きょうすけ

大阪 24才 先の人生を全て小説家になることに捧げています。 新人賞に応募しながら、…

きょうすけ

大阪 24才 先の人生を全て小説家になることに捧げています。 新人賞に応募しながら、箸休め的に散文を書いています。 https://www.instagram.com/ks17robinson

最近の記事

#31『エヴォリューション』

殴り書きのようなエッセイとは長らく距離をとっていた。 と言うのも、殴り書きでは到底太刀打ちできない文章と向き合っていたからだ。 あるいは、文章よりももっと内省的な自己の問題を相手にしていたのかもしれない。 とにかく僕は死に物狂いで、10万字程度の小説を書き上げた。 その生命力を持った作品を、河出書房新社が主催する新人の登竜門、文藝賞に応募した。 作品を書き終えた今、期待や不安や興奮などはそれほど無く、奇妙な安心感だけが心の割合を大きく占めている。 やり切った感覚と逃げ切っ

    • #30『スクリーマデリカ』

      90年代ロックの金字塔として1枚だけアルバムレコードを選ぶなら君は何を推薦する? ニルヴァーナの「ネヴァーマインド」かオアシスの「モーニング・グローリー」なら誰もが納得する結果だろうか。 あるいはレディオヘッドの「OKコンピューター」を選ぶのも今となっては健全な証拠だ。 偏屈な君はマイ・ブラッディ・ヴァレンタインの「ラブレス」なんて言い出すんじゃないだろうな。 昨今のシューゲイザーに対する再評価が著しいからってそれは流石に気を衒いすぎだ。 ブリットポップはさておき、9

      • #29『勝手にしやがれ』

        ある時からパンクロックとは一体何なのか判らなくなってしまった。 反体制的な思想、アナキズム、DIY精神、攻撃的なパフォーマンス、原始的なバンドサウンド、子供だましの音楽、若者の代弁者、それらしい定義はいくらでも思いつく。 しかしどれも当てはまるようで、なにひとつ相応しくない気もする。 パンクロック自体が多くのニュアンスを内包しすぎて、核心に触れる定義が見つからない。 自分は民族的な差別も、階級的な線引きも、権威からの抑圧も知らない。 イギリスのロックアンセムとして、パルプ

        • #28『ザ・ハイロウズ』

          ハイロウズのアルバムレコードを1枚ずつ聴きながら、生産性のない散文を書いてきた。 特にハイロウズの魅力を語るわけでもなく、その日の自堕落な精神を杜撰な形式でだらだらと認めてきた。 それも今回で終わり、ようやく8つの文章を書き終えて、暫くはハイロウズとお別れだ。 最後にファーストアルバムを残していたのは偶然だけど運命のようで意図的な計らい。 ブルーハーツを解散して精神的にまいっていた甲本ヒロトという男が、新しいバンドでリリースした最初のアルバム、過去との決別、そして向かうべ

        #31『エヴォリューション』

          #27『タイガーモービル』

          好きになれなかったものが大好きになる瞬間がある。 醜悪こそ美徳だと感じる傾向がある。 ロックンロールと出会った瞬間に、納得できないものを納得できるまで努力するという忍耐力を手に入れた。 本当に風変わりな性格だけど、ロックンロールに誑かされた僕達は、好きになれないものを好きになるまでひたすら努力してきた。 ローリング・ストーンズを、ボブ・ディランを、ルーリードを、レッド・ツェッペリンを、その全てが素晴らしいと思えるまで修行のように聴き続けてきた。 日本人の僕には泥臭い黒人

          #27『タイガーモービル』

          #26『ドゥ!!ザ・マスタング』

          目覚めは暴力。 昨夜は確かアルコールを飲んでいないはずだが、妙に目覚めが悪い。 不快な夢を見た気がする。 作為的な部屋に昔の恋人の裸が現れて、僕の劣等感を1から10まで朗読していた。 演じきれない僕は、耐えきれずに耳を塞いだまま窓から飛び降りた。 その瞬間何かが弾けて飛び散ちった。 仰向けの視界には、小雨滴る灰色の朝が世界中のさもしさを独り占めして、おはようも交わさずにしらを切る。 寝返りを打つ気にもなれないほど細かい疲れを溜め込んでいる。 優しいよどみの中でキリがない

          #26『ドゥ!!ザ・マスタング』

          #25『エンジェルビートル』

          遅すぎることなんて本当はひとつもありはしないのか。 今からでもまだ間に合うだろうか。 そんな愚問を繰り返して、一生物事を諦め続けるのだとしたら、何故自分は生きているのか判らなくなってしまう。 小学校の頃に通っていた絵画教室、物心がついた時から絵の具が大好きだったので、親に泣きわめきながら頼み込んで通わしてもらった。 仲のいい友達も同じ教室に通い始め、1週間の楽しみは、火曜日と木曜日に彼とお笑い番組の話をしながら画用紙に水彩絵の具を滲ませることだった。 恐竜の絵を描くの

          #25『エンジェルビートル』

          #24『ホテルチキポト』

          14才の頃の方が今よりも幸せだったかと言われれば、そんなこともないような気がする。 今とは別の向き合わなければいけないクソみたいなことがたくさんあって、消えてなくなりたいと思うほどいちいち悩んでいた。 そのほとんどは誰もが経験するありふれた出来事だが、当事者にとっては人生の全てを煩わしくする原因に他ならない。 例えば、訳の分からないことで友達との仲が拗れて、横暴な態度で阻害され、教室という小さな社会の中に存在するすべてが敵みたいに感じたことがあった。 あるいは、初恋の

          #24『ホテルチキポト』

          #23『リラクシン』

          深呼吸、リラックス、深呼吸、リラックス 明日のプレゼン、来週の待ち合わせ、人生を棒に振るような来年の決断、一生付きまとうぼんやりとした不安、それらにまつわる今日の焦燥感。 深呼吸、リラックス、深呼吸、リラックス 検索エンジンに連ねた淡い期待、「緊張した時の対処法」。 1に呼吸、2に呼吸、3に呼吸。 正しい腹式呼吸で副交感神経を優位にしてリラックス。 深呼吸、リラックス、深呼吸、リラックス サウナが効果的と言われれば週に何度も通い、ランニングが効果的と言われれば気

          #23『リラクシン』

          #22『バームクーヘン』

          誰の人生にも、自分自身をダサくさせるモノとの出会いがあるはずだ。 それは決して恥じることなんかではない。 ダサい毎日がダサく盛り上がるようなモノと巡り会えたのなら、どうかみんなもそれをしっかりと捕まえて離さないで欲しい。 若き日の汚点だなんて思わずにいつまでも大切にして欲しい。 こんなふうに当たり障りのない形式で書き始めたわけだが、根本的にクソである。 実際、他人が「自分自身をダサくさせるモノ」との出会いを大切にしようがしまいが、僕の人生には何ひとつ影響がないので勝手にし

          #22『バームクーヘン』

          #21『ロブスター』

          アルコールを飲まずに眠ろうとすると、名前のない不安が僕に肩を組んでくる。 今この瞬間ではない、遠い未来のような、近い過去のような、雲を掴む物事が僕を寝かせようとしない。 この街を流れる川は耐えきれない臭いがする、何もかもが垂れ流され、ぷくぷくと有毒なガスを放ち、隣の部屋に住む学生は一晩中咳をしている。 小学生の頃、肺に水が溜まって入院した病室の上の階の患者がO157で、一晩中トイレを流す音が定期的に響き、毎夜睡眠を妨げられた。 つまり、精神がキリキリと歯ぎしりをして、思考が

          #21『ロブスター』

          #20『鈍痛』

          1.僕は知らない。ビート世代の最終的なものを、ユースカルチャーが産声をあげた60年代のユーモアを、本質を失った長髪の競技音楽を、彼らの髪を裁ちばさみで切り落としたアナーキストを、電話付きのリムジンに乗るネオロマンチストを、商業リバイバルの養殖を、カーディガンを羽織った無様な精神病患者を。 (あるいは彼らの死すらも。) 阿波座の街を歩く、ホーボーすらも所在なく立ち尽くす整理された街、視界にはコンビニがひとつ、ふたつ、みっつ、そして、よっつ目のセブンイレブンに立ち寄る、欲しいも

          #20『鈍痛』

          #19『ラブ&ポップ2』

          かつて僕はこんな文章を書いたことがある。 もう今の時代に誰もラブ&ポップなんて必要としていない。 2014年に銀杏BOYZの新譜『光の中に立っていてね』がリリースされた時に、明らかにそういう世の中の変化を感じた。 未だに読み返しても、我ながらよく書けた文章だと思う。 当時の僕曰く、ラブ&ポップとは、("自分とトパーズの指輪" の関係のような)最小限の共同体における特別感らしい。 つまり新自由主義と題した構造改革によって野放しにされた若者の、幸せになりという片隅の願望を

          #19『ラブ&ポップ2』

          #18『聖なる河の畔』

          インド旅行では大学時代の友人に加えて、現地で出会ったバックパッカーの青年と共に旅をしていた。 海外旅行に不慣れな僕と友人にとって、世界中を飛び回る青年と出会えたことはとても心強かった。 ニューデリーにしか宿をとっていなかった僕らは漠然と他の街に行く想定はしていたけれど、彼と出会う前はその方法を知らずにいた。 今でこそ海外旅行を何度も経験した身ではあるが、やはり初めて行く国での移動手段の確保、つまり列車のチケットを現地で購入するのは、少し厄介である。 実際に後のフランス旅

          #18『聖なる河の畔』

          #17『ヒーロー』

          僕にはよくない友達がいる。 まるでケルアックの小説『オンザロード』の登場人物、ディーンモリアーティのような奴だ。 先日彼の結婚式に参列して、長い付き合いのあれこれを思い返しては恥ずかしい気持ちになっていた。 決して恥じている訳ではなく、いわゆる照れ笑いで、彼との過去を愛しているということを再確認するような感覚だ。 出会いはありふれたものだった。 ギターをやってる僕に対して、彼はどんなバンドが好きなのかと尋ねてきた。 どこにでも転がっているようなきっかけに過ぎない。 しか

          #17『ヒーロー』

          #16『名前のない少年』

          インド旅行でジャイプールという街に行った。 建物がピンク色に塗装された伝統的な街並みは世界的に有名で、インドに行けば大抵の人が訪れる観光地である。 初めての海外旅行で右も左も分からない僕らは、されるがままにタクシーの運転手に連れられニューデリーからジャイプールへと向かった。 運転手を勝手にケビンなんて名付けて呼んでいたんだけど、こいつがかなりの曲者で、僕らの自由気ままな旅を尽く邪魔した張本人である。 彼の口癖は、ファクトリーに行こう、車内で何度もこの言葉を聞かされた。 詳

          #16『名前のない少年』