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短編小説

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#短編

短編【蛍光灯のノイズ】小説

短編【蛍光灯のノイズ】小説

客の出入りを知らせる軽快なチャイムの音。
温めますか?袋はご利用ですか?
という店員の声。
お願いします。いえ、結構です。
という客の声。

トイレを使うためだけに急ぎ足で駆け込んでくる足音。
新商品を何度も繰り返し宣伝する店内放送。
商品を手に取りカゴに入れる摩擦音。
そして、コピー機の電子音。

コンビニエンスストア『リトルエレファント』では、そういった音が同時に、あるいは間をあけて溢れている

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短編【そして俺は闇の中へ】小説

短編【そして俺は闇の中へ】小説

ルポライターの篠原準子が日本にいると知ったのは彼女が帰国してから一週間を過ぎた頃だった。

帰ってきているのなら、どうして連絡をよこさないんだ。

「どうしちゃったんだろうね、準子ちゃん。足跳さん、何か知ってる?」
歴史小説家、白石文美子先生の次回作の打ち合わせの席で彼女の話題になった。

一週間ほど前、紀伊国屋書店をうろうろしている篠原を見た、と白石先生は言った。
その時の様子が夢遊病者のようだ

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短編【雨】小説

短編【雨】小説

『雨

暗雲たる運行は陰鬱なる余韻
鵺の秘めたる悲鳴に
明朗な我も滅入ろう
嗚呼、曇天はいずれ破れ
粘り気の雨が降る
粘り気の雨に濡れて
涙も雨情と化す

栄江田小学校 5年 4 組 鷲見泉勇人』

小学校教師、山本一樹は何とも言えない複雑な溜息を深くついた。
これが、小学生の詩か?

『雨』
こくごの時間に一樹が生徒に与えた詩のタイトルである。
書いたのは鷲見泉勇人だ。
読書家ではある。

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短編【黒と白の闇の中で】小説

短編【黒と白の闇の中で】小説

今年81歳になるフィッシャーさんの家はブルックリンの中心からちょっと離れた場所にありました。
4分の1ブロックとまでは言わないけれど、その半分以上は占めている大邸宅です。

フィッシャーさんはこの広すぎる豪邸に一人ですんでいました。
アンジェリカ・フィッシャー。
それが彼女の名前です。

アンジェリカがこの家にやってきたのは彼女が19歳の頃だったそうです。
その頃はアンジェリカ・バキンズという名で

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短編【主よ御許に近づかん】小説

短編【主よ御許に近づかん】小説

主よ。
私は貴方の為に煉獄へ逝くのです。
たとえどんな恐ろしい業火に焼かれようとも私の心は天国にあります。
貴方と共にいます。
ですが決して貴方の御名を口には出しません。

それどころか私は貴方のことを口汚く罵ることになるでしょう。
そんな事をする度に、いえ、そうしようと考えるだけで、この身が引き裂かれる思いです。
我慢なりません。

私を罪から清めてください。
私は自分の背きを知っています。

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短編【盗まれたシャリオン】小説

短編【盗まれたシャリオン】小説

何が原因であんなことを調べてみようと思ったのか。そんなことは、もうとっくに忘れてしまった。

それは運命だったから。そう結論づけてしまうことは簡単だ。だけど運命なんてものは後付けの理論。自分の人生を振り返ってみて、あれは運命だったのかも知れないと都合のいい理由をつけているに過ぎない。

大学を卒業し青森から上京して出版社に入社した。東京にも仕事にも慣れて余裕が出てきた三年目。その余裕が、あんな事を

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短編【ネコミミパンダのチャーム】小説

短編【ネコミミパンダのチャーム】小説

どうして彼女にだけ視線が行ってしまったのか。その理由を探してみても今となっては分からない。そもそも理由なんてなかったのかも知れない。

あの人はバス停のベンチに腰掛けていた。

彼女だけがぽつんと一人で座っていたというのなら気に留めてしまったとしても理解はできる。

だけどバス停には彼女以外にも人がいたのだ。三人掛けのベンチには彼女の他に足を大股に広げ右足を小刻みに揺らしているスーツ姿の男が座って

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