旅行く者の玄関(53)

「拝見します」
 医者の佐藤は亡骸の目をライトで当てた理じっくり検分していた。医者は腕時計を見てカルテに何かを書き込んだ。
「死亡時間は、現在の午後2時43分となります」
 医者の佐藤は一礼した。明美と重美は深々と返礼した。
「これから御遺体の処理になりますので、ここからお二人は別の部屋でお待ちください」
 明美と重美が下がろうとすると、看護師女性二人が入って来た。
「先生、遅くなりなした」
 少し息がキレ気味だった。どこかの訪問看護の後にきたのだろう二人の看護師は明美と重美を居間に案内してた。
「処置が終わるまでお待ちください」
 一人の看護師が言った。明美が頭を下げたので、家族と確認したような看護師は母親の亡骸の処置に戻った。
明美と重美は居間でじっと待っていた。重美は何か言いたそうだったが、明美の黙り込む迫力に負けていた。いつもそうだったと重美の足元を見て思い出していた。明美の子分という気持ちは無いにしろ、いつも行動判断は明美の方が素早く正しかったのを思い出し仕方無いかぁと思うところが常だった。それは前世からの宿命のような気もしていたが、そうでも無いような思いになったのは今回が初めてだった。私はもう十分大人よと重美は確認してた。時間が解決してくれようとしていたか、行動履歴の結果なのか、その両方だったかもしれない。これが生きることなのかしらと重美は薄く笑った。

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