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何でもない君の言葉に、私が意味を含ませて、褒めてもいい?

ー 住み慣れた街を案内してくれる「あそこのカレー屋普通の味だよ!」 ー

夜8時「返信くれないから、最寄り駅まで来ちゃった…」と、私は電話で告げた。すると彼は急ぐでもなく、だらだらと準備をし、でもちゃんと駅まで会いに来てくれた。吉祥寺サンロードで、私たちは「久しぶり」と言い合う。

ティンダーでマッチした初日、彼は「井の頭公園にchillスポットあります!」と教えてくれた。これからその場所に、連れて行ってくれる。

着いたのは、池の縁にある一脚のベンチだった。

「どくん、どくん」

そこはずっと昔、ぽつんと1人でお弁当を食べたことのある場所だった。

通常通り、午後まで授業があると思っていた高3のある日。その日は早帰りの授業日だった。

お弁当を持って来たのは私だけかも。

一緒にご飯を食べてくれる部活の仲間、「バカだな」って笑ってくれる友人がいない。「不必要」を「必要」に変える手段が思いつかなかった。とてつもなく恥ずかしく、鞄の中にあるお弁当を更にどこかに隠してしまいたいような気持ちになった。とにかく早く帰ろうと思った。

帰りの総武線の車内でお腹が空いてたまらなくなった私は吉祥寺で途中下車をし、池のほとりでお弁当を広げることにする。

「もしもどこからか、クラスメイトが見ていたらどうしよう」

ここまで逃れても、依然としてそんな気持ちに襲われた。でも、こんな自由なランチをしているのは私だけかも?と思うと、楽しい気もした。

今日は隣に彼がいる。「私もここ、前から好きだった…」


***

ベンチの紹介を除いて、彼の吉祥寺案内はへんてこだった。

「あのカレー屋、同僚とよく行くんだ!」

「美味しいの?」

「普通。綺麗じゃないし、お釣り多く渡してくるんだよ〜笑」

「?」

お店は"イマイチ"だからこそ、君のお気に入りになった。

ダメなところも受け入れられる君は、本当に優しい。

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