マガジンのカバー画像

読書記録_本

230
読書(漫画以外)の記録。 名前が覚えられないため、外国の本があまり読めない。まほろ市出身。 Instagramにも載せています。 https://www.instagram.co…
運営しているクリエイター

記事一覧

『照子と瑠衣』 井上荒野

『テルマ&ルイーズ』のオマージュ小説だという本作。私は観ていないが、その映画が女2人の逃走劇だということは知っている。なんだか面白そう。

主人公は優等生タイプの照子と、奔放タイプの瑠衣、70歳の女性2人による逃走劇。彼女たちは何から逃げるのか。逃走生活なんて精神的に相当きつそうなのに、それでも彼女たちは元いた場所には戻らない。逃走先で身元を明かさずに築く人間関係も、次第に温かみを帯びてくる。でも

もっとみる
『夢の回想録 髙田賢三自伝』髙田賢三 『高田賢三と私』鈴木三月

『夢の回想録 髙田賢三自伝』髙田賢三 『高田賢三と私』鈴木三月

「素敵。きれいな色っていいな」と純粋に思えたのは、初台で行われている「髙田賢三 夢をかける」展でのことだった。作品の鮮やかさと、展覧会で放映されていた動画での髙田さんの穏やかな語り口が結びつかなくて、どんな人か興味がわいた。複数の切り口から彼の姿を見たくて、本人による回想録と、『髙田賢三と私』を手に取る。

1939年に姫路の花街で「浪花楼」という待合を営む実家に生まれる。戦争で疎開。実家はほぼ消

もっとみる
『くもをさがす』西加奈子

『くもをさがす』西加奈子

この人のこと、好きだ。この本は夫と小さな息子と暮らす、小説家の西さんがコロナ禍のカナダで乳がんになって治療する話である。内容は、帯の「カナダで、がんになった。あなたにこれを読んでほしいと思った。」これに尽きる。シンプル、でも奥深い本。

どうやってがんに気づいたか、気持ちがどう動いていくかという西さんの暮らしや体調、心境が綴られる。カナダでは両乳房切除でも日帰り手術なので日本とは全然違う。そんなカ

もっとみる
『しんがりで寝ています』三浦しをん

『しんがりで寝ています』三浦しをん

ブフ、と前書きで吹き出してしまったので私の負け。本屋を徘徊していて好物の三浦しをんのエッセイを見つけたものの、値段に逡巡していた。でも前書きだけで私を笑わせるとは。やっぱり三浦しをんのエッセイは別格だ。精神安定剤、この世界を生き延びるための必需品だもの、とも思ってレジへ持っていった。

生理用ナプキンの袋をどう開けるのかをネイリストさんと話し合ったり、タクシーの運転手さんと新しい元号を予想したり(

もっとみる
『オズの魔法使い』ライアン・フランク・ボウム

『オズの魔法使い』ライアン・フランク・ボウム

YouTubeである歌を聞いたら、涙が出てきて嗚咽しだした。人生が八方塞がりの時に、聞いていた曲だった。どうした?完全に忘れていたのに、今は事態はよくなっているのに、自分の内側にあの時の気持ちが残っているらしい。

なぜこの曲を聞いたかというと、ミュージカル『Wicked』が映画化されるニュースを見たからだ。『Wicked』はサブスクなんてない頃、イギリス留学時にミュージカル好きの友達からファイル

もっとみる
モンテレッジオ 小さな村の旅する本屋の物語』内田洋子

モンテレッジオ 小さな村の旅する本屋の物語』内田洋子

段ボールに本を詰めたらすごい重さになって驚く。イタリアの山深い村には本の行商を生業とする人たちがいたという。今のように文庫本がない時代は、さらに重かろう。

貧しく、売るものがなかったから、村人たちは石を売りにでかけた。そして軽くなった荷には本をいれて売り歩くようになった。大きな町の真ん中に露店を開き、町から町へ、本を売り歩く。客の要望を聞き、本を届ける彼らは、客や出版社の信頼を集める。識字率の向

もっとみる
『ガラム・マサラ!』ラーフル・ライナ

『ガラム・マサラ!』ラーフル・ライナ

女と美容師の会話。

私、今つまらない本を読んでいて。読み進めるか、止めるか迷っていて。

面白いね、人生みたい。

1/3読んだところで気づいたんです。この本、愚痴ばっかりだってことに。半分まで読んでもそうで。主人公はチャイ屋の息子で父親に殴られながら、学校に行かずスパイスをすりつぶして暮らす。ひょんなことから教育を受ける機会に恵まれて、その後替え玉受験のビジネスを始める。今回のクライアントもバ

もっとみる
『リスペクト』ブレイディみかこ

『リスペクト』ブレイディみかこ

生活に不満があるとして。それが行政や政治に大きな原因があるとして。私なら、そして日本に住む多くの人たちは、どうするだろう?おそらく仲間うちで愚痴を言い合ったり、SNSに不満をぶちまけるだけだろう。せめて、選挙で「ちゃんと」投票するくらいなんじゃないか。でも、この本に出てくるシングルマザーたちは、行動を起こした。

2014年にロンドンで実際に起きた占拠事件を元にした小説。2012年のロンドンオリン

もっとみる
『3月のライオン』17 羽海野チカ

『3月のライオン』17 羽海野チカ

彼らが、幸せでありますように。健やかで楽しい時間が1秒でも多くありますように。登場人物や作者である羽海野チカ先生に心から思う。これは祈りだ。私は神ではなく、『3月のライオン』関係者に混じり気のない気持ちを捧げる。

部屋を片付けていたら見つかった16巻。つい読み返して涙を浮かべて、そういえば新しい巻が出ていたような、とスマホに巻数をメモして笑顔いっぱいの零と二階堂くんの表紙を本屋で見つける。大丈夫

もっとみる
『正欲』朝井リョウ

『正欲』朝井リョウ

朝井リョウのエッセイとラジオが大好きだ。へなちょこで、くだらなくて、下世話な彼。そういえば彼の小説をちゃんと読んだことがない。友達が「今『正欲』を読んでいる」っていっていたっけ。

これは、私にとってすごい小説だった。とてもお勧めなので、これから読む人の邪魔にならないよう、極力あらすじには触れない。朝井リョウ、お腹弱くてアメリカでもトイレを詰まらせていたのに、あんた、すごいよ!!!心から賛美する。

もっとみる
『私という病』中村うさぎ

『私という病』中村うさぎ

ジェーン・スーさんのインスタに出てきて、すごいタイトルだし、読むことにした。あの、整形や買い物をたくさんするすごい人の本、読んだことなかったな。

本を読み始めたら彼女が47歳で初めてデリヘルをする、という話だった。やってみてどうだったのか、何を感じるのか、お客さんはどんな人か、個室で2人っきりになって、どうなるのか。デリヘルをしたことを知人に話すとどういう反応をするのか。男の場合、女の場合でリア

もっとみる
『しあわせしりとり』益田ミリ

『しあわせしりとり』益田ミリ

白湯のように、しんみりおいしくて、自分にするする入っていって、温めてくれた。益田ミリさんのエッセイ。

夜の新大阪から東京行きの新幹線。一人暮らしの家に粗大ごみを持ち帰ったこと。一人カラオケのこと。新宿でお笑いライブを見て、帰りに九段下の桜を見に行く話。大きな出来事ではないが、死ぬ前の走馬灯で幸せな場面として出てきそう。

益田さんはよく妄想をする。私は妄想よりひたすら分析をするタイプなので、他の

もっとみる
『あたらしい家中華』酒徒

『あたらしい家中華』酒徒

私が密かにお慕いしている食いしん坊師匠、ツレヅレハナコさんが帯を書いている本。

ブロッコリーの炒め物、ひき肉と春雨の炒め物を作ったらおいしかった。春雨は生姜とにんにくと塩、ごま油の調味料だけでひき肉と相まって、シンプルにおいしい。ブロッコリーもシンプルなのにマヨネーズを付けて食べるのとは別の切り口でおいしい。表紙に書いてあるように、手軽であっさり。(誰か作ってくれるなら)毎日食べたい。

冒頭の

もっとみる
『海が走るエンドロール』5巻 たらちねジョン

『海が走るエンドロール』5巻 たらちねジョン

作品作りのモチベーションや自信の高低の波。高い時は良いけれど、「もう止めてしまおう」と思うほどコンディションが低くなることが、もの作りをする人ならあるだろう。

65歳を過ぎて映画作りを始めたうみ子さんは諸々の疲労が溜まって倒れてしまう。自分は若くないし、映画を作るのは途方もなく、正解もなく、苦しい。やめてしまおうか。何のために映画を撮るのか、自問自答と他人との関わりの中で探っていく様は、なんだか

もっとみる