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#小説
壁の都市(短篇小説)
パートナーが寝室の壁に絵を描きはじめた。私が、賃貸なのにそんなことをしたら修繕費を取られると苦言を呈すると、彼人は、わかっている、自分が支払いをするから大丈夫だと言った。
私は在宅仕事のあいまに寝室を覗き、そのたびに絵のなかに小さなビルディングが建っていくのを見た。どういった絵なのか聞くと、街の絵だと教えてくれた。パレットには、ブラックとホワイトとブルーとパープルとイエローが乗っていて、逆に言
手の写真(掌篇小説)
大学構内のカフェテラス(無人販売)で、デジタル一眼レフカメラのディスプレイを確認していると、その人が私の横に立った。
そして「私の手の写真を撮ってくれない?」と言った。私はいささか困惑した。面識のない人に、いきなりそんなふうに要求されたら誰でも不審感をおぼえるに違いない。
その人物は――守基(まもき)さんという他学科の同級生であるのをあとで人づてに知った。たしかに目の前に差し出された彼女の手
文字の涙(掌篇小説)
あなたの目から数珠繋ぎの文字が流れる。あなたは目をしばたかせ、涙だと言った。しかしそれは勘違いらしく、右の涙腺から溢れているのはどうやら湿った文字のようだった。見慣れた平仮名や片仮名や漢字やアルファベットではなくて、見たこともない不思議な文字だった。
あなたはそれをつまんでするすると引き寄せる。すると途切れることなく一本の縄状の文字の集まりが現れた。
あなたはラプンツェルみたいだと言い、私に