見出し画像

What is a beckoning cat?

「おい、ゴウト! また顔を洗うフリにゃどしおって、まるで招き猫だな」「うるさいにゃ!イマド。茶虎柄のおめぇさんが、これはグルーミング(毛づくろい)つてこと知っているくせによ」
 東京の世田谷にある寺の境内では、今日も人間には「ニャー」としか識別できない言葉で、野良たちが、井戸端会議に花を咲かしていた。

「いや、知っておるにゃ。なぜゴウトにそれ言ったかといえば、今日9月29が「くる(9)ふ(2)く(9)」という語呂で、招き猫の日だと人間どもがいっておったニャらだ」
 全身黒ずくめのゴウトは、一瞬首を傾げた。「ケッ。イマドも、まだそんなこと。俺たちニャーの前足の動かし方を見て、勝手にあいつらが、『良いこと』を招いているとか言ってニャる。もう、クダラン。この豪徳寺という寺もそうだ。ったく、招き猫の焼き物をクソほど置きやがって」

「連中らに言っても無駄ニャぜ」「わかっている。霊長類で唯一のヒト科である、彼らの知能ベルが違いすぎるニャーから相手にされない」
 と、すこし不機嫌なゴウト。イマドは機嫌を取りなおそうとフォローする。
「ゴウト、それもわかるがよ。連中らにも欠点があってさ、マネキンなる人形を作って、服という着用ものをアピールするために展示してんニャぜ。そんな理由がおかしくねぇか。俺たちのようによ。そんなことせずとも自然とこれだけフサフサの毛がねぇから、あんなことしてんだ。あいつらあれ着用しても冬になれば、熱のある所を求めて震えてやがるぜ。ケケッケケケ」

「それはわかるわ。連中らああ見えて頭頂部以外は、ほとんど毛がニャーからな。俺たちはそれに関しては勝ったな。だけどイマドあまりそれ言わないほうがいいな。こういっても俺たち、半ば連中らに食わしてもらっているもんだから」といってゴウトは周囲に視線を置く。幸いに周りに人はいない。というより人に理解できるコミュニケーションを持っているわけでもないが。
「まあな、ちょっとしゃべり方で旨く媚びて、体を近づけながらユルユルこすりつけるだけで『かわいい』って言うニャーらな。それでこっちの勝ちってこった。知能が高いくせにちょろいもんだぜ」というと、イマドはわざとひっくり返って腹ばいになる。そして「ニャー」と何度か鳴きながら、体をゆるゆる動かした。これは完全に人に媚びるように見えるポーズを続けている。

「で、話が戻るが、その招き猫ニャーよ」突然無理やり話題を変えるゴウト。それを聞いたイマドは、媚びるポーズをやめて元に戻る。
「この豪徳寺の奴らもよ。招き猫の発祥の地だとか言って、エピソード考えてニャンの」
「ほう、どんな、内容ニャー」「ああ、それはな、江戸寺内の彦根藩第二代藩主井伊直孝という殿様が、弘徳寺で猫が手招きしているのを見たっていうんニャー」「どうせグルーミングしてただけニャーろうに」
「それが気になって立ち寄ったら、途端に雷雨が降ったってんだ。それで井伊の殿さまが喜んだって話。猫の死後に住職が作ったって寸法ニャー」

---

「それさ、ちょっと違ってるニャー」と、突然話に入って来たのは。ジュシコという白猫。実は彼女は姉妹で、彼女同じ白猫ながら、黒い尻尾で見分けがつくシジョミという妹がいる。
「お、ジュシコったく何しに世田谷の田舎に来たニャー。都会の新宿で、気位の高いだけが取り柄のキャットさんよ」といきなり突っ込むゴウト。
 だがジュシコは毎度のこととばかり気にしない。「あれ? 世田谷って東京23区内じゃなかったニャーしら」野良とは思えない毛艶のよいジショコ。おそらく彼女は新宿の飲食店から出る残菜を毎日食っているから、相当のグルメなのだろう。

「またなんで急にくるの。びっくりしたニャー。あれ妹のシジョミは、どうしたニャー」とイマド。といいつつ彼は、実のところ、ひそかに姉のジュシコのことが気になって仕方がない。
「急も何も私はホモサピエンスじゃニャーの。だからスマホも持ってないし、いきなり来るしかないニャー。あ、ゴウト、シジョミあとで来るからね」「関係ねぇニャーよ」といいつつも、ゴウトはひそかにシジョミが好きであった。

「じゃなくて、その招き猫の話、私は別のエピソード知ってるニャ」
「ほう聞かせてもらおうにゃよ」と、ゴウトはジュシコとは対照的な黒いボティーに身を包んだ姿で威嚇的なポーズをとる。しかしジュシコは気にせず語った。
「新宿の自性院(じしょういん)の伝説で、戦国時代の戦いで劣勢になった太田道灌。彼がが黒猫に導かれて自性院に案内されて、それで体制を持ちえした。だから猫の地蔵を奉納したというのが招き猫のきっかけニャーよ」
「黒猫ニャー!」ゴウトは思わず自らのボディの色から妙な親近感を持つその猫を自分と重ね合わせた。

「姉ちゃん。それ違うニャー」と、ここで現れたのは妹のシジョミ。姉と違い白猫ながらアクセントとなる黒い尻尾を左右に振りながらの登場だ。
「私が知ってニャーのは、江戸時代中期に、子供を亡くした豪商が冥福を祈るために猫の顔を書いた『猫地蔵』を自性院(じしょういん)したことから始まったって聞いてるわよ」「も、シジョミどこからそれを」
「おう!そんなことより、シジョミ今日も黒い尻尾がかわいいな。俺はシジョミに一票だ。ゴウトは上機嫌に大きく「ニャオ!」鳴いた。

----

「いろんな説があるようだけど、おいらのも言わせてもらうニャーぜ」と、話に割り込んだのはイマド。茶虎のボディをゆっくりと動かしながら語りだす。

「昔、浅草花川戸に住んでいた老婆がいた。彼女は猫を飼っていたが、貧しいので愛猫を手放せざるを得ない。するとその日の夜夢枕にその猫が現れた。そしてこういう『自分の姿を人形にしたら福徳を授かる』。それを聞いた老婆はさっそくそれを実施する。それはその猫の姿の人形を作成した。これ今戸焼(今戸人形)として浅草神社(三社様)鳥居横で売ったところ、たちまち評判になったという」
 内容もさることながら、イマドの語り方に思わず聞き入った三猫。
「どうだい、この招き猫発祥伝説。夢で教えてくれたっていうんだから、ニクイにゃよ。で知ってんだ。あと京都の伏見稲荷とか豊島区の西方寺とかいろいろとあるニャ」

「イマドにゃん。なかなかグッドな話ニャン」とジュシコは嬉しそうに鳴く。「姉さんの言う通りニャー」とシジョミも続く。
「もういいニャン。それよりあれしようぜ」とちょいと不機嫌な。ゴウト。
「ゴウト、それは私もするニャー」とシジョミ「わたしもニャー」とジュシコ。「決まったな。一斉やるぞ」と、イマドは仕切るとカウントダウンを始める。

「3・2・1・ニャン!」その瞬間。一斉に人を招くかのようなポーズをとって毛繕いを始める4猫であった。




※こちらの企画、現在募集しています。
(エントリー不要!飛び入り大歓迎!! 10/10まで)

こちらは89日目です。

ーーーーーーーーーーーーーーーー
シリーズ 日々掌編短編小説 254

#小説 #掌編 #短編 #短編小説 #掌編小説 #ショートショート #100日間連続投稿マラソン #擬人化 #猫 #招き猫 #9月29日 #招き猫の日


この記事が参加している募集

スキしてみて

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?