見出し画像

癒しの涙 海幸山幸7 神様も“失敗”して成長した ことの葉綴り。百六九

海洋への旅

おはようございます。今日も猛暑ですね。
日曜日の朝も「ことの葉綴り。」に向かいます。

兄の海幸彦の釣り針を失くした山幸彦
失意のどん底の彼の前に現れたのは、
海の老賢人の神で、潮目を司る塩土老翁神でした。
優れたセラピストのごとく、山幸彦の話を傾聴し、
“問題解決”へ向けた提案までしてくれました。

塩土老翁神は、山幸彦のために、竹の小舟を手作りすると
そこに山幸彦を乗せて海へと、海洋へと送り出しました
これほど、ありがたいサポートはありません。

画像3

御子どの。
この潮路にそって流れに委ねるのです。
夜が明けるころ、
海の神、
綿津見神(わたつみのかみ)の宮殿に到着します。
宮殿の門のそばにある泉のほとりに茂る神聖な桂の木の上に登ってお待ちなさい。
海の神の娘の姫神が、御子どのを見つけて、うまくとりはからってくれるはずですよ。

爺や、ありがとう。

次の瞬間、塩土老翁神さまは、お姿を消されましたが、

御子どの、ご安心なされ。
爺はご一緒におりますぞ。

慈しみ深い塩土老翁神の声は、山幸彦の心に響いていました。

画像2


一筋の温かな涙

塩土老翁神さまに訓えられた通りに、
山幸彦さまを乗せた竹の小舟が、波に揺られて、
大海原を漂って流れてゆきました。

やがて太陽が沈み、月光が波間に美しく射し込んできました。
夜空を見上げる、山幸彦さまの心には、
もう絶望や、あきらめは、ありませんでした

画像7

姿は見えずとも、潮を司る塩土老翁神が共に在る
そんな気がしていました。


これまで、兄を慕い信じていたが……。
決して許してはくれなかった。
心を開いてはくださらなかった。
けれど、あの爺やが、私をまるごと受け入れて、話を聞いてくれた。そして、「大丈夫」だと、道筋を示し、協力してくれた…。

信頼できる存在の大きさと、安堵感、
そして自分も信じてもらえることのりがたさ。
星空を見上げながら、山幸彦は、自然と頬が緩み、
目頭からは、熱い一筋の涙が溢れでました

兄の海幸彦の憤怒。
受け入れられない謝罪、償い。
兄との関係の断絶
ショックのどん底で、悲嘆にくれた涙とは
まったく違うものでした

その温かな一筋の涙が流れたあと
山幸彦には、見せる世界が“違って”いました

空に輝く星たちも、月光の煌めきも
それまでよりも、いっそう光を増していた気がしました。

なんと、不思議だ……。
我が心が温まり清められると
この世のものも、輝いて美しく見えてくるのか……。

画像1

癒しの涙

これは山幸彦さまだけではなく、
私たちが泣いて流す涙にも
悲しみの涙と、
心がほぐれてあふれ出る、優しい涙が
ありますよね。

今だと「涙活」という言葉もありますが、
涙することで、抑え込んでいた感情を表にだせるので
ストレスケアにもなりますね。
涙を流すことで、心も体もほぐれて副交感神経を優位にして、
良質な睡眠と同じようなリラックスにもなる
ようですよ。

特に温かな情や、喜びなど、ポジティブな感情の涙は、心身をほぐしスッキリさせてくれます
さて、物語に戻りましょう。

画像4


瑠璃色の夜明け前

心底、安堵したのでしょうか。
夜のしじまの中、波に揺られながら
山幸彦は、眠りへと誘われたのでした。

そして、ふと目が覚めたとき、
真っ暗だった空が、一瞬、蒼い瑠璃色に変わりました。

その後、海と空の境から、橙(だいだい)がかった桃色の曙色へと移りかわっていきます。

やがて、東の空から、大きな大きな八咫の鏡のようは朝日が昇りはじめようとしていました。

画像5


いつも山の頂上からしか昇る朝日を見たことがなかった。
大海原の夜明けも、なんと美しいのだろう。


山幸彦は、夜明けのひとときの、空の美しさに見とれていました。
そのときです。
竹の小舟のまわりに、急激な渦が現れて、一瞬のうちに、
山幸彦を乗せた小舟は、その渦へと呑みこまれてしまいました

画像6

―次回へ。

この記事が参加している募集

習慣にしていること

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?