kudou

こんにちわ。 何か小説を載せてみたいと考えてますが、他にも好きな記事も書いてみたいです。

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  • 旅行く者の玄関

最近の記事

旅行く者の玄関(60) 終り

 明美の家から微かに漏れる音は昔ながら友達が集合して、昔ながら笑い声だ。幸せだの不幸せのなんたるかを噛み締め味わってそのまま過ぎて消え去る時間を楽しんでいる仲間を互いにいと惜しんでいた。

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    • 旅行く者の玄関(59)

      「そうなの、それが新しいしきたりなら私たちも従うわ。でもどこにするの」 「そうね、子供のころそれぞれの家に行く分かれ道、あそこがいいわ」 「あぁ、そうね。私たちの象徴的な場所だからぴったりよ。きっとみんなも賛成してくれるわ」 「そうね、なら重美がみんなに連絡して置いて。私はここの葬儀の準備をしておく」  葬儀と言っても、みんなが集り酒やさかなを振舞うだけだった。翌日に火葬して、埋められる。それがこの地域のしきたりだ。あまりにあっさりしているけど、昔は坊さんに謝礼を出せるほど裕

      • 旅行く者の玄関(58)

        「全ては変わろうしている。ひょっとすると二百七十年前の先祖もそうしてここに来たのだわ。ならばまた出ていくこともあるだろうとは思う」 「そうよ明美、もうここを出ましょう。それがいいわ。先祖が新しい土地を目指したように、私たちも明美もみんなここを旅立つの」 「そうね、考えておくわ」  佐藤医師が母親の検死などが終わって出てきた。 「先生、ありがとうございました」  明美は一礼して、佐藤医師も返礼して去った。あまりにもあっさりしていたが、医師としての仕事に慰める義理もないだろうから

        • 旅行く者の玄関(57)

          「重美たちは街に出て簡単に価値観が変わったのよ」 「そうね、そうかもしれない。だけど地域の価値観なんてそんなモノぐらいだと。あっ明美ごめん、馬鹿にするためにいったんでなく、正直な感想よ」 「解っているわ。ただ私は街で住んで無いのでこの価値観が簡単に変容するのが信じられないの。またそれを信じることが正しいのかさえ疑っているわ」  明美は自分の前に大きな壁を築いていた。いやその壁は元々あり、重美にもあった壁だと今重美は気づいた。 「そうね。土地が変われば水が変り、変わった場所の水

        旅行く者の玄関(60) 終り

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        • 旅行く者の玄関
          60本

        記事

          旅行く者の玄関(56)

          「明美、やっと終わるわね」  重美は静かに言った。 「いえ、また新しい問題がでてくるわ。そしてその新しい問題に立ち向かうのはのは、地域ではもう自分だけ」 「それは違うは明美。私たちがいるじゃ無い」  重美は笑ってみせた。 「あなた達はもうこの地域の住民じゃ無い。ここの法則に従う必要もない。そういうしきたりだったでしょ。この地域にはもう私しかいないのよ。地域を出た者は、本当の意味で二度と地域の者に慣れない」 「では明美がしきたりを新しく作るのがいいわ。何も昔のしきたりを引きずる

          旅行く者の玄関(56)

          旅行く者の玄関(55)

           一夫も高介も良太も重美もそれは同じだった。ただ、明美と彼等たちの違いは明美がづっと地元にいて、他の者たちは地元から他の都市に進学したということだ。そこで明美以外は、とんでもない事実に突きつけられた。それが核家族という言葉と実態だ。それは彼らが住んでいた言わば地域家族とも言える複数集合的家族集団とはかけ離れた存在だったのだ。今までと真逆の世界の現実と折り合う苦労は地域での生活のほぼすべてを隠すという結論にそれぞれが至った。示し合わせるではなく何と無く明美以外の四人が集まったと

          旅行く者の玄関(55)

          旅行く者の玄関(54)

          「何がおかしいの」  明美は重美を観察して静かに言った。なにも責める口調でないのは、理解した。 「なにも笑ってないわよ。明美にはそう見えたかもしれなかったら、御免ね」  明美はまた黙った。それが明美の流儀になっていた。何かを我慢することの利益みたいなことを明美は信じていた。それも古老から教わった一つかもしれないと明美は窓の外の木を見ながら思った。我慢し失うことによって何かを得ることは確かにあるが、それは世間的には大きな価値があることではないが、古老たちはそれを一つの価値として

          旅行く者の玄関(54)

          旅行く者の玄関(53)

          「拝見します」  医者の佐藤は亡骸の目をライトで当てた理じっくり検分していた。医者は腕時計を見てカルテに何かを書き込んだ。 「死亡時間は、現在の午後2時43分となります」  医者の佐藤は一礼した。明美と重美は深々と返礼した。 「これから御遺体の処理になりますので、ここからお二人は別の部屋でお待ちください」  明美と重美が下がろうとすると、看護師女性二人が入って来た。 「先生、遅くなりなした」  少し息がキレ気味だった。どこかの訪問看護の後にきたのだろう二人の看護師は明美と重美

          旅行く者の玄関(53)

          旅行く者の玄関(52)

           地域の全ては終焉にむけて走り出していた。気がつくともう夕方に近く山はオレンジ色に染まりだし、烏の気の抜けた日常の鳴き声がいっそう悲しく滑稽だった。 「一夫の方。終わったわ」  重美は疲労した顔で言いながら良太を見ていた。何か不吉な結果を良太から読み取ろうとしていた。しかし良太は笑っていた。 「良太どうしたの」  重美は良太の顔をつねる仕草をして聞いた。 「明美の母親は亡くなった」  良太は深刻な顔してみせた。 「どうしてそんなことするの」  重美は良太を叩こうとしていたが、

          旅行く者の玄関(52)

          旅行く者の玄関(51)

           一夫と良太が向かい合って車の中にいた。良太が運転から後ろの良太を見ていた。 「本当なのか。明美がやったのと違うのか」  一夫は良太の目を見て責めるようなきつい口調で聞いた。緊張が車内を満たした。 「それは無い。首に締め跡もなかった」  良太は静かに答えた。 「他にも送るやり方はいくらでもある。違うか」  一夫は助手席の窓の向こうを見ながら言った。そこには先ほどまで空に向かって立っていた桜の大木が倒れていた。 「あぁ、でも明美は言った。医者を呼ぶと、死亡診断書を書いてもらうの

          旅行く者の玄関(51)

          旅行く者の玄関(50)

          明美は自由にを覚えた。それは母親の介護からの自由であり、地域社会からの脱却の自由でもあった。なぜか悲しくは無かった。枷が外れた軽さとも同じだった。  明美は一夫や良太や高介や重美がこの自由をとっくに味わっていたことを思い至り、自分の鈍さに笑った。声を出して笑った。笑った後には、それでも後悔は起きなかった。自分で納得してやったことであり、その行為の価値には意味があるということは疑いはないのだからと、明美はうなづいた。昨日まで、いや先ほどのまでのことはもういいと母親の亡骸を見て思

          旅行く者の玄関(50)

          旅行く者の玄関(49)

          「あっ、亮太。みんなをウチに集めて」  ちょうど窓の外に良太が見えたので声をかけた。 「どうした」  良太は明美の声の調子に怪訝な顔で勝手知ったる明美の家に入ってきた。 「お母さんよ」  明美が母親をみてた。 「知っている。明美の母親だ」 「いえ知らないはずよ。死んだ母親を」 「とうとうやったのか」  良太はびっくりして、明美の肩を抱えて目を覗き込んだ。 「相変わらず良太はバカねぇ」 「ならなんで死んだんだ」 「一応、これからかかりつけ医に電話して確認してもらうけど、自然死よ

          旅行く者の玄関(49)

          旅行く者の玄関(48)

          「ただいまぁ」  明美はいつものように元気に帰宅を告げた。 「お早いお帰りで」  と意識が途絶えた母親が言った気がした。空耳だがそう確かに聞こえた。それは母がまだ若い頃からの口癖でもあった。慌てて奥の母親の部屋に行った。目を静かに瞑り腹は微かに上下していた。 「大丈夫そうね」  明美はここ数年変わらぬ母親の姿を見て思った。同じ姿なのにここ数年喜怒哀楽を心の中で母親にぶつけてた自分を思い出し、その姿を自分で哀れんだ。今日そんな感情が浮かんできたのは、地母神との一体感があったから

          旅行く者の玄関(48)

          旅行く者の玄関(47)

           明美は飛ぶように下り坂を降りていた。跳んでは大きな石を蹴り向きを変え、また飛ぶの繰り返しで、驚くほど早く移動していた。明美の得意技と言ってもいいくらいだ。そのスピードに付いてこれるのは仲間でもいない。わずかに良太が遅れて付いてこれるくらいのものだ。  記憶が過去に戻った。 「明美はあいわらず早いなぁ」  小学六年の良太は感心した。 「良太こそ、誰にも教えられずそこまで早いのはたいしたもの」 「えっ、明美は誰かに教わったの」 「山向こうの古老に教わったのよ」 「あぁ、あの仙人

          旅行く者の玄関(47)

          旅行く者の玄関(46)

          「良太ぁ」  良太が気づくと、一夫と高介と重美の三人がいた。桜の大木はすでに切り倒されていた。 「大きな音がすると思ったら、意外とあっさりと静かに倒れて呆気なかったわ」  重美が桜の大木を指差した。 「そうなのか。首吊りの木は、俺を道連れにしようとした感じだった。谷底に落ちそうになったのを明美が助けてくれてなければ俺は今頃は首吊りの木に冥土まで御一緒してたところだった」 「明美もいたのか」  一夫は驚いて良太の方に数歩近づいた。 「明美には俺たちの気持ちと行動を話したのか」

          旅行く者の玄関(46)

          旅行く者の玄関(45)

          「では、今回のことも了解してくれるのだな」 大人の雰囲気をわざと出す低めの声で良太は明美に聞いた。 「構わないは、ただ以前として同じ問題は抱えていることになるけど」 「それは、なんとか頑張れよ。今は行政サービスもあるのだから」 「私たちの地域は御上に頼らない方針できたので誰にも文句を言われずにやってこれたのを忘れてはいないでしょね」 「その地域も今は崩壊してるじゃないか。時代は変わったのだよ。変わった時代に古いしきたりと時間は帰ってこない。言うなれば船頭のいない幽霊船みたいな

          旅行く者の玄関(45)