旅行く者の玄関(46)

「良太ぁ」
 良太が気づくと、一夫と高介と重美の三人がいた。桜の大木はすでに切り倒されていた。
「大きな音がすると思ったら、意外とあっさりと静かに倒れて呆気なかったわ」
 重美が桜の大木を指差した。
「そうなのか。首吊りの木は、俺を道連れにしようとした感じだった。谷底に落ちそうになったのを明美が助けてくれてなければ俺は今頃は首吊りの木に冥土まで御一緒してたところだった」
「明美もいたのか」
 一夫は驚いて良太の方に数歩近づいた。
「明美には俺たちの気持ちと行動を話したのか」
「話した。そして理解してはくれたが、それが明美の心に伝わったのかは、まだ解らないのだ」
「明美はなんと言っていた」
 一夫は少し深刻な顔で聞いた。
「私が決断したら、手伝ってくれるかと聞いてきた」
「そうか、でなんと答えた」
「もちろん手伝うと答えた。それ以外の選択肢が俺たちにあるのか」
「そうだな、地域とはそういうモノだからな」
「明美がどう決断しようと、それを共有するために俺たちがいる。しかし、より良き方向に導くために俺たちがいることも確かだ。明美はきっと解ってくれていると思う」
「そうだといいんだが、明美はあの気性だからな」
 一夫と良太は顔を見合わせたら、なぜか笑がこみ上げて笑った。帰省して初めての心からの笑顔だったかもしれない。

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