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連載小説・海のなか

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とある夏の日、少女は海の底にて美しい少年と出会う。愛と執着の境目を描く群像劇。
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小説・海のなか(44)

小説・海のなか(44)

次の日も、その次の日も夕凪は俺を待っていた。俺はその姿を見るたび、何か責められているように感じた。そしてようやく気がついた。夕凪がいなかったあの日、自分が傷ついていたということに。そして傷を持て余し、憤っていたということに。 
 俺は夕凪を赦したかった。もともと怒るのは得意ではない。そういえば今までまともに怒ったことがない。自身の怒りにすら遅れて気がつくのだから、当然うまい怒り方もわからなければ、

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小説 ・「海のなか」まとめ7

小説 ・「海のなか」まとめ7

どうも。
クロミミです。
新年度になり正直クソ忙しいですが、なんとか今年中に最後まで本作を描き上げたいですね。

さて。そんなわけで今回は連載小説「海のなか」のまとめをお送りします。
今まで読んでくださっている方も、正直更新頻度ゴミすぎて忘れちまってることでしょう。そんな時はまとめ記事を読みましょう。各回のあらすじが載っていますよ。

そんなまとめ記事も今回で7回目。張り切って参ります。今回は「海

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連載小説・「海のなか」登場人物紹介

連載小説・「海のなか」登場人物紹介

「海のなか」もいよいよ最終局面になってきました。以下の登場人物紹介を読んで完結までお付き合いいただけると嬉しいです。今回の登場人物紹介は今までのまとめ記事に載せていたものに大幅加筆しています。以下には「海のなか」(39)までのネタバレも含みますのでご注意下さい。

【海のなか あらすじ】

とある夏の日、少女・夕凪は海の底にて美しい少年と出会う。少年は夕凪と昔会ったことがあると告げて…。愛と執着の

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小説・海のなか(36)

小説・海のなか(36)

※今回は海のなか(35)と(36)は連続更新になります。近日中に(37)も更新予定。

***

 無理に走り出したせいで、走り方はまだどこかぎこちなかった。さっきまでのあまりにも自分らしくない強引なやりとりに、いまだ浮き足立っている。きっと俺の演技はバレてしまっているだろう。
 羞恥に顔を熱くしながら、俺は全速力で帰路についた。今日の夕凪を思い起こすと熱っているはずの体がスッと冷めていくような恐

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小説・海のなか(33)

小説・海のなか(33)

今までのあらすじ

高校2年生の少女、小瀬夕凪は海で遊んでいて、溺れてしまう。溺れた先で彼女はある不思議な「青」と名乗る少年と出会う。
結局、夕凪は数日後海辺に打ち上げられる形で発見され、日常へと戻る。しかし、夕凪は青の存在が忘れられない。結局、再び海へと潜り青との再会を果たすのだった。青との逢瀬を繰り返すにつれ、夕凪は自分がある過去を忘れていることに気がつく。すると、青は夕凪にこう告げた。「全て

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小説・海のなか(11)

小説・海のなか(11)

***

 外に踏み出すと、すでに薄暮が降りていた。あれが最後の夕日だったらしい。と、殊更に赤く染まっていた夕凪の頬が頭を過ぎる。違和感を覚えて掌を上に向けてみると、僅かに濡れる。霧のような雨が音もなく降っていた。思わず顔をしかめた。雨に濡れるのは好きではない。眼鏡をかけている身としては尚更だ。
 舌打ちでもしたい気分で走り出した。何かの報いを受けたような気がした。夕凪の家からそう遠くない距離に我

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