『国宝』映画化された話題作『怒り』や『横道世之介』の吉田修一が描く!歌舞伎役者の人生を上下巻で描いた、迫力満点の長編大河小説
読書好きのあなた、読者に求めるものはなんですか?
リフレッシュできること、新しい知識を得ること、知らない世界を冒険することなど、いろいろあると思います。
今回ご紹介する『国宝』は、今挙げた全部を与えてくれる、エネルギーあふれるパワフルな作品。
上下巻で、総ページ数は700超え。読み終わったときには、ひとつの時代が終わったようなさみしさと、感動に包まれるどえらい傑作だと思った。
歌舞伎の世界で、人間国宝となる人物を、幼少期からその人生が終わるまでを描いた超大作になってて。「すごい作品を読んでしまった……」と、感動で震えたい人にはぜったいチェックしてほしい。
歌舞伎の世界を舞台に、役者の生涯を描いた一大ドラマ
物語のはじまりは、年始の長崎、料亭花丸で行われた任侠一門、立花組の新年会。お祝いの空気が一転する、とある事件が起きるところから。
その年の正月、長崎は珍しく大雪となり、濡れた石畳の坂道や晴れ着姿の初詣客の肩に積もるのは、まるで舞台に舞う紙吹雪のような、それはみごとなボタ雪でございました。
この大雪のなか、長崎は丸山町にある老舗料亭「花丸」に、次々と黒塗りの車が到着いたします。
もうね、ここからガシッと心つかまれた。
情景描写が美しくて、目の前にそのシーンが浮かんでくるような文章。文体も相まって、観劇をしているような気分にさせられません?
主人公は、この任侠一門の跡取り息子で、この時まだ中学生の喜久雄と、上方歌舞伎の名門で、同じく跡取り息子の俊介。
喜久雄は誰もがみとれるほどの美貌の持ち主で、このあと、いろんな運命が絡み合い、2人は歌舞伎会を担うライバルとして成長していくの。
『国宝』は上下巻で、上巻は「青春篇」、下巻は「花道篇」。2人の何十年という人生が、じっくりと描かれています。なので、2人はもちろん、周りの人間も成長していって、壮大な人間ドラマを見せてもらえる。読み応えがすごい。
著者が長期の取材を続けて生み出した意欲作
この作品の著者は、映画化された『怒り』や『横道世之介』で知られる吉田修一さん。なんとこの作品のために黒子になって、歌舞伎の世界を取材していたそう。
作品の中にも度々、歌舞伎の演目が出てきて、勉強になるの。
冒頭に挙げた通り、文体が語り部口調なので、どんな作品で、見どころはどこか?みたいな情報が、物語の世界観のなかでしっかり語られてて。
歌舞伎を知らなくても、まったく問題なしです。
あれかも、恩田陸さんの『蜜蜂と遠雷』は読みました?あれはピアニストの世界で、音楽作品をいろいろ知れるように、こっちは歌舞伎の世界で、演目をいろいろ学べる。
さいきんは、なかなか観劇の機会もなかったりしますが、この作品を読めば、観劇しているような臨場感が味わえるし、ふだんはのぞきにくい世界のことも知れます。
ぜひ読んでみてください。満腹大満足をお約束する!
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