見出し画像

【作品の目指すべき姿を明確に】現役作家が「時間を忘れるような作品」を作るために考えたこと(2013年2月号特集)


※本記事は2013年2月号に掲載した山本文緒先生のインタビュー記事を再掲載したものです。

少女小説で学んだ小説の手法

――山本先生が小説家を目指されたきっかけを教えてください。

 一人暮らしをしたくて、そのための足しにしようと思いました。

――なぜ小説を選んだのですか。

 本当は漫画家になりたかったんですが、なにしろ私は絵が描けない。でも、お話を作ることはできたし、小説は初期投資もいりませんから。自分には何ができるかを考え、消去法で残ったのが小説だったというわけです。

――それで公募ガイドを見て、コバルトに応募されたわけですね。

 それまで小説を書こうと思ったことは本当になくて、どんな賞があるかも知らなかったんです。そんなとき、公募ガイドを知って、まずはどんな賞があるのかを調べました。

――応募する賞を吟味した?

 ただ、当時は純文学とエンターテインメント小説の違いもわからない状態でした。コバルト・ノベル大賞を選んだのは、枚数が100枚とちょうどよいのと締め切りが近かったからでした。

――賞の傾向は分析されました?

 特別なことはしていません。賞を知ってから初めてコバルトという雑誌を知り、こういうのなんだと驚いたぐらいですから。だから一回目の応募で佳作に選ばれるなんて思ってもみませんでした。入選したときは、私以上に家族や周りの友人が驚いていましたね。

――初めて書いた小説で入選した理由はなんだと思われますか。

 運が大きかったと思います。当時少女小説がブームで作家不足だったという背景もあります。今はライトノベルというジャンルが確立されていますが、当時はなかったんです。少女小説は小さいシェアだったので、私にもチャンスが来たのではないでしょうか。

――デビュー後、いきなりプロとして小説が書けたのですか。

 最初は全然わからなくて、幼稚園児に教えるように編集の方が丁寧に指導してくださったんです。そこで、お話の作り方や、オチをつける手法など、エンタメ小説の書き方を学びましたね。

短編を丸写しして書き方を学ぶ

――アマチュアの方に有効な小説の勉強法はありますか。

 書き始めた当初は、語彙もなくテニヲハもむちゃくちゃだったので、作家の方の短編をかなり写しましたね。自分では写経と読んでいたんですが、20枚くらいの短編を丸ごと写すんです。すると、構成ってこういうものなのかとよくわかる。気持ちが落ち着くこともあって、楽しかったですね。今でも時々やります。

――デビュー後、着実に作品を生み出し、活躍されましたね。

 そんなことはありません。デビュー後、3年くらいで私の少女小説は全然売れなくなり、食べていけなくなるんです。

――どうされたのですか?

 新人賞を取り直して再起を果たさなければいけないと思い、また公募ガイドを買い始めました。

――それで応募はされました?

 応募しようと思っていた矢先、フリーの編集の方から大人向けの小説を書いてみないかと声がかかったんです。ちょうど一般文芸のほうで書きたいという気持ちがあったので、方向転換しようと思いました。

――新たな挑戦?

 正直、怖くて不安もありましたが、食べていけないのでやるしかなかったですね。当時はアルバイトをしており、正社員にならないかという話もあったのでとても悩みましたが、35歳までは小説で頑張ってみよう、それまでに食べていけなかったら就職しよう思いました。

――新人賞の下読みをされたことはありますか。

 下読みは少女小説の作家時代にやったことがあります。各自80本くらいの作品を読んで、その中から5本程を2次選考にあげるんです。話が面白いかどうかではなく、小説としてきちんと成り立っているかを見ました。

――やはりきちんとした小説が受賞するものですか。

 いざ最終選考となると、うまさよりも面白さや新鮮さなどで選ばれる傾向があります。不思議ですね。

――多少の誤字脱字はいい?

 誤字や名前の間違いといったケアレスミスがあると、せっかくうまく書けていても、この人は神経が行き届いてないと評価されがちです。新人の方はそのあたりのことにも気を配って推敲したほうがいいですね。

時間を忘れるような作品を

――一般文芸に移行する際、ジャンルやテーマ性は決めましたか。

 私はミステリーもホラーも書けませんし、子ども向けの小説も苦手でした。だから得意なものをやるしかなかったということはあります。
 テーマについても、女性に前向きになってほしいとか啓蒙しようとか、そうした意図はありません。本を読んでいると、楽しくて時間を忘れてしまうときがありますよね。私もそんな作品を供給したいと思っています。

――キャラクター作りはどうされていますか。

 あまりかっちり決めて書き始めるほうではありません。漠然とモデルがあったり、書いてるうちに固まるときもあります。奇抜な人物造形はしないし、どこにでもいるような人を書くようにしています。日常で出会った人やテレビで見た面白い人を参考にするときもあります。

――テーマ性が強い小説の場合、キャラが立っているとテーマが引っ込んでしまうことがありますねところで、取材はきっちりされるほうですか。

 取材はあまりしないですね。私の場合、設定や仕事などを調べすぎると、いかにも調べましたという感じになってしまうので。だから、友だちの友だちに興味深い人や特殊な仕事をしている人がいたら、紹介してもらって食事などしながら話を聞く程度ですね。

――プロットは作りますか。

 一応は作るのですが、その通りに進んだことはありません。物語形式は起承転結と言いますが、私はそうは思っていないんです。起承転結になっていない物語もありますし、構成に固執しすぎるのもどうかと。私自身は純文学に近いようなエンターテインメント小説を書きたいと思っています。

――プロを目指す読者にメッセージをお願いします。

 受賞できるかどうかは、運の部分が大きいと思います。運なのだからやってみなきゃわからないし、運は平等です。

――若くない方もプロを目指していい?

 たとえば『信長の棺』を書かれた加藤廣さんは75歳でデビューされて大ベストセラー作家になっています。小説は50歳でも60歳でもデビューできる世界。いくつになっても続けていいと思うし、いつ始めてもいい。年齢を重ねたからこそ書ける世界もありますし、まずはやってみたらいいと思いますね。

山本文緒(やまもと・ふみお) 
1987 年『プレミアム・プールの日々』でコバルト・ノベル大賞の佳作を受賞し、少女小説の作家としてデビュー。92 年より一般文芸に移行。99 年『恋愛中毒』で第20 回吉川英治文学新人賞受賞。01 年『プラナリア』で第124 回直木賞受賞。『アカペラ』(新潮社)、『カウントダウン』( 光文社)、『ひとり上手な結婚』( 講談社) など著書多数。

特集「作家を目指す君に」
公開全文はこちらから!

※本記事は「公募ガイド2013年2月号」の記事を再掲載したものです。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?