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心の片隅の国へ -広告のない街-

タシチョ・ゾンを見学したあと、またホテルへと戻り、わたしは一人ティンプーの街へ繰り出した。

ティンプーの象徴とも言える信号と時計台広場を眺め、写真を撮って歩く。目をつけていた土産物屋、ドドおばさんの店へ入り、ブータンの伝統的な織物を物色し、気に入ったものを数点購入した。ドドおばさんは大変気の良い女性で、わたしが手に取るもの、見つめるものを一つ一つ訛りの強い英語で説明してくれた。

キラ(ブータンの女性の民族衣装)の形をしたワインカバーを購入したら、ゴ(男性の民族衣装)の形の同じものをおまけしてくれたりもした。

ガイドは"ブータンの渋谷"というが、そこは静かで時間のゆっくり過ぎる温かい街。

そして、何よりもわたしの心を安らがせたのは、街中に広告がないことだった。

日本にいれば、どこにいようと目を痛くするほどの広告が溢れかえっている。街で、電車で広告を目にするたび、わたしはげんなりする。

"毛を抜け"、"英語を学べ"、"投資をしろ"…覆いかぶさるように街中にひしめく広告に囲まれていると身の縮む思いがする。

鬱陶しくて仕方なかった広告が、この街には見当たらない。それだけでなんと心が解放されることか。そんな街をわたしは一人、意気揚々と歩く。

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