君の寝顔
[掌編]
ドアを開けると、テーブルに突っ伏して瞼を閉じていた。
どうやら勉強をしながら眠ってしまったらしい。
今日は窓から差し込む日差しも温かい。まあ、仕方がないだろう。
起こさないようにそっと近づき、顔を覗き込む。ああ、彼女らしい。
気持ちよさそうに涎を垂らしている。
くすりと一つ苦笑を漏らして、立ち上がった。側にある彼女のベッドからタオルケットを手に取り、肩にかけてやる。
一瞬彼女がもぞりと動いた。起こしてしまったのかと思ったが、どうやら身じろぎをしただけだったようだ。
ほっと息を吐き、テーブルの上のグラスを手に取る、中に残った液体は、甘酸っぱい香りがする。
橙色のそれを喉に流すと、溶けた氷で薄められたせいか、ひどく不味く感じた。
暫くの間部屋にあるマンガを読んで時間をつぶす。もう一時間も経つのだが、彼女の起きる気配はない。
このまま放っておくわけにもいかないので、仕方なく彼女を抱き上げる。いわゆるお姫様だっこというやつだ。
きっと起きていたらひどく嫌がっただろう。
そっとベッドに下ろし、タオルケットをかけ直す。
ふと、微笑んだ気がした。
もう一度覗き込むと、先ほどと変わらない寝顔がそこにある。
柔らかそうな黒い髪がさらりと顔に流れた。ゆっくりと手を伸ばし、髪を耳にかけてやる。
思った通りふわふわとした髪質に、引っ込めようとした手が勝手に伸びた。
おでこの辺りからかきあげ、さらさらと撫でる。
彼女の髪を撫でたのは、もうどれくらいぶりだろうか。
互いに年頃という事もあって、なかなか触れるわけにもいかないのだ。
彼女の寝顔を見つめていると、どうしても考えないようにしていた思いが胸を占める。
決して口には出来ないけれど。
どうして君は俺の妹なのだろう。
了
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