マガジンのカバー画像

素敵な短編小説

7
運営しているクリエイター

記事一覧

夏なので怖い話でも

夏なので怖い話でも

稲川淳二さん風に読んでもらえると雰囲気が出るかも。

あんまり怖くなかったらすいません。

あれは僕がまだ中学生の頃です。

夏休みも中盤に差し掛かり、じめっとした暑い日が続いていました。

その日は隣の市で祭りがあるとのことで、当時仲の良かった友達3人と

自転車を漕いで向かいました。

夕方とはいえ、わざわざ着た甚平も汗でびっしょりに濡らしながら、

山道を立ち漕ぎし、「お前必死だなぁ」なんて

もっとみる
秋といえばコオロギじゃない?

秋といえばコオロギじゃない?

コオロギたちは秋の創造主を自負していた。

熱風を涼風に変え、緑葉を落ち葉に変え、昼を短く夜を長くするのは、創造主たる使命として甘受していた。

こんな伝承が語り繋がれていた。

宇宙が擦り合い、音が生まれた。
音は空と土を造り上げた。
空と土は混じり合い太陽と月が産まれた。
コオロギの始まりはこの二つの卵である。
全てのコオロギはこの子孫である。

年々コオロギたちの数は減っていたが、ここに一匹

もっとみる
カメとウサギ サングラス版

カメとウサギ サングラス版

ある日のことです。



ウサギさんはカメさんが野原をのろのろ歩くのを見てバカにしました。



「なんだってそんなゆっくり歩くんだ。

 お前がひとつ、ふたつと歩くたびにアクビがでちゃうよ。」



ウサギさんはわざと大きなアクビをしてカメさんを笑います。



それを聞いた負けず嫌いのカメさんは怒って



「なにを~!じゃあかけっこで勝負してみようじゃないか。

 僕の方が勝つかも

もっとみる

カメとウサギ イタリア版



ある日のことです。



ウサギさんはカメさんが野原をのろのろ歩くのを見てバカにしました。



「なんだってそんなゆっくり歩くんだ。

 お前がひとつ、ふたつと歩くたびにアクビがでちゃうよ。」



ウサギさんはわざと大きなアクビをしてカメさんを笑います。



それを聞いた負けず嫌いのカメさんは怒って



「なにを~!じゃあかけっこで勝負してみようじゃないか。

 僕の方が勝つ

もっとみる

花屋

『花屋』と呼ばれるバーテンに1人の男が客で来ていた。

その男は色落ちしたスーツを着て、見るからに冴えないサラリーマンだった。

動画が止まったように無表情のその男は、頬杖をつき、ひたすら強い度数のカクテルを飲んでいたが、

やがて大きなため息をつきバーテンダーに話しかけた。

「なぁ、兄さん。俺はもう何年も笑ってないんだよ。

それどころか泣きもしないんだ。感情なんて無駄なものが、どうやら消えち

もっとみる

最高の食材

人類史上最高の料理が食べられると、知る人ぞ知るレストランがありました。

そこでは高価なスーツと宝石を着飾った紳士淑女達が集まり、一つの丸テーブルを囲み、

興奮気味に料理の登場を今か今かと待ちわびていました。

時の満ちた頃です。

丸テーブルにスポットライトがあたり、優雅なクラシック音楽が流れると、

テーブルの真ん中に四角い穴が開き、微かな機械音と共にエレベーターのよう

に黄金の箱が上がっ

もっとみる

千羽鶴

喫茶店の中では静かなジャズが流れている。

朝から他の客はおらず、僕は貸切状態で長いことテーブルを占領していた。

雨が叩きつける窓の外では今日もデモ隊が騒いでいる。

学生達を中心に、次いで多いのは老人達だ。

時間を持てる人しか行動を起こせないんだろう。本来ここにいなければいけないはずの企業戦士は蚊帳の外だ。

僕はというと、遠い国の貧困に苦しむ子ども達のために、ここに座りひたすらに鶴を折って

もっとみる