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春の雪

不安に呑まれそうになる時が一番辛い。
不安しか見えなくなって、それ以外の何もかもが完全に閉ざされたように思えてしまう。
私の理想の現実はどこにもなくて、ただ過ぎ去った記憶の中にしか存在しない。
あの色彩豊かな一瞬が、本当に、永遠に夢になる現実。
心が縮み上がる。腕から力が抜けて、指先が震える。
そんな怖い想像なんてしたくないと思うのに、時折思考に入ってくる。
一緒にいる未来。リアルに思い描くならそっちの方がいいのに、どうせ叶わないと思って諦めてるのかな?

あなたが選んだ相手の話を聞くのは辛い。
片割れと呼ぶほどに、心を預けていることが。
私がそう在りたくて、なれなかったから?
私はわたしの理想になれなかったことが悲しいのかな?
わたしはただ、あなたと一緒にいたかった。
猫だったら良かったと思ったこともあった。
そうしたら拾い上げて、連れて帰ってもらえたかもしれないのにね。

本当に、本当に、この出会いは残酷で、なによりも鮮烈だった。春風の中を舞う雪みたいに、きれいで哀しい奇跡だった。

分かりたくなかったよ。
知らないうちに愛していたことも、たしかに愛されたのだと思えることも。



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