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雷門のお守りと ほおずき市

今日も朝から空は どんよりとした雲で覆われていましたが、
昼過ぎから、だんだんと明るくなってきて
久しぶりに青空が広がりました。

「やっぱり青空が見えると、ほっとするねー。」
「うん、元気出るよね。」
「でも涼しいねー。」

朝晩は 涼しさ通り越して 少し寒いくらいです。

「もう7月も二週目なのにね。」
皆、うんうん頷きます。

こざる達は、いつものように 皆で お喋りしながら
夕飯の仕度をしています。

「明日と明後日は、浅草寺の四万六千日、ほおずき市だね。」
「そうかー、もう夏なんだよね。」

入谷の朝顔市が7月の6日、7日, 8日で、
その後、9日、10日は浅草寺のほおずき市と決まっています。

「ほおずき市も、りこちゃんと 毎年、ずーっと通っていたね。」
「うん、りこちゃんは昔から浅草が大好きだからね。」
賑やかな、下町の風情がある浅草、りこちゃんは大好きです。

「ほおずき市の時も、お参りして、ほおずき買って、
鰻屋へ行ったり、その後に甘味処に寄ったりしてたねー。」
そんなことが、毎年、とても楽しみでした。

「一度、すごく混んでいて、りこちゃんとはぐれちゃったことがあったよね。」
「うん、いつも混んでいるんだけど、その日は日曜日だったかで、
更に混んでいて、それで仲見世で、りこちゃんとはぐれちゃったんだよね。」
皆、うんうん頷きます。

80を越えた りこちゃんは、今でこそ のんびりしていますが、
江戸っ子の りこちゃんは、元々せっかちで、歩くのも速くて、
人混みの中を どんどん歩いていってしまうタイプです。

「あの時も、どんどん歩いていっちゃって、
それでも、ぼく達、大丈夫って油断していたら、見失っちゃって大変だーってなって…」
「当時、りこちゃんは認知症の兆しはあったけれど、
まだまだ足腰も全く問題なくて元気で、もしどっかへ行っちゃって
行方不明になっちゃったら、どうしよう!!って、ぼく達すぐに交番へ行ったんだよね。」

そうでした。
りこちゃんは、少し物忘れはありましたが、
そのことを知らなければ、普通の人でした。
足腰も丈夫で、だからこそ、一人でどんどんどっかへ行ってしまったら大変と
すぐに雷門のところの交番へ行きました。

「若いおまわりさんが、ぼく達を落ち着かせるように、
優しくしっかりと対応してくれて、いろいろ聞いてくれたんだよね。」
「ぼく『一人で自宅に帰ることができますか?』って質問されたことが、とても印象に残っているよ。」
皆、うんうん頷きます。

おまわりさんは、名前、年齢、服装、様子など一通り聞いて、
そして その後に、「これは大切なことですが」と言って、
「一人で自宅に帰ることができますか?」と聞きました。

「そこが分かれ道なんだよ、帰れなかったら、
帰ろうと思っていても帰れなかったら、どこかへ行ってしまうからだよね。」
「りこちゃんは、一人で帰ることができるから、できますって答えたんだけど」
「でも、ぼく達、心配だったんだよ。」
「認知症は、ある日、昨日まで出来ていたことが、
突然、出来なくなったりするからね。」

そうなのです。
突然、出来なくなることもあります。

「でも、りこちゃんには携帯電話を持たせていて、
子供用のなんだけど、りこちゃんが電話に出なくても、数回コールすると
自動で着信するタイプで、それで、りこちゃんが どこにいるかわかったんだよね。」

何度も鳴らしても、しばらくは通じませんでした。
つながった時、りこちゃんは上野駅の改札口にいました。
通じなかった時は、地下鉄に乗っていたようでした。

「りこちゃんは、家に帰ろうとしていたんだよね。」
「それで、ぼく達、すぐに行くから、そこから動かないでねって言って、
雷門の おまわりさんにも、そう伝えて、すぐに上野駅へ行って、
「無事に りこちゃんと再会したんだよ!」
皆、うんうんうなずきます。

りこちゃんは、ちゃんと動かずに上野駅の改札の駅員さんのところで、
ニコニコして待っていました。
こざる達は、駅員さんに お礼を言いました。

「それから、また浅草へ行ったんだ。」
「だって、まだお参りもしていなかったし、
ほおずき市も見ていなかったからね。」

その前に、もちろん雷門の交番へ行きました。
皆で お礼を言うと、若いおまわりさんも、
他のおまわりさんも、ニコニコして とても嬉しそうでした。

「あの時、上野駅に行く前に、おまわりさんがくれた
雷門交番の電話番号が書いてある紙、大切に持っているよ!」

雷門の大切な大切なお守りです。
人生は、ちょっとしたことで、本当に些細なことで、
大きく変わってしまうことがあるのだと思います。
この時は、本当に とても運が良かったのです。


「その後は、ぼく達、ちゃんと りこちゃんと手をつないでお参りして、
ほおずき買ったんだよね。」
皆、うんうん頷きます。
「梅園に寄って、餡蜜も食べたよね。」
「うん、とっても美味しかったね。」


それから浅草に行く時は、
必ず雷門交番の前で、心の中でお礼を言います。
「ありがとうございますってね。」
「それから雷門通って、浅草寺にお参りするんだ。」

夕飯の仕度が出来たようです。

ラジオからは、こざる達の大好きな歌が流れてきます。

「走る街を見下ろして のんびり雲が泳いでく
誰にも言えないことは どうすりゃいいの?
おしえて」

斉藤和義の『歩いて帰ろう』です。
こざる達も一緒に歌います。

「急ぐ人にあやつられ 右も左も同じ顔
寄り道なんかしてたら 置いてかれるよ すぐに」

「りこちゃん、呼んでくるねー。」
こざるちゃんが、歌いながらりこちゃんの部屋へ向かいます。

「走る街を見下ろして のんびり雲が泳いでく
だから歩いて帰ろう 今日は歩いて帰ろう」

「りこちゃーん、夕飯 出来たよー。今夜は 豆腐ハンバーグだよ!
一緒に食べよう!」


こざるカフェは、今日も ゆっくりゆっくり
のんびり 穏やかに時間が流れていきます。

読んで下さって、どうもありがとうございます。
夏の行事があちこちでありますが、気候は4月、5月の頃のようですね。
よい毎日でありますように (^_^)

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