闇夜に落ちる
[掌編]
瞼を透かす明かりに、意識が覚醒していく。夢の中で泣いていた少年は小さな頃の自分だった。頬を濡らす何かが枕に落ちた気がして瞼を持ち上げる。いつもの天井が視界に広がった。
雫を乱暴に拭って起き上がる。着替えようと服に掛けた手が寸でのところで留まった。どうやら俺は帰ってきてから着替えていなかったようだ。紺色のシャツはところどころが黒っぽく染まっている。
服にかけようとした指先が震え始め、頭のてっぺんからすっと冷たい空気が下りてきた。
部屋を見回すと、今まで貰ったカミサマからのプレゼントが転がっている。
ゲームと玩具、憧れていた彼女と撮った写真、大量のお菓子や飲み物、大きなバッグに詰まったお札、赤黒く染まったナイフ。
こんこんとドアを叩く音が聞こえた。それと同時にチャイムが鳴る。続いて聞こえるのは俺の名前。慌ててベッドから降りると、テーブルの上に載った小さなケースが見えた。
学校からの帰り道、出会った少女から渡されたそのケースには、七つあったはずの小さな白いタブレットが一粒だけ残されている。
飲めば何でも願いが叶うと微笑んだ彼女は、それ以来姿を見せてはいない。
鍵を回す音に焦った俺は、そのタブレットを手に出して口に含んだ。この状況をどうにかしてくれと願いながら飲み下す。名前を呼ぶ彼女の声に、俺の中の何かがずるりと落ちた。
ずきりと頭が痛む。眉間に皺を寄せて目を開けると、闇夜の中あの少女が俺の顔を覗き込んでいた。ああ、俺は彼女の術中に嵌っていたのだ。
「おはよう、お兄ちゃん。これでやっと一緒にいられるね」
そう微笑む彼女の顔を俺は知っている。あの頃はもっと小さな赤ん坊だったけれど。
「寂しかったね」
呟いてから、もうずっと昔に亡くした妹の頬に手の平を添えた。
了
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