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43 殺戮のBB

 うんざりした面持ちで考え込んでいると、ビアンカの内心のことなど知ってか知らずか、バートが女を口説く時に浮かべる胡散臭い笑みを浮かべた。
「しかし愛らしい方ですが、どうしてまたハウンドに? 沢本さんとはどういったご関係で?」
「うふふ、愛らしいとか言われると照れちゃう! 要君とは昔からの友達だよ」
 どうも今日はこのフレーズが多いなとビアンカは思う。何かあれば「友達」だ。この街の連中が口にする言葉で最も胡散臭い軽い言葉が、油断のならない連中から聞かされ続けている気がする。
「なぁ、それでいけば道明寺、ナオ、三嶋、先生、沢本、あんたはみんなお友達かい?」
 ちょっと嫌味を交えてお友達と言ったつもりだが、悠里相手には通用しなかったらしい。悠里はにっこりとほほ笑んで頷いた。
「もう十年以上の友達だよぉ! あたしも随分前にここに移住してきたの。最低な街だけど、離れられないのよね。まぁ、ユージさんもいるからなんだけど」
 そう言って一人ニヤリと笑うあたり、恋人の存在らしい……
 ビアンカにはそうしたものを信じられる精神構造がわからない。
 常に弱肉強食で、弱い者から奪われて、そして死んでいく。そうした世界しか知らない。恋愛感情など欲しいと思ったこともないし、これからもないだろう。
 生理的な欲求でセックスをする。ただそれだけに、夢を見ていられるのが理解できなかった。
 羨ましいとは思わないが、少しだけ苛つく。
 そんなビアンカの苛立ちに気付くこともなく、悠里は一人でニヤニヤと笑っていたが、ふと我に返って荷台から顔を乗り出して運転手へと叫んだ。
「茜医院で下してね」
「わかってますよ」
 それを聞いた瞬間にビアンカとバートは顔を見合わせた。
 ハウンドの連中が悠里を相手に気を使っている……
 ということは、やはり見かけだけではないということだ。
 まったく仕事にはならないただ働きだというのに、BBとして組んできて以来、一番厄介な仕事になるだろうという、当たっても嬉しくない予感だけがする。
「……あー、あたしも降りていいか?」
「え?」
「これ、手当っていうか……」
 頭の包帯は誰が見てもわかりやすい。悠里はすぐに頷いた。
「いいよ。じゃぁ、バート君も降りてね」
「バート……君……ですか?」
 微妙に複雑そうな引きつった笑顔を見せて、バートはうわずった。予想外な呼ばれ方だったのだろう。すると悠里はわずかにしゅんとした。
「ダメ? あたし、呼び捨てにするのって苦手なのぉ。それにバート君年下でしょう?」
「えっ!?」
 バートは初めて狼狽えた。あまりの驚愕に荷台から転がり落ちるのではないかというほどに驚いていた。
 そしてビアンカもよくよく考えてみる。
 あの沢本と十年以上前から友達だと言ってのけるくらいの年齢だと考えれば、確かに悠里は年上であると考える方が妥当だ。
 だがしかし、能天気な笑顔を見せる悠里の顔立ちは、どう見ても年下に見える。
「悠里さん童顔だからなぁ!」
 それまで武器のチェックをしていて無言だったハウンドの連中が、一様にニヤニヤと笑っていた。
「いっつもみんな童顔って言うんだから……」
 あからさまに不満そうな顔をするが、その表情すら子供っぽく見える。しかしこれが年上と思うとビアンカも微妙な気分になる。
 だがそもそも例外と自分を並べても意味がない。そう思い直し、これ以上深く追求するのはやめることしにした。
 そうしているうちに車はセブンストリートへとやってきていた。今日だけでこの道を何往復したかわからない。やはり徒歩と来るまでは移動速度が違うなぁと実感していると、茜医院の前で車は止まった。ビアンカとバートが下りると、悠里も軽やかに降り立った。そして運転席側に回る。
「じゃぁ、みんなはフォーストリートからお願いね」
「了解」
 車は走りだし、そのまま進んでいった。ビアンカが先に中に入り、続いて悠里が進む。バートは物珍しそうに建物を見上げていた。
「ん?」
 嗅ぎ慣れた臭いがする……
 それは血と硝煙の匂いだ。
 見れば廊下に血が広がっていた。

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