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20代の限界介護士。なんでもない日常や本や旅、映画の話…その他なんでも思ったことを綴っ…

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20代の限界介護士。なんでもない日常や本や旅、映画の話…その他なんでも思ったことを綴って行きます。

マガジン

  • 本についての徒然

  • 旅をするわたし

  • 不眠症女の映画記録

最近の記事

尊厳ある人生を送るために

先日、再び卒業した大学を訪れた。 介護士となって、日々仕事をする中で自分の中にある強い正義感や責任感に頭を悩まされ、間違っていないと思いたいのに、それを嘲笑われるような雰囲気に辟易していた。 大学の図書館で5年前のわたしが書いた卒業論文が額装されているのを初めて目にした。 大学生の頃、わたしは貪欲に学び、学科や学部を超えていろいろなことを吸収しようとしていた。 当時は、目の前のことで精一杯で自分が頑張っていたことも多くのことを学ぼうと手を伸ばしていたことも分からなかった

    • emergencyの女

      わたしは母から「emergencyの女」、「緊急事態の女」と呼ばれている。それは、あたふたする家族や同僚の中で、わたしが緊急事態に迅速に対応し、的確な判断を下せるからである。 ある時、妹が深夜に自転車で帰宅途中、派手に転倒して血まみれで顔を腫らせて帰ってきた。 動転して妹の顔を見ることさえできない母、救急外来にかかるべきだと怒ったように主張する父で、家の中はパニック状態だった。 そんな中わたしは、血まみれの妹の顔を濡らしたタオルで拭い、腫れた顔に即席のクーリングを施して

      • 過呼吸と地球のどこか

        職場で問題が起こり、わたしは今日久しぶりにひどい過呼吸を起こした。 わたしが書いた報告書を見て、ある職員がわたしをひきづって、暴言を吐いた。 わたしは固まって、次から次へと彼女の口から出る罵詈雑言に身をすくめていた。 気づいたら頃には、床に蹲って過呼吸を起こしていた。 このまま死んでしまうのではないか、という恐怖が湧き上がっていつもの対処もままならない。 別の職員が駆けつけてわたしの口に鼻まで覆うようにしてビニール袋を押しつけた。 苦しくて苦しくて、本当に死んでし

        • おだやかな人生なんて、あるわけがないですよ

          自由で、芯があって、でも不自由で、時折鬱に見舞われ、創作をし、世界を作り上げる。 わたしはそんな女性が好きだ。 ムーミンシリーズの産みの親、トーベ・ヤンソンもその一人。 舞台演出家ヴィヴェカとの激しい恋、ようやく見つけた人生のパートナー、トゥーリッキとの仲睦まじい生活。 過酷な時代を生き抜き、それでも画家としてのプライドを捨てなかったトーベの人生は、穏やかなムーミン谷とはかけ離れているけれど、切り離すことはできないものだ。 なんでこんなにトーベに惹かれるのだろう。

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        • 本についての徒然
          14本
        • 旅をするわたし
          5本
        • 不眠症女の映画記録
          5本

        記事

          フランス革命に惹かれ、開拓期アメリカに導かれる

          読書を習慣としていると、読む本読む本に連続して同じ単語が出てきたり、意図せず連鎖的に同じテーマの本を読み続けていたりする。 まずわたしに、鮮烈を与えたのは入院に際して持って行った幾冊か本にヴィクトル・ユゴーの『レ・ミゼラブル』が登場したことだった。 『レ・ミゼラブル』の存在は、前から知っていた。お気に入りの俳優エディ・レッドメインに釣られて映画館にも赴いたし、大学のキリスト教入門の授業でも取り上げられた。 しかし、文庫で5巻もあるそれを自ら買おうとは思わなかった。しかし

          フランス革命に惹かれ、開拓期アメリカに導かれる

          人はひとりでは生きていけないのだから

          6月20日、大阪地裁で「婚姻の平等」を求める「結婚の自由をすべての人に」訴訟の判決が下された。 判決は、同性婚を認めていない現行法は「違憲」ではないとして、原告の請求を棄却しました。 大阪地裁は、婚姻の目的が「生殖」だとする国側の主張を認め、婚姻を「男女が子を産み育てながら共同生活を送る関係」と捉えた。 婚姻制度は、「男女が子を産み育てる関係を社会が保護する」という「合理的な目的」によって、歴史的、伝統的に社会に定着している制度なのだという。 わたしはこの判決に強い怒

          人はひとりでは生きていけないのだから

          人間の本質という穴を掘る

          近代から現代の文学は、人間の本質という穴を掘っている気がする。 人の心の機微、うつろいを通して人間の本質を掘り進めているような感じ。 でも、もうそれもだいぶ頭打ちである程度掘られた穴の底で大きな岩にぶち当たっているような感覚。 近年の社会の不均衡を描きながら、先人たちが掘り進めてきた穴の周辺を様々な手法を使ってぐるぐる回っているような。 これが人間が人間を知る限界なのだろうか。 わたしは人間を知るために、人間の可能性を信じるために本を読む。 わたしは馬鹿だから熱心

          人間の本質という穴を掘る

          世界は広くて狭いと思ったこと

          わたしが通っていた地方の私立高校の目玉行事は修学旅行だった。 行き先はコロナ以前は毎年アメリカ西海岸、サンフランシスコとロサンゼルスだった。 当時、クラスに馴染めていなかったわたしは修学旅行が嫌で堪らなかった。 集合場所の最寄り駅で、送ってくれた親の車の中で「行きたくない」と涙をこぼす友人の手を引いて、わたしは修学旅行に出発した。 機内でも制服着用のため10時間近いフライトは、苦しくて人生で最も辛いフライトだった。 家族旅行以外で海外に行くのは初めてで、しかも細切れの

          世界は広くて狭いと思ったこと

          わたしと信仰の本当の出会い

          紆余曲折はありながらもわたしは、わたしなりの人生を真っ直ぐに歩んでいるつもりだった。 しかし、わたしはある日を境に障害者となった。わたしの障害は目には見えない。わたしの心の中に渦巻いており、わたしと社会との間に障害を作っている。 数年前からわたしは、「苦しい」と思っていることや消化しきれぬ悩みを誰にも話せないでいた。それは、わたし自身の問題であって、助けを求めるべきことではないと思っていた。 心の中に溜まったどろどろとした感情が、心では対処しきれなくなって、身体に現れた

          わたしと信仰の本当の出会い

          【小説】ばんそうこう

          柔らかな素材の白い開襟ブラウス、スリットの入った黒いロングスカート、9センチのピンヒール。そんな格好であてもなく街を歩き続ける。道ゆく人は、誰も私のことなど気に留めない。美容院の予約時間はとうに過ぎている。今となってはもう行くつもりもない。何度か携帯に着信があったが、煩わしくて電源を切ってしまった。 また行く場所を一つ失った。明日になったら新しい美容院を探さなくてはならない。伸び切ってしまった髪は、もう自分ではどうすることもできないのだから、美容院に行く他ないのだ。束ねた髪

          【小説】ばんそうこう

          正しい人の道は、夜明けの光のようだ

          あまりにも苦しく、何度も本を閉じながら、それでも決してその物語を手放すまいとすがりつくようにして読んだ西加奈子さんの『夜が明ける』。 高校生の「俺」は身長191センチのアキと出会う。普通の家 庭で育った「俺」と、母親にネグレクトされていた吃音のアキは、共有できる ことなんて何一つないのに、互いにかけがえのない存在になっていった。 大学卒業後、「俺」はテレビ制作会社に就職し、アキは劇団に所属する。しかし、焦がれて飛び込んだ世界は理不尽に満ちていて、彼らは少しずつ、心も身体

          正しい人の道は、夜明けの光のようだ

          心の片隅の国へ -広告のない街-

          タシチョ・ゾンを見学したあと、またホテルへと戻り、わたしは一人ティンプーの街へ繰り出した。 ティンプーの象徴とも言える信号と時計台広場を眺め、写真を撮って歩く。目をつけていた土産物屋、ドドおばさんの店へ入り、ブータンの伝統的な織物を物色し、気に入ったものを数点購入した。ドドおばさんは大変気の良い女性で、わたしが手に取るもの、見つめるものを一つ一つ訛りの強い英語で説明してくれた。 キラ(ブータンの女性の民族衣装)の形をしたワインカバーを購入したら、ゴ(男性の民族衣装)の形の

          心の片隅の国へ -広告のない街-

          美しく躍動する生命

          2019年に世界同時発売されたカズオ・イシグロの『クララとお日さま』。 この本をわたしはかれこれ4回読み返しています。 『日の名残り』、『私を離さないで』の流れを汲む作品で、病弱な少女ジョジーとAIを搭載した人工友人クララとの心の交流を描いています。カズオ・イシグロの描く子どもは大変美しく、躍動する生命を感じることができます。 たとえば、少女が家に人工友人のクララを招いたのには、親のある思惑が隠されています。 この作品にも、私たちは知らないけれど彼らは知っている物事がたく

          美しく躍動する生命

          【小説】一月の女

           それは、スーパーの鮮魚売り場にぽつんと置いてあった。年も明けてしばらく経つ昼下がりのスーパーは閑散としていた。鮮魚売り場でしばらくの間それと向き合ってから、私はスーパーを一回りした。手にするべきものはなにもなく、スーパーのBGMに頭痛がしてきた頃、私はついにそれを手にした。  それだけを片手に掲げレジへ並ぶ。人の少ない時間帯だからレジは、一つしか開いておらず中年の女性が一人会計をしていた。足下の目印に従って中年女性の後ろに立つ。中年女性は購入品が多かった。野菜や肉、特売の

          【小説】一月の女

          汝の光を輝かせ

          「らんたん」と聞くと懐かしい気持ちがする。大学生活で慣れ親しんだ言葉。 そんな『らんたん』という本が発売されていた。本屋で目を引いた2人の女性がクリスマスツリーの前で微笑み合う表紙。 手に取ってみると河井道の文字! わたしが4年間を過ごした学園の創設に関わる物語だった。 大学の卒業式、一つのランタンから卒業生一人ひとりが手にしたろうそくに光を灯し、大教室が光の海になる。学園生活最後に目にした美しい光景。 そんな大学をわたしは今年の10月に訪れていた。目の前の道が塞がれ

          汝の光を輝かせ

          自分を失わずにいるための心の救急箱

          久しぶりの更新になってしまいました。 ご無沙汰しております。 不安定ながらも落ち着いた生活を送っております。 それは、ひとえに本の存在が大きいと思うのです。 わたしの部屋には小さいながらも豊かな本棚が存在する。 100冊ほどが入っており、4畳半の狭い部屋のなかでも存在感を放っている。 毎朝、家を出る前にわたしはその本棚を5分ほど見つめる。 外の荒波に晒されて心が輪郭を失ってもこの本棚には、わたしを作り出すたくさんの要素が入っている。 本棚にある本の一冊一冊が、与えてくれ

          自分を失わずにいるための心の救急箱