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嫌なことは良きことへの予兆か 第916話・7.29

「もう、コンビニに行かないとトイレがないなんて、ダメな公園だな」近所の公園のすぐ目の前にあるコンビに入って用を済ませ、お気に入りのベンチに戻ろうとしたら愕然とした。心無い飼い主がいたようだ。あろうことかベンチの前に犬のものと思われる糞が放置している。さらに酷いのは、これはした直後だからだろう。見た目からして柔らかく、その上激しく匂うのだ。「ウックサッ!おい、おい、ようやく落ち着けると思ったのに!」思わず指で鼻を抑えてしまう。

 おかげで非常に不愉快な気分になる。今日は嫌な目にあったとばかりに、逃げるように公園を出た。
「まったく、気晴らしに公園に散歩したらこれだ。この前はカラスが頭をけってきたし、もうあの公園はまっぴらだ」
 誰もいないことをよいことに声を出す。ところが実際には、小さな子供と母親が砂場にいた。今の声聞かれたかもしれないが、こっちに振り向いていないから聞こえていないのかも。

 結局気晴らしどころか逆に不機嫌になり、家に戻ることにした。だが本当はもっと公園でゆったりしたかったのだ。「やっぱり別の公園にでも行こうかなあ」と、家に帰るのをやめて、いつもは歩かない方向に向かってみる。  
 住んでいる街の隣にも公園があるが、あまり行かない理由は遠いからというだけで深い意味はない。でも連続して嫌な思いをしたから、今度こそ気晴らしになるのかなと、もうひとつの公園の方向に歩いた。

「ほう、こんな公園だったのか」公園についてから改めて驚く。別に初めてでもないのにそれまでの記憶があいまい。意外にもそんなにしばらく来ていたかったようだ。
 半ば児童公園に近い近所の公園と違い、こちらの公園はより大きくて緑が多い。緑が多いがなぜか木が公園の周辺にしかなく、真ん中は花壇のようになっている。そこは季節の花がカラフルに咲いていて、見た目でも心地よい。もちろん公衆トイレがあるのも確認した。

「ここなら、鳥に狙われることもないだろう」公園の真ん中は幅の広い道となっていて、その両端に白いベンチが並んでいる。座っている椅子もあるがほとんどが開いていた。ということでその中のひとつに座る。
「ほう、気持ちいいなあ。もっと早く気づけばよかった」いつもの公園と違い広々としたこの公園はとにかく視界が広い。遠くに視線を送りながら、日々の疲れを忘れられる。「今度は本でも持ってこようかなあ」そんなことを考えると急に眠くなった。「ファアアア」と大あくび。いつの間にか眠っていたようだ。


 どのくらいたったのか、頭が重力に任せて落ちた時の衝撃で目が開く。「あ、フォオオオア!」ここでもうひとつの大あくび。外で眠るのはとにかく気持ち良い。「あれ?」ちょうど目の前、対面の位置にもベンチがあるが、そこにさっきまで誰も座っていなかったのに、だれか座っている。見た限り女性のようだ。
「かわいらしい顔しているな。でもあまり見てはいけない」とすぐに視線をそらした。ところが、相手に気づかれたようで明らかにこっちを見ている。
「知らぬ振りしよう」と、体を右に向けて右側の風景を見た。大きな通りは、見た限り100メートル以上は続いている。遠くには犬の散歩を連れている人がいた。ところがここで、近くに人の気配を感じるのだ。「え?」体はそのままで眼だけ動かしてみる。すると先ほど目の前にいた女性が近くに歩いてきているではないか。「な、なんだろう、なにか変なことしたかなあ」
 そう考えると急に怖くなった。女性はすぐ近くまで来ている。このまま無視するわけにもいかず、ゆっくりと女性の方に体後を動かす。

 その女性は、真顔でじっと自分を見ている。「あ、あのお」思わず声を出す。すると女性は突然笑顔になり、「あ、○○君よね!」と自分の名前を呼ぶ。「え?なんで名前を!」と、改めてその女性を見る。すると思い出した。まぎれもない同級生だ。
「え、もしかして△△?」女性は大きくうなづくと横に座る。「うゎあ何年振り元気だった」と嬉しそう。その声は同じ学校でいたときとは少し違うが、確かに△△のもので、急にその当時を思い出す」
「うん、元気だよ。ていうかこの街に戻ってきたの?」△△は卒業前に転校していった。それから特に連絡も取っていない。

 彼女はまたうなづくと「そう、先月戻ってきた。やっぱり生まれ故郷はいいわ」という。「戻ってきたけど、同級生ってみんないなくなってるわね。だから○○君に会えてうれしいわ」と笑顔になる。その笑顔を見て懐かしさと同時に、△△が気になる女性になってしまった。
 ここでさりげなく聞いてみる。「彼とかも一緒に来たの?」すると「え?私、今誰とも付き合ってない。○○君は?」とまさかの返事。すぐに「俺も、いないなあ」とため息交じりに返事した。「そうか、なかなかいい人と出会えないわね」と△△も同じようにため息交じり。ここでしばらくの沈黙が流れる。

「まあな。ところで今度の休みとかって空いている」ここで半ば無意識に、彼女にデートを誘ってみた。誘った瞬間、緊張が全身を襲う。彼女は表情を変えない。その表情もかわいいもの。数秒後彼女がこっちを見る。そして「いいわ、久しぶりに帰ってきたからどこかいいところ連れてって」との返事。もちろん心の中でガッツポーズをした。どうやら今日は嫌なことではなく良いことががあったようだ。


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