熊野の神の霊力 神様も“失敗”して成長した ことの葉綴り。百九九
紀伊の熊野村へ
おはようございます。今朝は早朝に家を出るので、「ことの葉綴り。」の更新も朝になりました。皆さまにとり、今日も佳日でありますように!
そして今日も、どうか、神話の物語におつきあいください。
高千穂の宮から、国の平定のために、東へ旅立った、
天孫の御子の伊波禮毘古(いわれびこ)。
信頼する兄の五瀬命(いつせのみこと)を、
大和の豪族の那賀須泥毘古(ながすねびこ)の攻撃で
失ってしまいます。
太陽神の天孫の御子の我らが、太陽の昇る東へ向かい戦うのは
不吉なことだったのだ。
よいか、太陽を背にして進むんだ。
兄上、
どうか、私を見守っていてください。
兄の五瀬命を失った悲しみにひたるひまはありません。
兄が伝えてくれた“気づき”の言葉を胸に
伊波禮毘古たち一行を乗せた船は、紀伊半島を南へ周り、紀州の熊野村(紀伊の国牟婁郡)へと辿りついたのです。
熊野の荒ぶる神の霊力
そこは、たいそう森が深く樹が生い茂り、これまで、かつて伊波禮毘古たちが、まだ歩んだことのない妖気漂う土地でした。
突然、目の前に巨大な熊が姿を現し、立ちはだかります。
ぐぁわ~~~
熊が目を見開いて、襲ってくる、と思った瞬間です。
不思議なことに、森の中に姿を消したのです。
今の熊は、なんだったんだろう?
伊波禮毘古は、奇妙なものを見て不思議に感じると同時に
なんだか、急に眠気に襲われて自分の意識が遠のいていくのを感じました。
一行の者たちも、みな気を失ってバタバタと、一人残らず、死んだように地面に倒れていっています。
ヤバいです。誰一人意識がありません!!
さっきの大きな熊は、この森深い山中に住む、荒ぶる神の化身の熊だったのです。
伊波禮毘古はじめ、一行のもの全員は、この神の化身の熊の毒気のある霊力により、意識を失って倒れていってしまいました。
大ピンチです!!!
助っ人、高倉下(たかくらじ)現る
そのときです。
天孫の御子さま~。御子さま~。
熊野の高倉下(たかくらじ)という名を持つものが、一ふりの神聖な剣を持って、懸命に走って駆けつけてくるではありませんか。
そして、意識が朦朧としている伊波禮毘古を見つけると、声を掛けました。
天孫の御子さま、御子さま~!!!
その男が、伊波禮毘古の体をさすりながら、なんとか起こそうと必死です。
伊波禮毘古は、ようやっと意識を取り戻しました。
すると、高倉下は、すぐさま一歩下がり、頭を垂れると、腰にさげた剣を、伊波禮毘古へと丁寧に献上しました。
なに? 熊がいたが……その後が覚えていない……。
どうやら、私は、長い間眠ってしまったようだ。
天孫の御子さま。
私は、この熊野に暮らす高倉下(たかくらじ)と申します。
どうぞ、この剣を一振りなさってください。
神聖な剣
伊波禮毘古は、目の前の男から差し出された剣を受け取りました。
剣の重みと清らかな気と威厳ある威力が手に伝わってきます。
これはよき剣じゃ~
そう自覚した瞬間、ぼんやりした意識が、ハッキリと覚醒したのがわかります。
目の前の霧が晴れて視界がクリアーになり、思考も明確になります。
すぐさま、立ち上がると、その神聖な剣を空中で、気合を込めて、一振りしました。
えぃっ!
先ほど見えた熊野の山の荒ぶる神の化身の熊が、全身を刀で斬られたように倒れこんで消えていくではありませんか。
すると、周りで気絶して倒れていたものたちも、皆、一斉に目を覚ましたのです。
あれ? 眠ってしまっていたのか?
なにがなんだか、わからぬ……
どうしたんだ、私たちは……。
まるで、もやや霧が一瞬にして立ち消えてゆくように、この剣の神聖な霊力により、伊波禮毘古たち一行にかけられていた魔力が、祓い清められたのです。
辺りに漂ってきた邪気や妖気も、すっぱりと、この剣が斬って祓い浄められていきました。
伊波禮毘古は、この素晴らしい剣とその威力に驚いていました。
そして、この剣を献上してきた高倉下に声をかけました。
高倉下と申すものよ。
この威力ある神聖な剣を、どうやって手に入れたのだ?
天孫の御子さま。
実は、私は、夢を見たのです。
高倉下は、これまでの経緯を語りはじめました。
それは、なんとも不思議な夢のお話だったのです。
さて、どんな夢なのでしょうね?
―続く。
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