見出し画像

宇宙の日に見るプラネタリウム

「あ、コスモスファームさん!お疲れ様。交代しましょう」私に声をかけたのは、ダヴィンチ農園の人。今日私たちは町に出ていて、マルシェに野菜を出品したの。「さて、夕方まで4時間あるなあ」
 横で彼、一郎が時計を眺めていた。この町では郊外などにある小さな無農薬農家を集めて毎月マルシェを開催している。私たちはいつも気になっていたこのマルシェ。でも出店料とか野菜を運ぶ車の問題とかいろいろ必要で、とても参加できそうになかったの。だから今までは諦めていたけど今月は違った。
 無農薬農家のネット仲間の集まりで、知り合ったダヴィンチ農園のひとが「どうだい、共同で出ようか」と声をかけてくださったの。だから初めて出店で来た。

「じゃあ、すみませんよろしくお願いします」「もちろん!ほう、結構売れてますな。ハハハハ!」ダヴィンチ農園の人は定年後に農家をはじめた老夫婦。完全自然農法を目指していて、「昔ながらの百姓」を標榜している人たち。私たちではとて真似ができるレベルじゃない。だって彼らの野菜には、勢いがある気がする。
「真理恵、気にするな」彼は私の顔の表情で理解した。「農家の個性はそれぞれ。大きい声では言えないけど、ダヴィンチさんより、俺たちの栽培している野菜の方が売れていたではないか?」「だ、だけど」私は少しダヴィンチ農園の野菜たちに、嫉妬してしまったのかもしれない。
「でも、せっかくの街中だ。朝に来て午前中は俺たちがブースの販売担当。で午後からダヴィンチさんが後退して店番をしてくれる。他のところは1日ブースに付きっきり。こんなラッキーなことはない」
 彼の本業は大学院生。最近一緒に住むようになって、こういう特別な日は手伝ってくれる。だけと私とは農業に対する感性が少し違う。

「でも、今からどうするの。お昼は持ってきた弁当を、さっき食べちゃったし」という私の質問に、彼は得意げな表情で口元が緩んだ。
「この近くに俺たちのためにあるのでは?というスポットを見つけたんだ」
「あんまり遠くはダメよ」「大丈夫。歩いて10分もかからないところにある。そこに行こう」

---

 私は彼について言く。しばらくしたら彼が「これだ」と声をかけたの。「ここ?」見ると科学館と書いてあったわ。
「そう、科学館。そしてここにはプラネタリウムがあるんだ」「うわぁそうっだんだ。プラネタリウムいいわね。でも良く調べたわね」
「当然だよ!」と、得意げな彼。
 早速建物の中に入いる。入口でチケットを買った。30分後に次のプログラムの上映があるという。
「ちょうどいい、展示物でも見よう」と彼に言われるように展示室に向かった。そこには宇宙に関する様々な紹介と説明が書かれている。
 しばらく展示物を見ていた。私は知っている内容と知らない内容がある。でも彼は明らかにつまらなそうに腕を組む。「うーん知っている内容ばっかだなぁ」「だってあなたの場合は、この展示を企画する方に近いんでしょ」「ああ、一応研究者だしな」
「だったらプラネタリウムの内容も、知っている話しかないんじゃないの?」「え!」彼の顔色が変わったのを私は見逃さない。

「あ、た多分そうだろうな。しょうがない・君だけ見てたらいいよ。俺、寝てようかな」「え?なにそれ、つまんないじゃないの」
「でも多分上映中に、俺が代わりに横で説明なんかしたら周りにひんしゅくだし、ここの説明する人の案内の仕方が気になって突っ込みそう。それって嫌だなあ」
 私は思わぬ展開になって急にテンションが下がった。「もう、せっかく途中まで楽しみにしていたのに」と表情が硬くなって彼を睨んでしまう。
「ごめん、あ、これ面白いよ」と彼がいつの間にか、実験で遊べる機会の前にいた。それを触りながら触っていた。科学実験をわかりやすく説明するものらしい。
「ほんとう、これ楽しいわ」「こうなる原理を知っていても、実際に見るとわかりやすい。これはゲーム感覚でいい」 ようやく彼の表情が明るくなった。

----

 やがて時間になったので、プラネタリウム室に向かったの。私は天文学とか好きだけど、どちらかと言えば天文台の大型望遠鏡で、実際に見える惑星や夜空を見るのが大好物。だから人工的に天体を表示させるプラネタリウムは意外にも初めてかもしれない。はっきり覚えてないけど。
 入口に向かう人たちを見ると、若いカップルの人が多かった。私たちと同世代。いやもっと若いかな。あと年配の人の姿もいて、ひとりで来る人もいた。こういう人は私たちみたいに宇宙のことが好きなのよね。

 中に入る。映画館のようなところかと思っていたら全く違っていた。まずスクリーンの大きさが違う。ドーム型の天井一面がスクリーン。それだけで偉大に感じたわ。中は自由席で早いものがち。私たちは中央付近の席に腰かけた。本当は後ろの方が良かったのかもしれない。後でわかったけど、後方の星を見るときにちょっと大変だったから。
 
 そして席の横にある黒い物体。「あれがプラネタリウム投影機かあ」私は心の中で呟いたわ。本やネットとかでは見たことあるけど、初めて見た本物の投影機。あそこから満天の星空をここで再現するがための脳であり心臓。
「見た目が不気味に見える丸い塊。でもあれが無ければスクリーンに星が映し出させられないのね」

画像1

---
 上映開始になった。前でプラネタリウムのプログラムを案内する人が話し始める。そのときの最初の言葉で思わず彼も私も反応した。
「今日9月12日は宇宙の日です」

 そうか、気づかなかったわ。今日は宇宙の日ってこと。後で確認したら宇宙飛行士の毛利衛氏が初めて宇宙へ飛び立った日だからだそう。
 その後は、天体の説明を始める。このあたりはいつもふたりで、毎晩言い合いながら、自宅の望遠鏡で夜空を眺めているので珍しくない。けど専門の人の説明は妙に新鮮だった。
 説明ではこれだけの星が実は見えるって言うけど、郊外にある私の家の近くでもここまで見えないと思う。それでもこの前見た星がいくつもある。実際に見るのと比べてはっきりしていた。それに星座の絵を付けてくれるのも新鮮だったわ。本当にわかりやすいの。
 だから私はすごく感動しながら見ていられたわ。「私の農園はあの星空の中にある本当に小さな点のひとつなんだろうなあ」心の中でそんなことも考えたし。

 でも途中から寝息のような声が近くで聞こえの。私はこの声の主を多分知っている。でも気にせずに最後まできっちり見終えた。
「ふう、あ、途中で寝たみたいだ」と終わったら両手を上げる彼。私はそれをあえて無視して、そのままに先に出て行った。彼、慌てて突いてきたけど。

「ごめんやっぱり知っている内容だったね」「でも良かったわ。あんな小さな星なんて普段見えないし。それに本当に気分転換になった。今日が宇宙の日って初めて知ったしね」と私は笑顔で答えた。
 時計を見るともう少し時間がある。「この後どうしようか?」「うーん、早いけど戻る」「え?せっかくの休憩なのに勿体ないなあ」と彼は不満そう。でも私はきっぱりとこういった。
「私たちのコスモス(宇宙)で育った子たちの旅立ちを、ちゃんと見たいから」彼は驚いた顔をする。でも私は早足でブースに戻った。小さな星のような農園で育った、私の子たちがどう売れているか気になって。


※こちらの企画、現在募集しています。
(エントリー不要!飛び入り大歓迎!! 10/10まで)

こちらは72日目

第1弾 販売開始しました!

ーーーーーーーーーーーーーーーー
シリーズ 日々掌編短編小説 238

#小説 #掌編 #短編 #短編小説 #掌編小説 #ショートショート #100日間連続投稿マラソン #宇宙の日 #真理恵と一郎 #農家 #プラネタリウム #9月12日

この記事が参加している募集

noteの書き方

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?