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喪失感の中で選ぶ道 垂仁天皇13 神話は今も生きている ことの葉綴り。二九一

最愛の皇后の逃亡

こんばんは。今夜もお仕事の後、夜深くになりましたが、「ことの葉綴り。」に向かいます。


垂仁天皇(すいにんてんのう)の寵愛した皇后の沙本毘賣命(さほびめのみこと)は、戦のさ中、宮中を抜け出して、謀叛を起こした敵方となった兄の沙本毘古(さほびこ)の館へと逃げ込んでいってしまいました。

沙本毘賣(さほびめ)……。


呆然とする夫である天皇。

従姉妹として幼きときよりこの世で出会い、共に成長する姿を見ながら、やがて妻として皇后として娶って三年(みとせ)。

ずっとこのまま共にいると、そう信じていました。

この幸せな夫婦の時がずっと続くと思っていました

皇后の胎に胎児が、皇位の霊を受け継ぐ天の日継(あまのひつぎ)の命を宿す皇子となる。

もうすぐ、皇子が誕生し、父になり、母になり、我が皇子とともに仲睦まじく生きていくのだ、と、思っていました

何より、誰より大切な比賣(ひめ)でした

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すでに沙本毘賣(さほびめ)の姿は、兄の館の中へと逃げ込んでしまい、もう見えません

館を取り囲んだ天皇の軍勢が、火矢を放つのを、今か、今かと待機しています。

垂仁天皇が、「放て!」という一声で、軍勢が一斉に燃え盛る矢で攻撃すると、瞬く間に、沙本毘古(さほびこ)の館を取り巻く稲城が炎上し、館の本丸も燃え切ってしまうのです。

それは、戦の勝利を意味しますが
それは、謀叛の相手の沙本毘古(さほびこ)征伐を意味しますが
同時に、最愛の妻で皇后の沙本毘賣(さほびめ)と
まだ見ぬ皇后のお腹にいる皇子の命を奪うことをも意味する
のです。

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揺れ動く憤怒と愛

配下のものが、「攻撃のご命令を……」と、待っています。

軍隊の強者たちも、相手方の反乱軍の兵士たちも
一触即発のギリギリの緊張状態の中にいました。

謀叛の相手を、赦すことはできない……。
けれど、我が后と、生まれ出るはずの皇子の尊い命を奪うことはできない……

垂仁天皇(すいにんてんのう)は、愛する人を失った喪失感とショックを受けながらも、反乱軍を目の前にして、難しい選択を迫られていました……

皇位を脅かし、命を狙われたのは、まぎれもない事実。
その危険を、神さまのご神意である夢が教えてくれました。

沙本毘古(さほびこ)を赦すことは決してない!!

そう決めた瞬間に、愛しい后の笑顔が浮かびます。

沙本毘賣(さほびめ)も、優しい夫である天皇と、恋する兄との間で心が揺れ動き張り裂けそうでした。
そして結果、恋の情念が燃え上がってしまい、恋を選んだのです。

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失意のどん底で選ぶ道

垂仁天皇も、裏切り者への怒りと、反逆者への憤怒の炎と
最愛の妻で皇后への、かけがえのない愛情と
まだ見ぬ我が子への愛おしさと
そして、自分を見捨てて去っていった皇后への喪失感と……
もう、心は張り裂けそうです。

ただ、刻一刻と時間だけが過ぎてゆきます。

やがて、垂仁天皇は、一つの決断を下します

垂仁天皇が、選ばれた道とは?

皆さんなら、究極の難しい状況に置かれたとき、
どんな道を選びますか?

私たちも、人生で苦難の状況に陥ったとき、
そこでどう対応するか

何を選ぶか……
まさに、人間力を試されますよね。


垂仁天皇は、一時、攻撃を止めたのです

軍隊で、館の周りは取り囲み続けましたが、火矢を放つことはありませんでした。
三年(みとせ)共に生きた最愛の妻
我が子を宿した母となる后
沙本毘賣(さほびめ)と胎児の命を奪うことが忍びない…
そう、”二つ“の命を選ばれたのでした

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―次回へ

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