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NOVEL

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#短編小説

空っぽな空気と空ろな空

空っぽな空気と空ろな空

夢は叶えるか、諦めるかでしか消えてくれない。

脳の中でドロドロと、胸の中でフツフツと、流れるように浸食し、私の心を蝕んでいく。

時間と労力を使い、栄光を手に入れたものは口を揃えて言う。「努力は報われる」と。

 そんなのは、叶えた人のみが口に出来るご都合主義な考え方だと分かっていても、人は努力していないと我を失ってしまう。その怖さを払拭する為に叶わない夢を持ち続けようとする。なんとも面倒

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悪い人ほど“火”が似合う。④

悪い人ほど“火”が似合う。④

  「花火に花言葉があったら、何て言うんだろうね」

 彼女の頬が輝くと、音が大気を振るわす程に破裂する。広大な空には、これでもかと言う程の炎が飛び交っている。オーケストラが終わると、誰もが息を呑み、一拍してから誰かが拍手を送る。そして、その拍手に乗り遅れぬように様々な人々が激を送り、それは大きな喝采に変わる。それと似たように、一瞬の静寂の後に誰かが声をあげた。それは歓喜に似た雄叫びのようなものだ

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悪い人ほど“火”が似合う。②

悪い人ほど“火”が似合う。②

 「ポン酢のポンってどういう意味ですかね」

 和食をメインに扱った居酒屋に私は彼女と二人でいた。彼女は机に常備された調味料の中からポン酢を手に取り、私に聞いた。彼女は疑問に思った事をすぐに口に出し、質問したくなるようだった。

「オランダ語で柑橘類っていう意味らしいよ」私はいつもの癖ですぐに携帯を取り出し、検索をかけていた。情報は力だ。知る方が知らないより優位にたてる。

 そして、一つの疑問が

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悪い人ほど“火”が似合う。①

悪い人ほど“火”が似合う。①

 「花火に花言葉があったら、何て言うんだろうね」

 彼女の頬が輝くと、音が大気を振るわす程に破裂する。広大な空には、これでもかと言う程の炎が飛び交っている。オーケストラが終わると、誰もが息を呑み、一拍してから誰かが拍手を送る。そして、その拍手に乗り遅れぬように様々な人々が激を送り、それは大きな喝采に変わる。それと似たように、一瞬の静寂の後に誰かが声をあげた。それは歓喜に似た雄叫びのようなものだっ

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ドク・ハク

ドク・ハク

 あいや、暫く。おまっとさんと参上だ。我がドコの誰かはさておいて、いっちょ、饒舌、演説、聞いとくれ。これから御伝えするお話、小話、おとぎ話は実に痛快、難解、奇々怪々。どかの星の、どこかの場所で、落っこちるように産み落とされては、迷子のように彷徨っている生き物のお話です。彼、彼女。どちらで呼べば良いのか分からない。性別も不確かな生き物です。性別だけではありませぬ。子供、大人、老人と一定の形で留まらず

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零時一分のシンデレラ

零時一分のシンデレラ

 『妖精は杖を一振りすると灰かぶりの娘は美しく変貌しました』

「時間が止まってるみたい」

 涼は川を見ながら呟いた。野口美紗季も覗き込むように眺める。

東京で珍しく雪が積もった日。電車もバスも大幅に運行時間が遅れると情報を知った美紗季は幼稚園が終わった涼を歩いて迎えに行っていた。

 川の水は気温のせいで凍っている。普段、流動している水の流れはその場に留まっていた。

時間が止まる事なんてな

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パンスペルミアの雪

パンスペルミアの雪

 灰色の空が街を覆う。

 “ダスト”と呼ばれる無数の粒子は空気に絡まり、街を灰色に変える。

この星は元々、四季という四つの季節に分かれていたらしい。暑かったり、寒かったりと。その時期折々の様々な気候で一年が過ぎていったらしい。

 夕方の電車には多くの人がおり、私は満員の車内に身体を捻じ込ませるように立っていた。

 前にはサラリーマンが二人、座っていた。上司と後輩の関係なのか、歳を召した上司

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桜の木の下で待っています。

桜の木の下で待っています。

坂之上是政は丘の上にいた。

自分の身の丈ほどしかない桜の木を背に立っていた。町を一望できる丘の上で是政は一人の女性を待っていた。着物の振袖に手を入れ、息を呑む。

日差しが強いが風が心地よく吹いていた。

貿易船の汽笛が遠くの港から鳴る。

女性は行ってしまった。是政はそう悟った。他国との文化交流の為、外海からやって来た一人の女性。一国の主の命を司り、是政は女性の目付け役を仕った。

初めて女性

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