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ジンジャーハイボールと彼

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木原百合はウェディングプランナーとして働く27歳。たまたま居合わせた場所で出会った日下部仁、30歳との出会いが大きな変化をもたらした。二人は、仕事も出来てリア充に見えるが。実は… もっと読む
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記事一覧

ジンジャーハイボールと彼 21 ~最終話②~

ジンジャーハイボールと彼 21 ~最終話②~

〜最終話①の続き〜

 日下部さんに住所を送ると、すぐに“そんなに遠くないね。20分くらいで着くから”と返事が来た。

 日下部さんは、ほとんどスタンプを使わないのに、これ以上は泣かせてはいけないと思われたのか珍しくスタンプも届いた。

 大丈夫かな。なんだか、面倒くさい女になっている気がする。

 私だって、今までそんな素振りしてこなかったのに、変な質問して勝手に泣き出して、こっちにまで来てもら

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ジンジャーハイボールと彼 20 〜最終話①〜

ジンジャーハイボールと彼 20 〜最終話①〜



 小樽市の小樽協会病院は海の近くにあった。最寄りの南小樽駅は、駅舎が古く趣のある雰囲気を醸していた。

 そこから歩いてすぐだったので、道を間違えることなく見つけることが出来た。
 お見舞いの花は、長い入院ではないと聞いたので小さなサイズのものを用意していた。

「女将さん、来ちゃいました」
「あら!百合ちゃん、本当に来てくれたのかい」
「はい、息子さんからお店で聞いてから、行かなきゃと思

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ジンジャーハイボールと彼 19  〜移ろいゆく心の花〜

ジンジャーハイボールと彼 19 〜移ろいゆく心の花〜

 9月がスタートした。すでに秋の涼しさとなり25℃前後の日が続いていた。今後の予報を見ても上がって27℃のようだった。

 去年の夏は、9月に入っても暑い日が続いており、北海道には珍しく30℃近くの日が1週間ほどあったのを思い出す
「今年は涼しくなるのが早いなぁ」


 来月には再び、秋の繁忙期がやってくる、そのため今月は打合せのピークでもあった。

 気持ちは、繁忙期に向けて気合いが入ってい

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ジンジャーハイボールと彼 18 〜新しい感情〜

ジンジャーハイボールと彼 18 〜新しい感情〜



 さっぽろ駅近く、東急百貨店のテラスでリゾートビアガーデンが開催されていた。 
 リゾート地をイメージしたおしゃれな雰囲気で料理もそれなりのものが出るだけあって、通常のビアガーデンよりお値段が高めに設定されている。人気があるのは明らかだった。

 日下部さんと伊藤さんが先に席をとっておいてくれていた。

「香澄、こっちこっち!」

 伊藤さんが笑顔でこちらに手を振る。横の日下部さんも笑顔で軽

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ジンジャーハイボールと彼 17  ~Z世代の育成~

ジンジャーハイボールと彼 17 ~Z世代の育成~

 外から職場に入ると気温の変化に体が追い付かない。この季節に黒いパンツスーツの上下はきつい。

 今日は、少し職場に行く足が重かった。
 先日、職場から届いたメールに私が担当している新人が大きな失敗をしたとの連絡があった。
 お客様への謝罪についてと、今後のためにその後輩へ指導をするよう長谷川さんから連絡が届いていた。

 私にとって、仕事はまだ好きだと思えるものだった。悩むことはあれど辞めたいと

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ジンジャーハイボールと彼 16  〜ピエロになった〜

ジンジャーハイボールと彼 16 〜ピエロになった〜

 二人は夏休みに入ってからランチによく来ていた喫茶店に入った。
 そこは、今の子たちが言うところのエモい(エモーショナル)雰囲気をした、カフェと言うより喫茶店と言いたくなる店だった。

 大手コーヒー店には、生徒たちが部活後に来ていることや親御さんが来ていることもある。
 ここは人通りが少なく、車でなければ来られないので二人にとって穴場の店となっていた。

「昔風ナポリタンと水出しコーヒー」
「え

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ジンジャーハイボールと彼 15  〜疑惑の2人〜

ジンジャーハイボールと彼 15 〜疑惑の2人〜


 Instagramは友人と遊びに行ったときの様子や外食時の料理を載せることが多かった。 
 最近では、購入した観葉植物や部屋のインテリアを載せることもあった。

 もう一つ、友人とは一切つながっていない裏アカウントがあり。そこには大好きなハン・ヘギョの画像やドラマの神回のシーンを載せていた。

 いつの日か、コメントが想像以上に届くようになった。
“このシーン大好き💛”
“いつも良い画像あ

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ジンジャーハイボールと彼 14 〜野生の勘〜

ジンジャーハイボールと彼 14 〜野生の勘〜



 さぁ、今日は待ちに待っていた日。
 韓ドラ「危ない兄弟」、略して「あぶブラ」の映画が上映する一日目の日だ。

珍しく土曜日なのにお休みで、初日に行くことが可能だなんて。

 あぶブラで主人公の男性がよくかぶっていた黒いキャップ、これに似たものを今日はかぶって行こう。
 常に反社会的勢力に追われていた主人公は、破れたデニムを履いていた。そっくりではないけど自分が持っている中で一番近いデニ

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ジンジャーハイボールと彼 13 〜月夜のビアガーデン〜

ジンジャーハイボールと彼 13 〜月夜のビアガーデン〜

「百合!大丈夫だった?!」
「遅れてごめんね。あ、待たせてしまってすいませんでした」

 金曜の今日はお休みだった。
 集合時間にぎりぎり着けるくらいに行動をしていたのに。

 自宅のオートロックを出ると一度も話をしたことのない隣人が鍵をなくしてしまったと困っていた。中に入られるよう協力していたら、約束よりも1時間も遅れてしまった。

「大変だったね、まさか実況しながら電話くれるとは思わなかった」

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ジンジャーハイボールと彼 12 〜消えない傷〜

ジンジャーハイボールと彼 12 〜消えない傷〜

 校舎はすでに建設から二十年は過ぎていたが、有名な建築家の設計らしく、そのモダンさは色褪せていなかった。
 ロの字型で、中庭を廊下から見ることが出来た。

 生徒玄関を上がった先には、目の前に木製のオシャレなベンチが4つほど置かれている。その右横の壁には大きな絵画があり、目の前に広がる中庭側の壁はすべてガラス貼りで中庭を一番見渡せる場所だった。

 学校祭も、終わりが近づいていた。
「あとは、キャ

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ジンジャーハイボールと彼 11 〜幽霊の正体見たり枯れ尾花〜

ジンジャーハイボールと彼 11 〜幽霊の正体見たり枯れ尾花〜

 職場の近くに、老舗の甘味処があった。
 今は寡黙な息子さんが経営しているようで、店にあまり出ることはなく母親なのか70代くらいのおばあさん女将が店に出ていた。
 ここに職場の人がくる様子を見たことがないので、入社してから長らく私の大事な憩いの場になっていた。
「女将、お店まだやってますか。久しぶりに来ちゃいました」
「あら、百合ちゃん。久しぶりだね。ああ、六月の繁忙期が終わったのかい」
 おばあ

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ジンジャーハイボールと彼 〜第十話〜

ジンジャーハイボールと彼 〜第十話〜

 部活動の時間が終わりに近づき、サッカー部副顧問の伊藤は生徒たちとストレッチに入っていた。
 顧問である日下部は、部長の志田太陽からつぎの練習試合の作戦について相談を受け、終わるのに時間がかかっていた。

「うん。それじゃ、これでいこうか。明日にでも副部長にも伝えて大丈夫だとしたらみんなにも周知でいこう」
「わかりました。それじゃ、俺もストレッチ行ってきます。あ、先生ところで、学校祭で先生のクラス

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ジンジャーハイボールと彼 〜第九話〜

ジンジャーハイボールと彼 〜第九話〜

 六月中頃には珍しく、暑い日が続いていた。
急にきた夏の気温、この時期の北海道には珍しく30℃近くの日が続いた。

 月末となり、徐々に気温も下がったため今日は過ごしやすい日となりそうだった。
 だが、俺の鼓動は気温の下降とは裏腹に、どんどん上昇している。初めて教壇に立ったとき以上に緊張していた。

 まさか、憧れの人とデートをすることになるなんて。

 今日のデートコースは、南区の定山渓と中山峠

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ジンジャーハイボールと彼 第八話

ジンジャーハイボールと彼 第八話

 今朝は夏が近いことを感じさせる気持ちの良い青空だった。気づくと、季節は六月になっていた。今年の春は、桜を見に行く機会も作られずに終わってしまった。

「皆さんおはようございます。とうとう六月です、忙しさで心がなくなってしまうこともあるかも知れません。上手く発散し、楽しんで仕事に挑めるようにお互いに励ましあって、体調にだけは気を付けていきましょう」

 上司の長谷川千夏さんが背筋をピンっと伸ばして

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