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世界の欠片

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ショートショートを公開します。
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『世界の欠片』もくじ

【作品紹介】[フィクション]

pixivに移転しました。
いずれこちらは削除します。

ショートショート集。

色んな世界の欠片たちを集めました。
不思議な世界観を目指しています。
ちょっとゾクっとしてもらえたら嬉しいです。

【水中藤】にて友人二人に朗読をしてもらっています。

よければこちらにもお越しください。

小説の長さについて

【もくじ】わすれたもの

ナイフ

夢であいましょう

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わすれたもの

[ショートショート]

 いつもと変わらない、けれど好きな音楽を聴きながら、いつもと同じ道を無心に歩く。そうすればいつものように気がついた頃にはマンションの前。それがいつも通りの生活。越してからほぼ毎日変わらず同じ日々。とはいえ、越してきて半年から一年しか経ってはいないはず。けれどどのくらい経つのか、はっきりとは覚えていない。ただ、もっとずっと前からここにいる気もしているのは何故だろう。
 ごくご

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ナイフ

[ショートショート]

 あれは夢だったのでしょうか?
 大学に向かう列車の中。
 私は二人と二人、向かい合わせで四人座れるボックス席に座っていました。私の席は通路側の進行方向を向いた席。彼女は斜め向かいのちょうど日光が当たる席。
 色は青白く、目鼻立ちははっきりとし、少し伏し目がちに本を読んでいたその目は鋭く、瞳は何をも映すことのないかのような漆黒で。
 私は彼女を一目見た時から何故か、ナイフの

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夢であいましょう

[ショートショート]

 それは家に帰る列車の中、窓を背にして二列向かい合わせになった席の真ん中が私の特等席でした。

 ある日疲れ果てていた私はいつものように目を瞑っていました。車両には私一人しかいなかったため、周りを気にする必要もなく、気づかぬうちに眠ってしまっていたのです。
 ふと目を覚ますと、辺りは真っ暗になっていました。しかしそれは、単純に日が暮れた暗さではありません。もしそうであるなら

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レモン

[掌編]

 初恋は叶わない。そんな話を聞いたのはいつだったろうか。レモンに例えられるそれは、甘酸っぱいものらしい。
 遊園地ではしゃぐ君にカメラを向ける僕。きっと二人は恋人同士に見えただろう。
 モデルを目指す彼女と、カメラマンを目指す僕。利害関係の一致というやつだ。いつだって二人で歩いている僕らを噂する友人たちに、問いただされては苦笑いで否定する。胸の奥が痛むのなんて気が付かないふりでやり過ご

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美少女感謝祭

[掌編]

 青から赤に変わる空を仰いで息を吐く。公園に響く五時のサイレンが、懐かしい歌を記憶の向こうから運んできた。
 思い出すのは彼女の笑顔とその声、名前を呼ぶ綺麗な形の唇。
 皆が噂するクラスメイトと付き合い始めたと、告白した時にはずいぶんと羨ましがられたものだ。友人たちにからかわれながらふと見た彼女は、目が合っただけで顔を赤くして。こっちまで恥ずかしくなって俯いた。
 勉強の出来た彼女と同

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[掌編]

 地面のないその場所は、ほんの少しの明かりもない。上下左右、前後もわからない空間に、ただただ立っていた。何故そこに立っているのかなんて気にもせず、じっと目の前の女性を見つめる。
 毎日見る同じ夢。会った事はないはずだけれどどこか懐かしい気がするその女性は、感情の見えない瞳からほろほろと涙を流していた。
 ゆるゆると持ち上げた手が彼女に届くまで数ミリ。耳障りな音が響き渡る。その時、彼女の

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[掌編]

 身体にかかる重みに耐えながら窓を見つめる。次第に遠ざかる地面は辺り一面に白い絨毯がひかれていた。
 一週間後にはまた戻ってくるのに、少しずつ離れる生まれ故郷に不安を覚える。白い地面は徐々に茶色く変わり、白い線が地上絵のように這っていった。
 家を出てから何度目かのため息が耳に届いた。心臓が今にも破裂してしまいそうに高鳴っている。
 北国生まれの私は、修学旅行で行った東京、大阪、奈良、

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闇夜に落ちる

[掌編]

 瞼を透かす明かりに、意識が覚醒していく。夢の中で泣いていた少年は小さな頃の自分だった。頬を濡らす何かが枕に落ちた気がして瞼を持ち上げる。いつもの天井が視界に広がった。
 雫を乱暴に拭って起き上がる。着替えようと服に掛けた手が寸でのところで留まった。どうやら俺は帰ってきてから着替えていなかったようだ。紺色のシャツはところどころが黒っぽく染まっている。
 服にかけようとした指先が震え始め

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夏花

[掌編]

 湿気を含んだ空気が肌にべたりと纏わりつく。
 腕を絡めるカップルや、子どもの手を引く親。沢山の人が目の前を横切り、ざわざわと騒音が耳に響いて離れない。
 ふと甘い香りがしてそちらに目を向けると、クレープの屋台に列ができていた。
 その向かいの屋台では父親が子供に射的を教えている。
 待ち合わせの時間まではあと五分。もう何度も時計を見ては左右を確認している。
 風に乗ってかすかに俺を呼

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向日葵とサイダー

[掌編]

「見て見て、でけえ」
 窓の外では友人がはしゃいで手を伸ばす。
 この蒸し暑い中、よくもまあ直射日光の当たる屋外で走り回れるものだ。
 とはいえ、夏休みだというのに会議の終わった生徒会室にこもっているのも暇なのだ。
 学校に来る途中で購入したサイダーが、汗をかいて机を濡らしている。
 いっそ友人と走り回ろうかとも思うが、いかんせん身体が重く、椅子から立ち上がる気にはなれない。
「お前も

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君の寝顔

[掌編]

 ドアを開けると、テーブルに突っ伏して瞼を閉じていた。
 どうやら勉強をしながら眠ってしまったらしい。
 今日は窓から差し込む日差しも温かい。まあ、仕方がないだろう。
 起こさないようにそっと近づき、顔を覗き込む。ああ、彼女らしい。
 気持ちよさそうに涎を垂らしている。
 くすりと一つ苦笑を漏らして、立ち上がった。側にある彼女のベッドからタオルケットを手に取り、肩にかけてやる。
 一瞬

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雨がくる

[掌編]

 ジリジリと鳴く蝉の声に暑さが増して感じた。教室の所々まばらに座っている生徒たちの中には、本人がいないのをいいことに友人同士隣や前後の席を取っている者もいる。
 なかなか来ない担任を待ちながら机にうつ伏せていると、背後からぽそりと声がした。
 脇の下からそっと覗きこむと、一人の生徒が窓を見つめていた。
「雨がくる」
 恐らく私以外には聞こえていないその声は淡く消えては繰り返される。気味

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とんだ

[ショートショート]

「あ。とんでる」
 汚れたスニーカーを見つめながら歩いていると、女性が私の後ろで呟いた。

『お前さ、空気読めよ』
 心地よい風に煽られながら息をつく。ベランダから見下ろした工場地帯のこの町には、灯りも人の気配も少ない、なんの見所もない夜景が広がっている。聞こえるものといえば、バイクとパトカーが追いかけっこをする音くらいだ。
『どういう意味ですか?』
 ただ一言、メールを返

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