見出し画像

#28『ザ・ハイロウズ』

ハイロウズのアルバムレコードを1枚ずつ聴きながら、生産性のない散文を書いてきた。
特にハイロウズの魅力を語るわけでもなく、その日の自堕落な精神を杜撰な形式でだらだらと認めてきた。

それも今回で終わり、ようやく8つの文章を書き終えて、暫くはハイロウズとお別れだ。
最後にファーストアルバムを残していたのは偶然だけど運命のようで意図的な計らい。

ブルーハーツを解散して精神的にまいっていた甲本ヒロトという男が、新しいバンドでリリースした最初のアルバム、過去との決別、そして向かうべき方向を提示した新境地の名刺。
僕はこのアルバムに裏切られた、悲しい気持ちにさせられた、ずっと変わらずに存在すると思っていたものが移ろい、何事も無かったかのように別の顔でまた生活を続けるという単純なことがあまりにも残酷だった。
だけどそれと同時に生き方を教わった。
人が生きていくとはきっと投げ出さずに手放すということ、ブルーハーツのファンが彼らに持つイメージが彼らを制約したとして、ハイロウズがそのイメージに忠実だったらきっと面白くなかっただろう。
なりたいようにはなれないのに誰かの都合よく変わっていく、と嘆いた10代は物分りが悪かっただけ、自分自身に正直であることこそなりたいように変わるということ。
誰かの都合とは幻想、自分自身が自分に課した制約。
ある日突然昨日とは別人みたいな顔で生活を始めるかもしれない、形は変わる、自分のままで、質素な生活、豊かな人生。
ブルーハーツみたいなことは今の自分はやりたくない、だからハイロウズが生まれたのだろう。

人生は本当に美しい。
これっぽっちも綺麗なんかじゃない、だけど美しい、だから美しい。
80年のうちのほとんどが虚無だ、満たされてもすぐに足りなくなる、些細な出来事で暗闇になる、思い通りにならないことばかりだ、思うように伝わらなくて拗れる、冗談みたいなことが実は本音だったり、真面目な顔で話したことがほとんどデタラメだったり、情けないけれどそれら全部が自分の体の中に存在する。
そういう真実に何万回と落ち込むけれど失望はしない、どん底まで突き落とされても望みを失うことはない。
ブルーハーツを解散してもハイロウズがあるように、その次にはクロマニヨンズがあるように、そんなふうに変わり続ける人生は美しい。

忘れてはいけないのは、僕らは常に最終的なものの中に存在しているということだ。
太宰治に悩まされたばかりに、ケルアックに心酔したばかりに、ロックンロールを溺愛したばかりに、人生を過大評価しすぎている。
僕らはそんな大それたものの中で生活していない。

何かを強く信じすぎることは時に自由を脅かす、僕らは自由を求めるあまりに、その自由にがんじがらめになっている、それが本当の不自由だ。
今この瞬間を蔑ろにして追い続ける遠くの最終的なものなんて、手に入れたとしてもきっと息が詰まるくらい不自由なものだ。
遠くに存在するものばかりに目を凝らして、目の前に存在するものを見落として、自分には何も無いと卑屈になるのはこの世に存在する最も不幸な生き方だ。
目の前に存在するのは自分にとって1番影響を与えるもので、案外都合のいいものばかりが自分の1番近くに存在する。
きっと初めてロックンロールのレコードを聴いた瞬間に最終的なものと出会っていて、今もずっとその中に存在している。
だけどそれが絶対的だと思い込むばかりに全てを見落としてしまう。
絶対的なものなんて存在しない、ロックンロールなんて人ひとりの人生を全て背負えるほど立派なものなんかじゃない、生き方を選ぶ時のBGM程度。
物事は全てその程度のこと、生や死を助長するものではない、分散させて均衡を保つための都合のいいもの。
悲しいことだけど、それは思想とか思考と呼ばれるものじゃない、エンターテイメントなんだ、今になってやっと気づいた、僕は大馬鹿者だ。

人は何歳になっても終わりのことを考えるには若すぎる。
毎日が死までの最初の日だという事実は全ての考えを若くする。
だから僕には毎日、自分の人生がいかに素晴らしいかということを証明する権利がある。
それを誰かに背負ってもらおうなんて考えたらきっと均衡が崩れてしまう。

ジョン・レノンを殺したマークチャップマンが常に「ライ麦畑でつかまえて」という小説を手に持っていたように、絶対的な何かに取り憑かれて犯す行動なんて、それこそ誰かの都合よく変わってしまうことに他ならない。
僕はハイロウズのレコードを100パーセントは信じていない、甲本ヒロトのことを、真島昌利のことを100パーセントは信じていない、0か100かなんて都合いい言い訳だろう。
全てのバランスを保つのは自分自身、比重を偏らせるのも自分自身。
僕はマークチャップマンにはなりたくない、だって幸せではないから。

幸せになるのには別に誰の許可もいらない。
死ぬまで毎日証明しようじゃないか、自分の人生がいかに素晴らしいかということを。

ほら、明日はいつも明るいぜ。

そしてここしばらくたくさんの興奮を与えてくれたハイロウズに愛を。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?