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殺戮のBB

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荒廃した遠未来。第三次世界大戦の爪あとの残る旧日本、リンクレンツ共和国・犯罪都市デッドシティで、荒事を専門として生計をたてるビアンカとバートは、BBという通り名で仕事を請け負って…
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2020年6月の記事一覧

48 殺戮のBB

 三嶋がいる方向へ、どやしつけるかのようにして男を追い立てる。途中椅子やテーブルにぶつかるたびに、ビアンカが襟首を掴んで道筋を修正してやりながら、裏口へと連れて行くと、三嶋は路上に転がる男に手錠をかけているところだった。  どうやらこの女はお得意のブービートラップを仕掛けておいたらしい。吹き飛ぶ威力と方向を計算に入れ、最初に飛び出した獲物の足を止めるようにしておいたようだ。  こいつは元軍人なのだろうか? と思う程手際がいい。ぞっとするなと胸中で思う。  積み上げられたビール

47 殺戮のBB

 ビアンカが見守る中、三嶋は軽やかな足取りで店に入って行った。ビアンカは一度振り返り、通りを見回した。バートの姿はない。  三嶋が動けば派手なことになるだろう。それにバートが気付くことを願って、遅れてビアンカも入って行った。  店内はまだ早い時間ながら、客の入りはまずまずだ。テーブル席ですでにジョッキを傾けながら、銃の分解掃除をしている奴もいる。こんなところでするくらいだから、流れ者か直前で使った際に弾詰まりを起こしたのだろう。他はカウンター席にいる。  先に入った三嶋は獲物

46 殺戮のBB

 判断に悩んだ末にビアンカは一本先の路地から回り込むことにした。  ところが回り込んだはずの通路は、普段は通れるのだが、ひどい匂いがして思わず立ち止まってしまう。 「くっせぇー! 畜生、死体かよ!」  死臭は鼻につく。いつからそこで死んでいたのかわからないが、すでにハエが多いことから腐乱が始まっているのかもしれない。 「あー、ちくしょう! おえっ!」  始末屋を呼んでも高くつくし、死体を砂漠に運ぶ乾物屋がいても、これでは拒否するか、高額請求するだろう。殺して間もない死体はまだ

45 殺戮のBB

 バートと別れたビアンカは用心深く通りを歩く連中を観察した。この街の大半は犯罪者で、誰もが武器を持っている。丸腰で歩く人間などむしろ不用心だと笑われるくらいだ。  普通は口径が小さい銃を好む。弾は無限ではない。確実に当てるためには、反動が小さい銃がいい。銃の扱いに慣れない馬鹿程、大口径をこれ見よがしに持ちたがる。それであさっての方向にぶち込むのが関の山だ。  しかし慣れている人間は、自分が撃ちこむ方向を確実に把握できることを好むので無理に大口径を使わない。反動を押さやすい小口

44 殺戮のBB

 咄嗟に駆け込むと、そこには一人の男が血まみれで倒れている。 「先生!」 「茜君!」  匂いに気付いたのはビアンカだけではなかった。ほぼ同時に悠里も気付き、遅れることなく駆け込んでいた。 「ボネットさん……西郷さん……」  茜は床に直接座り込んでいた。返り血を浴びて、壮絶な姿に見えたが口調がしっかりしていることから命に関わるような怪我はないと判断できた。 「バート!」 「いったい何事ですか?」  さすがにビアンカよりも銃に慣れ親しんでいる男は違った。すでにローマンカラーに隠れ

43 殺戮のBB

 うんざりした面持ちで考え込んでいると、ビアンカの内心のことなど知ってか知らずか、バートが女を口説く時に浮かべる胡散臭い笑みを浮かべた。 「しかし愛らしい方ですが、どうしてまたハウンドに? 沢本さんとはどういったご関係で?」 「うふふ、愛らしいとか言われると照れちゃう! 要君とは昔からの友達だよ」  どうも今日はこのフレーズが多いなとビアンカは思う。何かあれば「友達」だ。この街の連中が口にする言葉で最も胡散臭い軽い言葉が、油断のならない連中から聞かされ続けている気がする。 「

42 殺戮のBB

 ビアンカたちが目的の場所にやって来ると、沢本のカジノの前には数台の車とバイクが集まっていて、それぞれ発進し出していた。 「あちゃ、出遅れたかな?」  バートのバイクが無事だったらここまで移動に時間はかかっていなかったかもしれないが、運が悪く壊れたバイクは昨日砂漠に捨ててきた。 「さて、私たちはどうしたらいいのでしょうかねぇ?」  なにせ仕事はロハという状況ではあまり張り合いがない。そればかりか、ビアンカならば獲物はナイフだが、バートは銃だ。撃てば撃つだけ費用がかさむ。乗り気

40 殺戮のBB

 睡蓮華の外に出ると、ナインストリートの沢本のカジノを目指して歩き出した。場所はなんとなく知っている程度であり、カジノで遊んだことはない。  基本的にビアンカは薬も博打もしない。  仕事は金が必要だからしていることであり、金が必要なのは食うためだと思っている。  子供の頃はパンの一欠けら欲しさに体を売り、パンの一欠けら欲しさに人を殺した。あの頃と今と何も変わっていない。  それでも少なくとも今は好きなだけ食べられる。どんなに汚いことをして手に入れた金でも、金は金だ。綺麗ごとで

39 殺戮のBB

「要は知っているの?」 「多分、まだ知らない。けれどハウンドの連中には伝わっているので、そのうち伝わるさ。そのハウンド側からだが、沢本は今回の件に三嶋を関わらせるなと通達していたようだ。ところが例え沢本が遠ざけようとも、狙う獲物が一緒ならば早晩かち合う。だからいち早くその新顔の二人をハウンド及び、今回ハウンドに声を掛けられた連中は捕まえなきゃならない。普通なら多勢に無勢だ。援軍のない三嶋が手を引くのが道理ってもんだが、あの女にそれが通用するとは思えねぇ」  並みのバウンティー

38 殺戮のBB

 夜の闇の中で見る睡蓮華は、白亜の建物であり、眩いばかりの明かりに彩られている。おかげでその壮麗さを目立たせていた。しかし昼に見上げる今日は昨夜の爆破のために破損した箇所の改修工事のために業者が出入りしており、まったく場所のように思える。早くも足場を組み立て、修繕工事に取り掛かっていた。デッドシティでも金も権力もある睡蓮華だからこそできる力技だ。 「……」  ビアンカは修繕工事中の睡蓮華を見上げて、小さな溜め息を吐き出した。  そもそも娼館の営業形態がわからない。夜に営業して

37 殺戮のBB

「あれぇ? もしかして、ミキちゃんのこと知っているのぉ?」 「さっきもここに来ていただろ? 出ていくのを見た。一度あの女に追いかけ回されたことがある。さらにしれっとして、さっきも話しかけられた。くそっ! あの女より先に見つけなきゃならねぇってハードル高すぎるだろ……沢本め、これでもロハで仕事させるつもりよか……」  どう考えても前途多難だ。あのバウンティーハンターは手際が恐ろしくいい。さらにどれほど賞金を手にしているのか、武器弾薬の類いは潤沢に用意し、遠慮なく使ってくるためや

36 殺戮のBB

 茜医院はセブンストリートにある。  朝からデッドシティを行ったり来たりして、なんだかすでに疲れを感じ始めていたビアンカだったが、昨日砂漠を歩きとおしたことに比べれば、大したことではない。  そう思い直し、いや、むしろそう思うことで自分を叱咤しながら歩いてきたビアンカだが、茜医院を目前として顔色を変え、くるりと背を向けて元来た道を引き返した。 「なんであのクソ女が……」  会ったのはほんの数時間前。すらりと伸びた脚とショートカット。あの手際のいいバウンティーハンターの恐怖は身

35 殺戮のBB

「そのボマーだが、ジャンキーなんだ」  そこまで言うと、ナオは椅子の一つを下して腰かけた。ビアンカは一度言葉を区切って、ナオに向かい合う位置の椅子を下して腰かける。 「昨日、睡蓮華でも爆破あっただろう?」 「らしいわね。見てはいないけど。沢本のカジノに睡蓮華。あとどこだったかしら……あんたのフラットを含めれば四か所目。あんたのフラットは事故だったにせよ、それまでは全部この街の権力者のところだから、まぁ、誰にでもわかることね。この街の新しい権力欲しさに入り込んだ馬鹿がいるってこ

34 殺戮のBB

 しかしハウンドのメインはカジノなどの賭博関係と売春宿。さらに殺しをはじめとした荒事が専門だ。売春宿に関しては物のついでとばかりにしているだけで、市場としての規模は小さい二流所だ。睡蓮華に比べるとささやかなものだ。そのあたり、沢本も沢本なりにニーナに気を使っているのだろう。  この街の勢力図を塗り替えたいなら、やはり沢本が深く関与していないところから浸透していく方法がいい。ハウンドに正面から喧嘩を挑む馬鹿などそうそういない。 「薬……」  咥えたままの煙草の灰がぽろりと落ちた