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私は今もあの頃を 忘れられず生きてます~読書note-15(2023年6月)~

足利市の三大宝の持ち腐れの一つである(他の二つ?知らんけど)森高千里の「渡良瀬橋」の歌碑、移設の話が持ち上がっているようだ。現在の場所には目立つ看板も駐車場も無く、足利市民としては「もっと上手く活用できないものか?」と何とも悩ましかった。しかし、近くにハンバーガーショップや産直市場とその駐車場が来年4月にオープンするらしく、歌碑もその敷地内に移設する計画があると

先日のブラタモリの奈良・吉野特集で、「吉野の桜」を全国的に広めたのは、僧侶であり歌人でもあった西行だったと。西行の詠む歌で、「吉野と言えば桜」というイメージが全国に広がった。そう考えると、同じように森高が全国的に広めてくれたのは「渡良瀬橋の夕日」だったなぁと。そう、「渡良瀬橋」と「夕日」はセットなのだ。

現在の歌碑の場所は、渡良瀬橋と夕日と歌碑を三点セットで楽しめる。トップ写真のように今の時期(夏)は、夕日が渡良瀬橋より右手の八雲神社のある足利公園の山に沈む感じだが、秋から冬にかけては、渡良瀬橋の奥に夕日が沈み、手前に歌碑があり、その三つが織りなす美しい風景が一つの画角に収まるのだ。しかし、移設候補地は橋の西側のため、三点セットどころか、橋と夕日の二点セットすら撮れない。

個人的には、歌碑は移設せず、しっかりと案内サインを設置して、新しく出来る駐車場から徒歩で誘導すればいいかなと。数百メートルの距離なので、歩いても数分だ。そして、バーガーショップで「渡良瀬橋バーガー」でも「森高千里プロデュースバーガー」でもいいので、売ったらいいのでは。そのバーガー片手にビールでも飲んだら、気分爽快に違いない。



1.理由 / 宮部みゆき(著)

先月久しぶりに宮部みゆきさんを読んで面白かったので、昔読んだような気もするが、裏表紙のあらすじ読んでも全然思い出せなかった直木賞受賞作を購入。やっぱ読んでなかったようだ。殺人事件の関係者数十人のインタビューで物語が進む、このドキュメンタリー的手法は、一度読んだら覚えているはずだもん。

荒川区の高級マンション「ヴァンダール千住北ニューシティ」のウエストタワー2025室で起こった一家四人殺人事件には、人生の歯車が狂ってしまった幾つもの家族・人々が関わっている。「ホワイダニット」、「フーダニット」が、刑事や探偵の捜査や追及によってではなく、事件後の関係者数十人の証言により徐々に解明されていく。

バブル崩壊、競売、占有屋、偽家族等々、現代社会の闇、悲劇、諦め、何とも暗く切ない話が最初から最後まで淡々と続く。事件のルポタージュ刊行のための関係者へのインタビュー、という形で物語が進むので、そうなるのは当たり前だが。第三者的というか、様々な角度から事件が語られるので、諦観しているようであり、生身の人間の証言なので温かみも感じるようで、不思議な感覚に陥る。

そう、何事にも「理由」があるのだ。会社が上手く行かないのにも、自分が妻に愛想尽かされたのにも。


2.店長がバカすぎて / 早見和真(著)

先月読んだ「ザ・ロイヤルファミリー」に心を揺さぶられたので、早見さんの他の作品を読んでみたいと思って、早速本屋で見つけたこのキャッチーなタイトルの本を購入。これも先月読んだ「お探し物は図書室まで」は、図書館の司書さんにまつわる話だったが、こちらは吉祥寺の中堅書店の契約社員である書店員・谷原京子が主人公の話。

いずれにしても、本が好きで好きでたまらない、特に自分と同じく小説が大好きな、文芸担当の谷原さんに速攻で感情移入してしまった。超多忙なのに給料が安く、後輩のアルバイト店員たちは生意気で、おまけに上司である店長・山本猛がバカすぎる、「こんな店、辞めてやる!!」と谷原さんでなくとも思うだろう。

しかし、自分の好きな、そして、自分が素晴らしいと思った本をより多くのお客様のもとへ届けたい、との情熱は冷めることなく、次々と襲うトラブルに巻き込まれながらも、ずるずると続けて行くうちに、バカだと思っていた店長に対する見方や後輩達との関係も変わって行く。何か殺人事件が起こる訳でもないが、徐々に謎が解けて行くミステリー仕立てとなっており、最後には壮大な伏線回収が待っている。

店長に関する伏線回収は、今思い出すだけでニヤッとしてしまう。そうきたかと。何ともホッコリとする本だ。書店員さん達の思いがリアルに伝わってきて、なぜ、世の人々が「本屋大賞」に一喜一憂するのか、少し分かった気がする。自分の周りには、あまり本好き、特に小説好きの友人がいないので、谷原さんと飲みながら好きな作家さんの話でも一晩中してみたい。


3.一人称単数 / 村上春樹(著)

昨年12月に「女のいない男たち」を読んで、久々に自分がかつてハルキストだったことを実感したが、本屋で漫画家・豊田徹也さんが描いたこの本のカバーが目に留まり、「女のいない…」同様、読みやすい短編集だということで思わず購入。

8編の短編小説集とあるが、エッセイなのか小説なのかよくわからないものもある。表題のとおり、全ての物語が一人称単数(「僕」や「ぼく」、最後の表題作のみ「私」)で語られているので、それが村上春樹自身が語っているように感じられ、自伝的小説、私小説、はたまたエッセイのような体を成している。「ヤクルト・スワローズ詩集」なんて、スワローズファンの作家の話なので、完全にエッセイだろうと。

大学時代のバイト先で知り合った、歌集を作っている女性と一晩を共にした「石のまくらに」、高校時代に付き合った女性との想い出とその兄との再会を描いた「ウィズ・ザ・ビートルズ With the Beatles」、これまで知り合った女性の中で一番醜かった女性を回想する「謝肉祭(Carnaval)」、鄙びた群馬の温泉宿で人間の言葉を喋れる猿がそれまでの人生(猿生!?)を語る唯一のファンタジー作品「品川猿の告白」、この4編が面白かった。

中でも「ウィズ・ザ・ビートルズ…」は、偶然、必然、運命というものを考えさせられた。神戸の高校時代の彼女の家へ行った時、彼女が留守だったので引きこもり中だった兄と応対し、なぜか芥川龍之介の「歯車」を朗読する羽目に。その後、大人になって東京で偶然、その彼女の兄と出会う。それは何を示唆するものなのか。

今ここにいる「俺」は、過去に様々な経験をし、いくつかの分岐点で一つの道を選んで、ここに存在している。あの時、あんな経験をしなかったら、あの道を選ばなかったら、今の「俺」は存在していないんだなぁと。


4.本日は、お日柄も良く / 原田マハ(著)

自分は今まで、人前でスピーチすることが多い人生を歩んできたと思う。大学時代の山岳同好会や前の会社のヨット部では主将を務めていたので、メンバーの前で話す機会が多かったし、生保の所長時代は、営業職員さん達を前に、毎朝1時間の朝礼をしていた。足利に戻ってからも、青年会議所の理事長や小・中・高のPTA会長に小中学校PTA連合会会長等々を務めたので、総スピーチ数は1000は超えているのではないか。

だからと言って、スピーチをするのが好きかと聞かれると、それほど好きではない。緊張するし、噛んだら凹むし。でも、スピーチ原稿を考えるのは好きだ、というかスピーチ原稿を考えている時間が何よりも幸せと感じる。よく「これ商売にならないかなぁ?」などと思ったものだが、れっきとした「スピーチライター」という職業があるようだ。この本は、普通のOLが「スピーチライター」として成長していく物語である。

製菓メーカーのOL二ノ宮こと葉は、想いを寄せていた幼馴染の今川厚志の結婚式に最悪の気分で出席していたが、そこで感動的なスピーチと出会う。伝説のスピーチライターの久遠(くおん)久美の祝辞だった。後日、会社の親友の結婚式のスピーチを頼まれたのをきっかけに、久美に弟子入りする。久美は野党第1党党首のスピーチライターであり、政策ブレーンでもあった。そして、後に厚志がその党の幹事長だった亡き父の弔い合戦で出馬することになり、こと葉がそのスピーチライターを任される。

今まで、政治家のスピーチはブレーンが考えているとは思っていたが、スピーチライターという専門職が原稿を考えているとは知らなかった。自分もある市議の後援会事務局長を長年務めていて、選挙の時いつも、もし候補者のスピーチ原稿を自分が考えれたら、どんなに楽しいだろうなとは思っていた。でも、うちの候補者は自分の言葉で喋りたい人なので無理だなぁ。

本の最初に書いてある「スピーチの極意 十箇条」や随所に挟まれる実際の素晴らしいスピーチを読むだけでも、買う価値あり。いや、ストーリーもこと葉の成長と共に、笑いあり涙ありで面白い。言葉の豊かさを知り、言葉の力で人の心を動かし、世界も変えることが出来る。そんなスピーチしてみたい。


5.ピエタ / 大島真寿美(著)

毎週聴いているSpotifyのキョンキョンのポッドキャスト「ホントのコイズミさん」に、著者の大島さんがゲストで来た回を聴いて、面白そうだと速攻で購入。今夏、キョンキョンがこの「ピエタ」を舞台でやるとのこと。読売新聞で読書委員をやっていた時にこの本と出会い、今の会社(株式会社明後日)は、この「ピエタ」を舞台でやりたくて立ち上げたと言っても過言ではないと。

18世紀の水の都ヴェネツィアが舞台、「四季」で有名な作曲家アントニオ・ヴィヴァルディが亡くなった所から物語は始まる。彼は生前、孤児を養育するピエタ慈善院で〈合奏・合唱の娘たち〉の指導をしていた。ピエタで育ちピエタで働く、かつての教え子エミーリアが主人公で、友人の貴族の娘ヴェロニカに、ある一枚の楽譜を探してほしいと頼まれる。高級娼婦のクラウディアら、ヴィヴァルディに縁のある女性達と会い、一枚の楽譜の謎を解くうちに、恩師の真の姿を理解していく。

エミーリア自身のかつての恋や、親に捨てられた運命に思いを馳せつつ、経営難に陥っているピエタの行く末を心配し奔走する姿が、ヴェネツィアの水路である「ゴンドラ」に乗って描かれる。そして、ヴェネツィアと言えば「カーニバル」、仮面を被った男女で溢れ返る街の盛り上がりが重要な箇所で描かれる。あぁ、ヴェネツィア、一度行ってみたい。

エミーリアの己の運命を恨みも悲観もせず、せつないながらも今を精一杯生きている姿に共感する。誰だって、今までの人生は否定したくないよ。先月読んだ「ザ・ロイヤルファミリー」のクリス同様、エミーリアの丁寧な品のある語りが胸に沁みる。

そう言えば、10年前の森高25周年の足利での復活コンサートは、妻と行ったんだよなぁ。結婚したての頃、サザンの年越しライブにいつか行ってみたいねと話してたので、先日発表になった今年9月のサザン45周年茅ヶ崎ライブ、妻を誘ってみたが断わられた。自分だけ、今もあの頃を忘れずに、夕日のきれいな街で生き続ける。

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