滅の刃』の炭治郎は振り向かなかったから「夢」から覚めたのかもしれない。

あちら(there)とこちら(here)とが交わるとき、強い意志がないと「見てしまう」。

いずれにしても人間の性(さが)には普遍性があって古今東西、共通していることを物語が教えてくれます。

というわけで以上です!


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