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令和の弥次喜多道中 その10「小田原からの眺め」

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こまでのあらすじ
2020年の春、仕事を失い途方に暮れていた喜多達也。突然異世界に巻き込まれ「モトジメ」と名乗る謎の存在から、1年前の2019年に転送され、同時に江戸時代から転送される弥次郎と旅をすることを告げられる。

そして2019年の令和初日に、東京日本橋で江戸時代から転送された弥次郎と会う。「元締め」から半年間この時代の事を教えてもらったという弥次郎と共に、令和の弥次喜多道中がスタート。東京から初日の夜は蒲田に到着。2日目は神奈川県に入って川崎大師と横浜、3日目午前中は鎌倉に来た。
同時に全く別の場所。近代の文豪にあこがれて、温泉旅館で作家を目指すあゆみに、motojimeから弥次・喜多2人の旅の画像が送らる。それを元に創作するという契約を交わしていたが、こちらはほとんど進んでいない。


 江の島を回った喜多達也と弥次郎のふたりは、この日藤沢で一泊。翌日は東海道線の列車に乗り一気に小田原を目指した。「弥次さん、本当は小田原までの間に、平塚と大磯の宿場町があるらしいよ」
「いいよ、どうせ石碑くらいで何も残ってねえんだろ。この鉄の籠で一気に小田原を目指せるんだからそれでいいよ」と弥次郎は喜多の話には全く興味がなく、車窓からの眺めを見て楽しんでいる。
 そこで会話は終わり、ふたりは沈黙のまま。ただ列車がリズムを取る様に音を鳴らしながら前に進み、途中の駅に停車すると人の乗り降りが続いていた。

 やがて次の駅が「小田原」であると告げられ、列車は坂匂川(さかわがわ)を渡った。やがて列車の速度が遅くなる。気が付けば平行して新幹線の線路が見えた。「お、喜多さんよ。あれ早いな。今度はあれに乗ろうか」「ああ、新幹線ね。でも今回は」「ち、便利の良い時代なのに変な野郎だぜ喜多さんは」と機嫌が悪くなる弥次郎。喜多はこの旅を通じて弥次郎が気の短い男だと思っていても、そのモードになると気持ちが暗くなる。

「弥次さん、着いたよ。取りあえず降りよう」喜多は弥次郎を避けるように先に降りると弥次郎も後に続く。
「取りあえず小田原城に行こう」「城!それってお殿様が住んでいたところだよな」
「うん、今の時代はみんな見学できる」「そういうのが信じられねえや。おいらが昔いた時代だったら、近づいただけでお侍に止められるぜ。抵抗なんかしたら刀で体を切られちまうよ」
 少し弥次郎の機嫌が戻ったようだ。安心した喜多はスマホのマップアプリを開けて城までの行き方を確認する。駅南口からは、鉄道の進行方向に進む。「お城通りと」いうらしい、やがて「小田原城北入口」とかかれたところがあり、車道から公園内に入る。道なりに進めば天守閣の建物が目の前に現れた。
「へえ、本当に城の目の前に来ちまったよ」
「中にも入れるよ。行ってみよう」喜多はそういうと、チケットを購入。5階建てになっていて、1階から順番に見ることにした。「弥次さん懐かしくない。ここ江戸時代の小田原城だって」「ふん、全く違うよ。外側はお城だが中は全く違うじゃねえか。江戸じゃなかった東京だっけ、そこでも見た建物の中と同じだな」「まあね。それは」
 喜多は弥次郎の話を適当に聞き流しながら、展示室の内容をチェックして行く。このまま2階に上がると次は戦国時代の展示とあった。3階は美術工芸品。4階に来ると明治時代からの写真が展示してある。
「弥次さんこの上が一番高いところ。そこからは小田原の町が眺めるよ」「そうかい、そりゃ楽しみだ」そういうと弥次郎は、突然元気になって、さきに最上階を目指す。「おい喜多さんよ、一番上はそれっぽいぜ」
 遅れて喜多が上がると最上階は、当時の天守閣の様子を再現している。だからパネルとか展示している物はない。でも展望デッキに出るとそんなことはどうでもよくなった。

「おお、いい景色だね」最上階は風が強いが、それが心地よく体にぶつかる。「おう、ここに上がるとおいらもお殿様になった気分だな」「弥次さん。こっち海が見える」
 弥次郎が喜多の方に行くと、手前から城の敷地。その先が町で、さらに先には海が見渡せた。

「おお、いい眺めだ。よし次は喜多さんの番だな」
「あ、歌か。ちょっとまって」喜多は腕を組むとしばし考えた。そして、次の歌を思いつく。

小田原の 城から見える 海の青 次は春の 桜を期待

「春の桜?」「うん、城の周りは桜の名所らしい。ちょうどシーズンがずれたけど、もし今度小田原でこの風景見るなら、さくらの時期かなって」

「ほう、中々風流じゃねえか。おいらもちと歌を詠むぜぜ」と弥次郎も腕を組みしばらく考えごとをする。そして詠いだす。

小田原で 殿様気分 最高に ついでに食べ物 殿様風

「なに、食べ物?」「いや腹減っちまったんだ。そろそろ昼を食おうぜ」というと、弥次郎はお腹を押さえるが、その前に音がする。
「あ、あれ僕もなったかも」と喜多も同様お腹を押さえた。
「わかった、小田原の名物を食べよう。さて何があるかな」
 といって、スマホの操作を始める喜多。
「かまぼこかあ。お、海鮮も名物だって」
「お、喜多さんいいね。いま海見たから魚食おうぜ」と、嬉しそうな弥次郎であった。

ーーー

 一方温泉宿では、執筆をするはずのあゆみがいるはずだが、motojimeがメッセージを送っても反応が無い。いつものようにここまでの旅路と、画像を送る。「あれ、反応がない。寝ているのか?まあたまにはいいだろう」とメッセージを残して今回の通信は終わった。

パソコンの電源は入ったまま。しかし、部屋にあゆみの姿はなく.......。

(つづく)



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こちらは42日目です。

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