『三度目の恋』伊勢物語・在原業平をモチーフに、芥川賞作家の川上弘美が描く恋愛小説
これは……!
しっとり柔らか、極上の恋愛小説でした。
例えるなら、高級生食パン専門店「乃が美」の食パン。朝から並んででも食べたい味わい。
今日は、芥川賞作家・川上弘美さんの長編恋愛小説、『三度目の恋』のご紹介です。
今と昔を行き来しながら展開していく、恋愛物語
昔。それは今のわたしにとっては、たったの数年前をさす言葉でもあれば、わたしが生まれたばかりの四十数年前をさす言葉でもあれば、もっと以前をさす言葉でもあるのです。そう。昔のある時、私は恋をしたのでした。あのひとに。
主人公は、梨子という女性。
幼い頃から「おにいさん」的存在で、初恋の相手でもあるナーちゃん、原田生矢(はらだなるや)と、20代で結婚します。
ナーちゃんは、昔から女性が放っておかないタイプの男性。
結婚後も、女性の影がたくさんありました。しかもそれを隠さないの!そんなんだから、ナーちゃんとの結婚生活は、梨子にとって不安が絶えなくて。
そんなある日、梨子は、小学生の頃に親しくしていた、用務員の高丘という男性と再会します。高丘の浮世離れした雰囲気に、梨子は、ナーちゃんのこと、ほかにも女性がいる苦しみ、色んな気持ちを打ち明けていました。
さぞかし長い話になるだろうと思われたのに、実際に喋ってみると、それは一時間にも満たない短い話におさまってしまうのでした。(中略)ナーちゃんをひたすら慕ってきたことも、ナーちゃんが自分を裏切ったと身も世もなく嘆き悲しんだことも、ナーちゃんを中心に世界をまわしてきたことも、なんだかちょっと、昔ばなしのよう。
その夜から、梨子は夢を見るようになります。夢の中では、梨子は江戸時代、ときには平安時代の人物として生き、ある男性と恋に落ちて――。というお話。
今と昔を行き来しながらお話が展開していく、不思議な読み心地の物語です
『伊勢物語』をモチーフに、綿密に練られた物語
『三度目の恋』は、雑誌『婦人公論』にて連載されていた作品です。
この作品が生まれたのは、小説家・池澤夏樹さんが編集された『日本文学全集』で、『伊勢物語』の現代語訳を担当したことがきっかけ。その際、主人公の在原業平に興味を持ったんですって。
物語の中に、伊勢物語のお話をなぞった部分も多く出てくるので、こちらもあわせて読んでみると、作品をさらに楽しめるはず。
個人的には、あまり古典になじみのない方であれば、ビギナーズ・クラシックスがおすすめ。読みやすいです。
こう、長年書き続けられている作家さんの作品を読むと、ものすごい量の取材や研究の上に、どっしりとした作品が出来上がるんだな、と感じる。読み応えがすごいもの。
あなたも、『三度目の恋』の幻想的な世界に浸ってみませんか。
良く晴れた休日の昼下がりに、はたまた、家族が寝静まった夜更けに、ゆっくりと味わいたい1冊です。
■他にも、おすすめ揃ってます!
・『血も涙もある』山田詠美――「趣味は、人の夫を寝取ることです」不倫とは一体何か?自分の中の倫理と向き合う物語
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・『ウエハースの椅子』江國香織――――愛して愛される、それ以上は何も望まない。不倫の先にある絶望を詩的に描いた恋愛小説
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