倉野

気負わず書いていきます。日記・エッセイ・小説・考察など。気になったことを、気が向いた時…

倉野

気負わず書いていきます。日記・エッセイ・小説・考察など。気になったことを、気が向いた時に。 ※ お焚き上げシリーズは過去に書いたもの

記事一覧

〈小説〉 秋桜の風

 康子の父が昔から仕えている土師氏は、箆津国を治める有力な豪族である。父はいつも土師氏現当主である倫明のことを、じつに立派な名君であると褒め称えていた。康子は実…

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3年前
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〈小説〉水底から見上げる

「あなたって、まじめなのね」  エイコはそう言って背を向けた。彼女はいつも風のようだ。そうやって翻す姿が、特にそんなイメージを私に抱かせる。こうしたところが特に…

倉野
3年前
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春の雪

不安に呑まれそうになる時が一番辛い。 不安しか見えなくなって、それ以外の何もかもが完全に閉ざされたように思えてしまう。 私の理想の現実はどこにもなくて、ただ過ぎ去…

倉野
3年前
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いつかの未来

あなたが与えてくれたものは数えきれなくて、でもたったひとつ、私が一番欲しいものは他の人にあげるのだと言う。 なにもかも与えてくれるのに、それだけはくれないと言う…

倉野
3年前
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観測されない量子体

わたしを構成する粒子が無意識のうちに離れて、あなたのところへ向かっていく。 わたしを中心としていたはずのそれらが、いつのまにかあなたの一部になるように寄り添って…

倉野
3年前
1

愛とはどんなものかしら

例えようもないほど美しく、限りなく広がっていて、独りきりで、全ての境界が曖昧で気が狂いそうな世界に戻りたかった。 わたしはずっとその世界に魅せられて、そこで生き…

倉野
3年前
2

夜のなか

私はこの絶望的な経験をするためにここに来たのだ。 夜の電車の中で、流れていく光を見ながら思う。 私がわたしに戻るために、ずっと探していた感情の破片。 ここにあっ…

倉野
3年前
2

二軸の現実

今すぐ死ねたらいいのに。 一緒にいる間、実はそんなことを思っていた。 なんて、小説だったらかっこいいけど。 本当は何も考えてなかった。 世界は満ち足りて完璧で、何…

倉野
3年前
1
〈小説〉 秋桜の風

〈小説〉 秋桜の風

 康子の父が昔から仕えている土師氏は、箆津国を治める有力な豪族である。父はいつも土師氏現当主である倫明のことを、じつに立派な名君であると褒め称えていた。康子は実際に倫明に会ったことはなく、父からそうした話を聞くばかりである。実際倫明がどういった人物なのか知らないが、少なくともこの辺りで倫明のことを悪く言う者はなかった。倫明の父、嘉明もすぐれた人物であったが、倫明はさらに人々に慕われているようだった

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〈小説〉水底から見上げる

〈小説〉水底から見上げる

「あなたって、まじめなのね」
 エイコはそう言って背を向けた。彼女はいつも風のようだ。そうやって翻す姿が、特にそんなイメージを私に抱かせる。こうしたところが特に魔性の魅力というやつなのかな、と思う。私にはない、エイコだけが持つ抗いがたい魅力。クラスの男子はみんな、エイコに一目置いている。年齢関係なく、エイコに夢中な者も大勢いる。

「そうかな、それはエイコだからそう思うんじゃない」
 背を向けたエ

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春の雪

春の雪

不安に呑まれそうになる時が一番辛い。
不安しか見えなくなって、それ以外の何もかもが完全に閉ざされたように思えてしまう。
私の理想の現実はどこにもなくて、ただ過ぎ去った記憶の中にしか存在しない。
あの色彩豊かな一瞬が、本当に、永遠に夢になる現実。
心が縮み上がる。腕から力が抜けて、指先が震える。
そんな怖い想像なんてしたくないと思うのに、時折思考に入ってくる。
一緒にいる未来。リアルに思い描くならそ

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いつかの未来

いつかの未来

あなたが与えてくれたものは数えきれなくて、でもたったひとつ、私が一番欲しいものは他の人にあげるのだと言う。
なにもかも与えてくれるのに、それだけはくれないと言う。

だったら私はあなたが要らない。
なにもかもなかったみたいに、最初からなかったみたいに。

でも、そんなのは哀しすぎる。
そう思うから、少し離れてただ愛していたいと肩肘を張る。
あなたがくれた数々のものは、わたしの中で息づいて、愛に育っ

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観測されない量子体

観測されない量子体

わたしを構成する粒子が無意識のうちに離れて、あなたのところへ向かっていく。

わたしを中心としていたはずのそれらが、いつのまにかあなたの一部になるように寄り添って。

あなたの気持ちが染み込むように分かってしまうのは、同じようにあなたの一部が、わたしのところに来ているから?

同じように、わたしの気持ちもあなたに染み込んでいるのかな。
言葉にならなくても。

何だったんだろうね。わたしたちは。

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愛とはどんなものかしら

愛とはどんなものかしら

例えようもないほど美しく、限りなく広がっていて、独りきりで、全ての境界が曖昧で気が狂いそうな世界に戻りたかった。

わたしはずっとその世界に魅せられて、そこで生きていくのだと思っていて、でもそこでの居場所を見つけられなくて、現実の居場所を探していた。

求めても求めても、与えられない答え。
その代わりに与えられる哀しみと失望。

憎しみや哀しみや孤独、そんな「負」と言われる感情は、わたしを大海に押

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夜のなか

夜のなか

私はこの絶望的な経験をするためにここに来たのだ。

夜の電車の中で、流れていく光を見ながら思う。

私がわたしに戻るために、ずっと探していた感情の破片。

ここにあった。心の底から愛しいと思えることと、必要とされない現実と。

あなたはわたしを残して去っていく。

なんの約束もなく、なんの後悔もなく、ただ「楽しかった」という言葉だけで。

同じくらい痛みを抱えていたとして、わたしと分かち合う気はな

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二軸の現実

二軸の現実

今すぐ死ねたらいいのに。

一緒にいる間、実はそんなことを思っていた。
なんて、小説だったらかっこいいけど。

本当は何も考えてなかった。
世界は満ち足りて完璧で、何も言うことが思いつかなかった。

終わるなんてことも思いつかなかった。

あなたがいかに傲慢で冷たくて、哀しいほど寂しい人であっても、私はあなたと居られるだけで全てが完成されて安全な世界にいた。

現実的じゃないほど美しく胸を打つ夜景

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