工東工

「くどうたくみ」と読みます。掌編小説をメインに更新中。小説から沢山の「面白い」を貰って…

工東工

「くどうたくみ」と読みます。掌編小説をメインに更新中。小説から沢山の「面白い」を貰って生きてきたので、今度は私が小説で「面白い」を届けたい。そして文章をなりわいにしたい。チョコとカフェオレのせいで太ったので、しぶしぶ筋トレをはじめました。 ツイ垢作りました。鳥マークからどうぞ。

マガジン

  • 工東工の掌編小説集

    私が書いた掌編小説をまとめています。

  • 落書きショートショート

    あんまりちゃんとしてない方のショートショートまとめ

最近の記事

第85年度原始魔法部新旧部長対決(ショートショート)

 ついに先日、木枯らし一号が観測された。水の抜かれたプールの底に二人の男が立っていた。パーカーにジーンズというラフな格好の上から黒いローブを纏った男が一人。そしてその向かいには高校制服のブレザー姿に紫色のマントを纏った男だ。ちょうどプールの四分の一の位置に立ち、木製の細い杖を右手に持って真剣な顔で睨み合っている。プールサイドからは制服姿の男女八名がそれを見下ろしていた。そのうちの一人が前に出る。 「それでは、第85年度原始魔法部新旧部長対決を始めます」  「かまえ!」の声に合

    • ショッピングモールにはいろいろある(落書きショートショート)

       土曜日のショッピングモールは人が多い。服を見て回る母の後ろをついていくことに飽きた少女は、向かいのテナントで雑貨を眺めていた。特に欲しい物があるわけでもない。ブラブラと歩いていたが、知った顔を見つけてとっさに棚の後ろに隠れた。  一呼吸おいて、顔を覗かせる。  金髪のポニーテールをゆらすちょっとツリ目の、十代後半の女が雑貨を手にとって眺めていた。少女は声をかけるべきか迷った。女の様子を伺う。一人で商品を眺めながら歩いては、時折手にとっては戻している。特別忙しいわけではなさそ

      • 安全に行きましょう(落書きショートショート)

         ふらり、ふらりと小さな自転車が道を行く。黃、赤、緑のフレームで構成されたカラフルなそれには、やはり小さな男児が乗っていた。歩いたほうが早いんじゃないか、と言いたくなるほどゆっくりと道路を進んでいく。  先の自販機の前に、スーツ姿の男が立っていた。小銭を入れてコーヒーのボタンを押し、しゃがみこむ。その瞬間、男の尻に男児の自転車が突っ込んだ。 「痛ってえ!」という男の声と、ガシャンと倒れる自転車の音が重なる。男は尻を押さえて振り向いた。倒れていた自転車も操縦者も、想像よりずっと

        • 本を食う虫(落書きショートショート)

           本の虫、大絶賛。  帯にデカデカとそう書かれた本が、平積みにされている。僕はため息を付いた。この本は発売されてからもう一年近く立つ。小説の棚を眺めながら歩く。僕の本は棚に二冊刺さっているだけだった。  本の虫と呼ばれる種族がいる。上半身は人間と変わらないが、腰から下が芋虫そっくりらしい。いわゆる人魚の芋虫版だ。なぜ『本の』と着けて呼ばれるかというと、この種族は本を食すからだ。本の虫が「うまい」といった書物は素晴らしいものとされている。だから大手出版社は大々的に売りたい本を発

        第85年度原始魔法部新旧部長対決(ショートショート)

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        • 工東工の掌編小説集
          7本
        • 落書きショートショート
          6本

        記事

          かき氷が食べたい人(落書きショートショート)

           本屋から出た瞬間、思わず「あっづい」と声が出た。買ったばかりの小説のせいで重たいかばんを肩にかけ直して、嫌々歩き出す。コンクリートジャングルとはよく言ったものだ。ここは危ない。生死に関わる。まだ一〇〇メートルも進んでいないのに、すでに全身から汗が吹き出していた。顔面に直射日光を食らうと体感温度が五割増しになるので、ひたすら俯いて歩いた。信号のない小さな横断歩道を二つ渡り、商店街に出る。駅の姿が見えたところで、一つの張り紙を視界の端に捉えてしまった。白地の紙の下部分に青い波の

          かき氷が食べたい人(落書きショートショート)

          どうやら人を殺したらしい(落書きショートショート)

           たぶん死んだのだろう。  真っ赤な血がじわじわとフローリングに広がっていくのを、ぼけっと眺めていた。茶色の髪の下からどんどん広がって、白い服や机の下まで侵食していく。彼女はピクリとも動かなかった。ほんの一瞬前まであんなに煩かったのに。朝からあまりにもうるさいから、カッとなって「うるせえ!」とベッドサイドの灰皿を投げた。そうしたら生まれて初めて聞く鈍い音がした。そのままドサリと倒れて、そしてじわじわと広がっていった。  しばらく放心状態でベッドの上にあぐらをかいて眺めていたが

          どうやら人を殺したらしい(落書きショートショート)

          消化不良(落書きショートショート)

           丸い机に掛けられたテーブルクロスは案の定白く、その上のティーセットは、やはりというべきか、白を基調に金の縁と花柄で彩られている。アフタヌーンティーって言うんだっけ。食べ物が積まれた小さな塔のようなそれを、ちらりと盗み見た。目の前の男はこちらに向かって頻りにつばを飛ばしてくる。 「家に赤い薔薇を飾る女なんて論外だろ。いや性別は問わない。人として論外。下品なんてレベルじゃない」 「はあ」 「まだガーベラはいいよ。特に真ん中が黒いやつ。黄色いやつはちょっと癪に障るけど、まあ許さん

          消化不良(落書きショートショート)

          星の子(落書きショートショート)

           もう午後六時半を過ぎているのに、あたりはまだまだ明るい。しかしふとした瞬間に短く吹く風は冷たかった。コンビニのロゴが入った袋がアスファルトの上を飛ばされていく。その先に一人の男がうつ伏せに倒れていた。真っ黒な髪が頭部を覆っている。白いTシャツは骨張った背中を強調するかのようだ。半袖ではまだ寒いだろうに。私は彼に同情した。それと同時に思った。彼は星の子だ、と。  少し離れた位置で見守っていると、彼はのそのそと身を起こした。アスファルトに正座をして、背を随分丸めてうつむいている

          星の子(落書きショートショート)

          なぜ『その言葉』を選んだのですか

          「ひとりの消費者として、奥さんや彼女に聞くのもいいかもしれません」  本筋と全く関係ない部分が引っかかって読書が進まない経験がある人は多いだろう。私もとあるビジネス書を読んでいて、この一文でちょっと落ち込みながら色んなものが湧いてきた。  先に言っておくが、この本は十年以上も前に発行されたものであり、また私はこの書籍や著者、出版社を批難するつもりはない。  おそらく今後発行される本にこのタイプの文章が載ることはほぼ無いだろうが、せっかくなので溢れてきたものをここに記しておくこ

          なぜ『その言葉』を選んだのですか

          杏夏さんは本が好き「ヒトはなぜ先延ばしをしてしまうのか」

          「ヒトはなぜ先延ばしをしてしまうのか」 著:ピアーズ・スティール                      翻訳:池村千秋 ※小説形式の読書感想文です。プロローグはこちら↓  疲れて帰ってきた日は総じて良くない。おかえり、と言ってくれる杏夏に適当に返事をしてから、茉波はソファにどかりと沈んだ。杏夏はまだキッチンに立ったままだ。夕食を作り終えていないのだろう。だからまだ運ぶ手伝いをしなくていい。それをいいことに茉波はかばんからスマホを引っ張り出した。さっさと部屋着に着替える

          杏夏さんは本が好き「ヒトはなぜ先延ばしをしてしまうのか」

          杏夏さんは本が好き「ペンギン鉄道なくしもの係」

          「ペンギン鉄道 なくしもの係」 著:名取佐和子 ※小説形式の読書感想文です。プロローグはこちら↓  仕事から帰宅し、部屋着に着替えた茉波は小走りでキッチンへ向かう。ルームシェア相手兼幼馴染の杏夏が混ぜている鍋を覗いた。トマトのいい香りが鼻をくすぐる。 「ビーフシチュー?」 「うん」  混ぜるのを止め、杏夏は皿にビーフシチューを盛り付けだした。茉波は鍋の横を確認する。レタスとトマトのサラダに、ししゃもフライ。そしてその横には丸いパンが四つ置かれていた。珍しいな、と茉波は首を

          杏夏さんは本が好き「ペンギン鉄道なくしもの係」

          杏夏さんは本が好き「プロローグ」

           仕事終わりに電車に揺られ、たどり着いたマンションのドアを開けたとき。家の明かりとともに夕食の匂いが現れることは本当に幸せなことだ。茉波は帰宅するたびに実感する。 「おかえりー」  鍋を混ぜながら声をかけてくれる杏夏は化粧もせず髪もぼさぼさだ。今日も一日外出しなかったのだろう。羨ましい。大学時代からブログで稼いでいた杏夏は卒業後もブログを継続しつつ、たまにライターとして外部でも記事を執筆して生計を立てている。 「ただいま」  茉波はパンプスを脱ぎ捨てて家へ上がった。さっさと自

          杏夏さんは本が好き「プロローグ」

          一番は誰だ?(ショートショート)

           柏原美羽がキーボードを叩く音が、がらんとしたオフィスに響いている。美羽がエンターキーを押して手を止めると、次は時計の音だけがやけに響いた。美羽は伸びをしながらオフィスを見回した。誰もいない。時計は午後十一時過ぎを示していた。  息を吐きながら伸ばした腕と背をだらんと垂らした。終電までには終わらせたい。そんな一心で美羽は再度モニターと向き合った。  そんなとき、なにかを床に打ち付ける音が廊下から小さく聞こえてきた。それは美羽のいる部屋の前を通って、さらに奥へと進んでいく。ヒ

          一番は誰だ?(ショートショート)

          四月一日の魔法(ショートショート)

           隣の彼女は、ワンレンの前髪ごと耳へかけた。露わになったフェイスラインは先週のそれとは明らかに違っていた。  彼女が私の部屋に来るようになったのは去年の秋だった。高校から真っ直ぐ帰ってきた日だった。いつものようにリビングのドアを開けると、かしこまったお母さんの向かいに彼女が座っていたのだ。 「来週から来てくださる家庭教師の先生よ」  家庭教師なんて聞いてないよと文句を言うより先に、彼女は立ち上がってニコニコと私にお辞儀をした。 「元宮です。よろしくね」 「……よろしくお願い

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          目標達成!原稿料(という名の小遣い)でkindle端末買いました

           note継続のために、2月半ばに上記の記事を投稿しました。  端的に言うと、noteに投稿した分だけ貯金して、欲しい物を買う、といった内容です。  無事に目標達成したためkindle端末購入しました! 目標内容目標:原稿用紙36枚  達成報酬:Kindle Paperwhite 32GB 広告無し wifiのみ(17,980円)  原稿用紙1枚で500円と計算し、36×500の18000円で計算しました。  開始日:2/19 達成日:3/17  投稿したのは以下6個です。

          目標達成!原稿料(という名の小遣い)でkindle端末買いました

          ラブレターなど燃やしてしまえ(ショートショート)

           リビングに置かれたダイニングテーブルでもそもそとトーストをかじる。目玉焼きにベーコン、オレンジジュース、サラダにヨーグルト。私にとっては普通の朝食だ。以前、玲菜に朝食の話をしたら 「めっちゃ羨ましいんだけど」  と言われた。玲菜の家では基本的に白米しか出てこないらしい。そこに卵なりふりかけなりを好きにかけて食べるそうだ。玲菜の弟は、最近マヨネーズと醤油をかけるのがマイブームらしい。ちょっと信じられない。 「あんたはただでさえ起きるの遅いくせに、食べるのもゆっくりなんだから

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