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ものがたり

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#きみのこえ

たわむれ

たわむれ

僕はどうして人間なんだろうと考えたことがあるか。
世界はどうして透明なんだろうと考えたことが。
或いは空の色を移したバターの味だとか、それらがトーストの上で溶けていく速度について。
愚かな君と僕の300日後については後で話そう。あっという間の50日を突破して、残りの15日は誰かにあげる計画でもいいな。

夕焼けの燃える世界の意味は。月がわざわざ満ち欠けをして、星がその遺影を夜に残し続けていく意味は

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欠片

欠片

空と海って似てるね。
とろむ空に、さっきまでなかった小さな光をみつけて、
一番星をみつけて、思わず泣いた。

豆電球の灯りみたいな光の粒にどうしようもなく泣けてくる。
長くなった煙草の灰がぽたりと落ちた。

———
2016.06.14 スマートフォンのメモより
明け方だったのか、真夜中だったのか。と思ったら19:44だった。

残照、残影

残照、残影

 誰も居ない教室で、机に頬を引っ付けて窓の外を見ていた。木々に遮られる視界の向こうにプールが見える。ピッという耳につく笛の音、バシャバシャと水を打つ小麦色は簡単に想像がつく。グラウンドからは野球部の掛け声が微かに届き、どこかで練習しているらしい吹奏楽部の間抜けなスケールは時折止まりながら中庭や駐輪場に響いている。
 すっかり着慣れた制服は、今となっては自分のキャラクターに一番合った着こなしというも

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いつかの話

いつかの話

自分一人では歩けないと思っていた道を、手を引いて歩いてくれる影があった。

それはいくつもいくつも重なって、ゆるやかにえいえんにわたしの手を握ってくれた。

けれど、それじゃあだめなんだって。

一人で歩けなくちゃ意味が無いんだって、わたしは言った。

影は離れなかった。

わたしには、手を離す勇気がなかった。

手を離すくらいなら、繋いだまま腕を切り落とす方がましだと思った。

そのまま死んでし

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ハッピーエンド

ハッピーエンド

透明な蜻蛉を抱いて、笑う少女がいた。

夏の青い空に照らされて、地面から雨のにおいはすっかりと消えてしまったらしい。青い鳥を肩に乗せた少年は、仄暗いトンネルの向こうへどんどんと進んでいく。



ぎざぎざに割れた空き瓶の欠片で、僕たちは緑色の血液を作った。流し込む先には、もう既にきらきらした音が待っていると知っていた。

透明な蜻蛉は日向に揺れて、もう誰も笑ったりはしなくなるけれど。



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ペールブルー

ペールブルー

何者でもない人の声を聴きたいとおもった。

何者でもない誰か。

だけど確かに息をしている人。

やさしくて、臆病で、月の匂いがするあの子は

今どこで、誰の隣で眠っているんだろう。

天の川を溶かしたら、

夏の終わりにきみに会えるかな。