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短編【雨】小説
『雨
暗雲たる運行は陰鬱なる余韻
鵺の秘めたる悲鳴に
明朗な我も滅入ろう
嗚呼、曇天はいずれ破れ
粘り気の雨が降る
粘り気の雨に濡れて
涙も雨情と化す
栄江田小学校 5年 4 組 鷲見泉勇人』
小学校教師、山本一樹は何とも言えない複雑な溜息を深くついた。
これが、小学生の詩か?
『雨』
こくごの時間に一樹が生徒に与えた詩のタイトルである。
書いたのは鷲見泉勇人だ。
読書家ではある。
学級長でもある。
そして何よりも生意気なガキである。
大人の言葉尻に微細な誤意があれば、それを挙げつくらって嘲笑う。
大体、『鵺の秘めたる悲鳴に』ってなんだよ。
鵺って妖怪じゃないか。
いくらなんでも文章に色気を付け過ぎている。
可愛げがない。
詩と云うのは本来、思考を自由に羽ばたかせて書くものだから表現は自由であるべきだ。
であるべきではあるが日頃の鷲見泉勇人に対する憂さもあって一樹は一言、忠告をした。
「鵺っていうのは架空の生き物だから、ここは普通の動物でもいいんじゃないかな」
「鵺っていうのは、トラツグミの事ですよ、先生。知らないんですか?先生。トラツグミっていうのはスズメ目の」
思い出すな一樹!
一樹は心中で叫んだ。
収まっていた怒りが沸々と湧き上がる。
ひと呼吸おいて一樹は別の生徒の作文用紙をとった。
『あめ
あめがぽつぽつふってまつ
そしてザーザーになりました。
そして雨がふりました
そして僕はうれしいかったです。
雨はかみなり様のおしっこ。か?
ばっちいな。
栄江田小学校 5年 4 組 あんざい しげる』
小学5年生の詩にしては幼稚過ぎる。
幼稚過ぎるが一樹はほっとするのだ。
『雨はかみなり様のおしっこ。か?』
一樹は、そこに安齋茂のセンスを感じて、ほっこりするのだった。
⇩⇩別の視点の物語⇩⇩
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