kotobanoie

家を建てたことがきっかけとなり、兵庫県川西市の自宅で2007年より予約制の古書店を始める。本をきっかけに訪れる人達と店主との間に、色んなことが起こり始め、2013年から月2回のみオープンする現業態に。カフェやインテリアショップなど選書も行う。

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家を建てたことがきっかけとなり、兵庫県川西市の自宅で2007年より予約制の古書店を始める。本をきっかけに訪れる人達と店主との間に、色んなことが起こり始め、2013年から月2回のみオープンする現業態に。カフェやインテリアショップなど選書も行う。

    最近の記事

    play it fuckin' loud!

    ことさらこだわっているわけじゃないし、50年も前のことをウダウダ考えるつもりはないけれど、村上龍の「69」のことを書いている最中にボブ・ディランの刺激的な映画(NHKBSの再放送)を観てしまった。 流れというのは不思議なもので、始めてしまうと続けさまにコトが起こる。   この映像を見るとディランを抜きにして60’sのカウンター・カルチャーは語れないんだと、あらためて感じ入る。   ■ No Direction Home  Bob Dylan/Martin Scorsese

      • no.21 Hilary

        Hilary duPont Visitor Services Coordinator ドナルド・ジャッドのステンレスの棚と大きな金庫室のある部屋で彼女からもらったビジネスカードにはこう書いてある。 明らかにフランスの名前だからニュー・オーリンズの生まれかもしれない。 机の上に置いたそのカードを眺めながら、その日の Marfa TX を回想している。 もうすでにぼくの記憶は翳んでいてぼんやりとした残像でしかないけれど、リサやスティーブやジョージの顔はよく憶えている、もちろ

        • there's no one like him

          DVDを買った。 ひょっとしたらこのメディアをちゃんと購入するのは、はじめてかもしれない。 ■ 気狂いピエロ(PIERROT LE FOU) | J.L.ゴダール | 1965 きっかけは、ランボオである。 この前手に入れた金子光晴訳のランボオ全集を眺めているうちに、ゴダールのこの美しい映画のラストシーンに、ランボオの詩が印象的につかわれていたのを思いだしたのだ。 自分を裏切ったアンナ・カリーナ(マリアンヌ)を撃った ジャン・ポール・ベルモンド(フェルディナン)が自ら

          • だから、そこに有機性はない。

            なんとなく、ライトだと感じている。 積み上げた石にコンクリートを流した構造体、キャンバス張りのフレームを、木造のトラスに嵌め込んだ、まるでテントのような屋根、室内に溢れる半外的な太陽の光、タリアセン・ウェストのコンセプトは、限りなく今的だし、有機的建築 (organic architecture) というタームも、マーケティングとしてはオン・タイムだろう。 シンプルな箱も悪くはないけれど、もうちょっと暖かいものがほしいなあといった気分か。 「ライトの建築は、ふだんに見直さ

            プンクトゥムは、ちょっとやっかいだ。

            愛猫ハルの背中に蚯蚓(ミミズ)のようなものがくっついている。 なんだろうと思って摘んでみるが、その柔らかな物体が猫の背中に食いついているような感じで、なかなかとれない。 なおも力をこめて引っ張ると、その蚯蚓のような、あきらかに生物の気配をもつ紐状の物体が、ズズズっと、ハルの背中から延びて出てきた。 昨日の夜の夢の話。 むかし「Surrealistic Pillow」というタイトルのレコードがあったが、まさに、そんな感じだった。 □ 明るい部屋 - 写真についての覚書 |

            夢と現のあわい。

            日本映画はあまり観ないんだけど、ふと思い立って、ある日曜の朝、梅田に出かけた。 ■ ツィゴイネルワイゼン | 鈴木清順 | 1980 | ATG 1980年は、ぼくの中ではジョンレノンが撃たれた年だ。 もちろん『けんかえれじぃ』の鈴木清順の名前は知っているし、当時けっこう話題になったことも覚えているけれど、この映画を観るのは初めて。早起きしてわざわざ観にいく気になったのは、この『ツィゴイネルワイゼン』の原作が、内田百閒の「サラサーテの盤」だったからだ。 2年ほど前に読

            写真に溺レる。

            ポートフォリオで見たときよりも引き伸ばされ、アクリルのフレームで額装されたその作品を壁に掛けたとき、絵画ではなく、どうして写真というものにこんなに惹かれるのだろうと、ちょっと不思議な気分になって、いつも本棚にあるのにずっと読めないでいたある写真の本を手にとった。 ■ 写真の時代  AGE OF PHOTOGRAPHY  | 富岡多恵子  |  毎日新聞社  | 1979 じつはこの本、これまでにもう何冊も買っている。 もともと彼女の詩や小説が好きなこともあって、おそらく

            快適じゃなければ、地球なんてなくなったっていいんだ。

            最初にこのコラムを書いたのは2009年の初めなんだけど(13年も前だ!)、FBにあがってきたこのちょっと昔の記事を見直して、コロナ禍でいっそう混沌としてきた世の中と、SDG'sとかサスティナビリティといった新しいマーケティング・タームとともによりいっそう圧があがってきたように思えるこのクリーン・ムーブメントの中で、個人的に今もういちどこの覚悟を肝に銘じておきたいと考えて再掲することにした。 要は、「快適さ」と「価値」をどのようにアップデートしていくかということに尽きるんじゃ

            Cosmic Profit - 自分がやりたいことを自分のためにシンプルにやり続けて、結果として、それが誰かのためになるような働き方

            働きかたというものについて考えている。 自分自身は長くてもあと10年くらいのことだから、それほど迷いがあるわけじゃないけれど、最近立て続けに今の仕事を辞めて独立しますという人に会うことがあって、そういえば何年かまえとくらべるとなんとなくそういう人が多くなったなあと思ったからだ。 もちろんそれがたとえ見通しの甘い妄想の産物であったとしても、勇気を持って何か新しいことを始めるのはとても素敵なことだし、そういうチャレンジャブルな試みを無謀と決めつけるほど狭量なわけじゃない。むし

            「ものとものとを結びつけて新しい情報をつくっていく」ことの難しさ。

            阪神百貨店のOさんからこの催事の話をうかがったのが去年の暮れ。 柄にもなく、それからいろいろ考えた。 そしていつでもそうだけど、その日が近づけば近づくほどいろんなことが頭を駆けめぐって妄想の止めどころがわからなくなってくる。 そんなとき、この催しのウェブサイトのためのインタビューを受けました。 「自分が好きになる暮らし展」のための本選びの話です。 https://www.hanshin-dept.jp/dept/e/kurashi/books.html 「今のところ、

            Story behind the "Seeding" - Seedingの裏物語

            "The Greening of America(邦題:緑色革命)" という1970年に発刊された一冊の本があって、若いころのぼくは、その本、というかその本に描かれていたアメリカ西海岸のカウンターカルチャーなるものに、ずいぶん惹かれていました。 60年代に起こった新しい意識の動き。 それは、それまでの社会と人間との関係に疑問をいだき、自分自身、他人、社会、自然、国土などに対する新しい関係、社会のメインフレーム依存しない自立した生きかたを創造しようというものでした。 この"

            希いをこめて。

            阪神梅田本店の催事のための選書をしました。 □ 自分が好きになる暮らし展 阪神梅田本店 8F催事場 3月17日(水) - 23日(火) 10:00-20:00(最終日は16:00) 何回か経験があるんですが、百貨店の催事というのはほんとうにあわただしくて、閉店後の戦場のような搬入が終わったと思ったら、あっという間に会期が終わり搬出、しかもぼくの場合売り場にフルに立てるわけではないので、せっかく来ていただいたお客さんともちゃんとしたコミュニケーションができないですから、基

            ちょっと素敵な映画のことを思い出した

            窓の外の春のような陽射しを眺めていたら、ずいぶん前に観たちょっと素敵な映画のことを思い出した。 +++++ "Herb and Dorothy" もうすでに、インターネット上では賞讃しかないのがちょっとおかしいんじゃないかと思うくらいの評判をとっている、N.Y.で暮らす、ある意味狂気ともいえるアートコレクターの老カップルのアート蒐集の日々を描いたドキュメンタリー・フィルムである。 https://youtu.be/rQOdJDaFN2c private colle

            what a fool believe - 愚か者が信じること

            今から11年前、まだ健在だったジョブスのiPadのkeynoteを夜中に見て感じたこと。 さてそれから、本の状況はどれくらい変わったのか、あるいは変わっていないのか。 ************ What a fool believes | 2010/02/20 ジョブスのkeynoteを見て、柄にもなく「本の未来」のことを想う。 AppleやAmazonは、本の、ひとつひとつ独自にデザインされたパッケージは不要になる、音楽がそうであったように、共生という形態がしばら

            建築の復讐

            □ 空間感 sense of space | 杉本博司 | マガジンハウス | 2011 美術館建築は、いまやスター建築家にとっての表舞台だ。 安藤忠雄やフランク・ゲイリーに例をとるまでもなく、美術館は現代の神殿として、先鋭を競っている。そしてアーティストは、そのプレゼンテーションにおいて、その空間と対峙しなければならない。 もちろんその神殿で、自身の作品だけを展示できる「個展」というステージに現役で辿りつけるアーティストは、世界でもほんの一握りだが、杉本博司はこの15

            too hard too bite

            「真っ白な原稿用紙を拡げて、何を書くかわからないで、詩でも書くような批評も書けぬものか。例えば、バッハがポンと一つ音を打つでしょう。その音の共鳴性を辿って、そこにフーガという形が出来上る。あんな風な批評文も書けないものかねえ。即興というものは一番やさしいが、又一番難かしい。文章が死んでいるのは既に解っていることを紙に写すからだ。解らないことが紙の上で解って来るような文章が書ければ、文章は生きてくるんじゃないだろうか。」 小林秀雄の話だけれど、これがずっと頭の中で響いている。