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令和の弥次喜多道中 その8「鎌倉」

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こまでのあらすじ
2020年の春、仕事を失い途方に暮れていた喜多達也。突然異世界に巻き込まれ「モトジメ」と名乗る謎の存在から、1年前の2019年に転送され、同時に江戸時代から転送される弥次郎と旅をすることになる。

そして2019年の令和初日に、東京日本橋で江戸時代から転送された弥次郎と会う。「元締め」から半年間この時代の事を教えてもらったという弥次郎と共に、令和の弥次喜多道中がスタート。東京駅、高輪、品川、羽田空港とまわって。初日の夜は蒲田に到着。2日目は神奈川県に入って川崎大師、そして横浜に来た。

同時に全く別の場所。近代の文豪にあこがれ温泉旅館で作家を目指すあゆみに、motojimeから弥次・喜多2人の旅の画像が送らる。それを元に創作するという契約を交わしていたが、こちらはほとんど進んでいない。

「いてて、昨日は結構飲んだな」
「弥次さん、昼間から飲みすぎですよ。途中で見知らぬカップルとケンカになるし、一時はどうなるかと思いましたよ」
 二日酔い気味の弥次郎に注意する喜多達也。ひょんなことから旅をすることになったふたりは、3日目の朝を迎えていた。

「いやあ、喜多さん悪い悪い。でも途中で和解できてよかったよ」
 と申し訳なさそうに弥次郎は頭をかく。

「さて、今から移動しますよ。弥次さんどこに行きたい」
「おいらはわからねえ。全部喜多さんに任せてるから」

「やっぱ行くとすれば、あそこだな」

ーーー

 ホテルを出たふたりは、横浜・関内駅から根岸線に乗り込む。
「で、どこに行くんだ」電車に乗り込むと、いつものように車窓を眺めながら、弥次郎は質問する。

「うーん、やっぱり鎌倉かな」こちらもいつものようにスマホ片手に操作する喜多。
「鎌倉、ああ確か、その近くに江の島ってなかったか?」
「ある、鎌倉から江ノ電に乗れば行けるよ」

「エノデン なんだそりゃ?」
「いや、これと同じ鉄の籠。会社じゃなくてお店がが違うだけ」
「ってことはエノデン屋ってとこだな」と、理解する弥次郎。喜多は思わず口元が緩んだ。

こうしてふたりは大船駅で横須賀線に乗り換えること2駅。鎌倉に到着した。

「さて、鶴岡八幡宮と鎌倉大仏は行かないとな」
 喜多はスマホのマップを見ながら、鶴岡八幡宮の位置をチェックする。「わかった付いて行くぜ」と弥次郎。いつしか朝の頭の痛みは収まっていた。

と、最初にふたりが向かったのが、鶴岡八幡宮である。手前の舞殿と階段を上った上にある本宮。どちらもインパクトがある。
「へえ、こりゃずいぶん大きな神社。ご利益ありそうだ」と弥次郎は、子供のようにはしゃぎながら、やや走って石段を登って行く。喜多の方が年が若いのに、なぜか保護者のような気持ちになるから不思議だ。弥次郎を追いかけるわけでもなく、ゆっくりと石段を登る。

 本宮に来ると、ふたりは参拝した。
「ふむふむ、この建物は1828年に徳川家斉が再建したのか」と、喜多は調べながら感慨深く見ているが、すでに弥次郎は石壇を降りはじめている。
「ずいぶん気が早いなあ。弥次さんって余韻とか楽しむのは興味ないのかな」

 喜多がゆっくりと石段を降りると、弥次郎が手で早く来るように合図する。喜多は仕方なく歩く速度を上げた。
「喜多さん、ゆっくりしすぎじゃねえかよ。そんなことしてたら次の所なかなかいけねえぜ。次はえっと大仏だっけか」

「あ、その前に銭洗い弁財天にも行ってみよう」
「ゼニアライ?なんだそりゃ」
「大仏のあるところに行く途中に立ち寄れそうだ」
「そんなに立ち寄って大丈夫か。それじゃあ、いつまでたっても江の島に行けねえぜ」
 弥次郎は江の島に行きたくて仕方がないらしい。しかし喜多は口を緩ませながら「ここでお金を洗うと倍になって戻って来るらしいよ」と声を出せば、「そりゃいかないとダメじゃねえのか?」と、弥次郎が途端に態度を変えた。

 鶴岡八幡宮から、喜多は地図を見ながら西に向かう。JRの踏切を越えさらに西に、曲がるところまで来ると山の中に入りかけているのがわかる。
「しかし、喜多さん、こんな同じようなな道本当に迷わねえな」
「まあ、これがあるから」とスマホを見せる喜多。
「それ、元締めから教えてもらったけど、そんな片手で持てるものからいろんなものが見られるんだよな。不思議だぜ。やっぱりこの時代は、まだおいら慣れてねえかもな」

 やがて鳥居が見えたかと思うと。そこは弁財天の入口。洞窟がある暗闇の中を歩いて行くと視界が開け、銭洗い弁天の境内に到着した。「弥次さん、この奥にある水で洗うことのようだ」そういって奥の洞窟に入っていく。そこには籠が置いてあって、お金を入れる。そしてひしゃくの水で洗う。

 しかしお札を洗う勇気がない喜多は、500円玉を洗うのだった。
「これじゃあんまり増えないけど、まあいいか。科学的には微妙なことだしね」
「こういうときに、1両なんて持ってたら、おいらぜったいそれやるんだけど、おいら今金持ってねえからな」
「え、弥次さんお金持って無いの?」

「ああ、喜多さんに会う前は、全部元締めがお金払ってくれたし、今も喜多さんが全部やってからおいらは、持ってねえな」
「今の時代のお金の種類とかはわかる」
「それは教えてもらったぜ。今は紙が小判みたいなもんだってね」
「はぐれた時のために少し渡しておくよ」と喜多は、千円札を何枚か弥次郎に渡した。

 こうして銭洗い弁天を後にしたふたりは、南方向に歩いて行く。
「もうすぐだ」と喜多がいうものの、弥次郎はつまらなそうな表情。何の反応もせずに黙々歩いている。
「困った、弥次さんまた不機嫌になっちゃったのかなあ」などと考えると、喜多の頭にひらめくものがあった。

「ねえ、弥次さん。短歌ができたよ」
「え? 喜多さんそうかい。今度はそっちの番だったな。じゃあ聞かせてもらおうか」

「銭洗い、大仏前にし続く道。笑顔で歩けば、着くのも早い」

「なんだそりゃ。喜多さんおいらの顔を見て考えただろう。顔つきなんしょうがねえじゃねえか。何で歩くだけで、いちいち笑わにゃきゃなんねえんだ!」
 その横で、喜多は一瞬舌を口から出した。

 そんなことを言いながら今しばらく歩くと、大仏前と書いた交差点に差し掛かる。そして正式名称の「高徳院」の文字が見えた。さらに仁王門と呼ばれる門をくぐりその先を歩くと、ついに大仏のボディがその姿を現す。

「あ、ここだ、着いた!鎌倉の大仏だ」
「おお、やっぱ大きいぞこりゃ」
と歓声を上げながら見上げるふたり。対照的にややうつむき加減に見える大仏は、あたかも瞑想をしているのかのように無表情のままであった。

ーーー

一方温泉宿では、motojimeからのメッセージをチェックしているあゆみ。
「さて、どうしたのかしら」”鎌倉に行ってるみたいやで”のメッセージと共に鎌倉の各スポットの画像が送られてくる。

「鎌倉か、大仏。うーん観光地ってとこね。そうかここも飽きたわね。ちょっと出かけようかな、この近くに何か面白いところはどこかしら」

すると、再びmotojimeからメッセージ ”遊びに行くんやったら執筆が終わってからやで”

「なんなの、このmotojime!ひょっとして、どこかに監視カメラがあるの?」

そういいながら旅館の部屋の隅々を、必死になって見渡すあゆみであった。

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こちらは3日目です。

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