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旅をするわたし

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世界は広くて狭いと思ったこと

世界は広くて狭いと思ったこと

わたしが通っていた地方の私立高校の目玉行事は修学旅行だった。

行き先はコロナ以前は毎年アメリカ西海岸、サンフランシスコとロサンゼルスだった。

当時、クラスに馴染めていなかったわたしは修学旅行が嫌で堪らなかった。
集合場所の最寄り駅で、送ってくれた親の車の中で「行きたくない」と涙をこぼす友人の手を引いて、わたしは修学旅行に出発した。

機内でも制服着用のため10時間近いフライトは、苦しくて人生で

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心の片隅の国へ -広告のない街-

心の片隅の国へ -広告のない街-

タシチョ・ゾンを見学したあと、またホテルへと戻り、わたしは一人ティンプーの街へ繰り出した。

ティンプーの象徴とも言える信号と時計台広場を眺め、写真を撮って歩く。目をつけていた土産物屋、ドドおばさんの店へ入り、ブータンの伝統的な織物を物色し、気に入ったものを数点購入した。ドドおばさんは大変気の良い女性で、わたしが手に取るもの、見つめるものを一つ一つ訛りの強い英語で説明してくれた。

キラ(ブータン

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心の片隅の国へ -旅先で本を味わう-

心の片隅の国へ -旅先で本を味わう-

小高い場所からティンプーの街並みを眺めた後、高所に鎮座する黄金の大仏を見物へ行った。

先程のこぢんまりとした風景からは、想像できないほど、華美で荘厳の大仏を眺め、高所へゆっくりと身体を慣らしてゆく。

周囲には何もない長閑な場所に輝く大仏は、何ともアンバランスで、少し面白おかしく感じてしまう。

大仏と寺院を一通り案内してもらった後、有名なブータンの郵便局へ連れて行ってもらい、自分の写真の入った

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心の片隅の国へ -手の平のなかの小さな街-

心の片隅の国へ -手の平のなかの小さな街-

しばらくすると、ひとつの谷底に広がる街へ入った。ブータンの小さな首都、ティンプーである。

ほとんど一本道のメインストリートを車が行く。建物は高くてせいぜい4階くらい。小な街である。

日本に留学でいたというガイドが、時計台のある広場を指して言う。

「日本の渋谷みたいなところです。」

広場には誰一人いない。
広場の真横だったホテルへチェックインだけ済ませて、また車へ乗り込む。

ブータン唯一の

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心の片隅の国へ -高揚と安心感の狭間-

心の片隅の国へ -高揚と安心感の狭間-

中高生の頃に熱中した作家、伊坂幸太郎さんの『アヒルと鴨のコインロッカー』には、ブータン人が登場する。

殺生を嫌い、優しく実直な少年。石を下手で投げて遠くの旗に当てるテゴが得意。

物語の鍵を握る彼のような人が住む国へ行ってみたい。その思いは大人になっても変わらず、学生のうちに絶対にブータンへ行くと決めていた。

大学4年生の冬、最後の長期休暇にわたしはブータンへ行くことを決めた。初めての海外一人

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