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play it fuckin' loud!

ことさらこだわっているわけじゃないし、50年も前のことをウダウダ考えるつもりはないけれど、村上龍の「69」のことを書いている最中にボブ・ディランの刺激的な映画(NHKBSの再放送)を観てしまった。
流れというのは不思議なもので、始めてしまうと続けさまにコトが起こる。
 
この映像を見るとディランを抜きにして60’sのカウンター・カルチャーは語れないんだと、あらためて感じ入る。
 
■ No Direction Home  Bob Dylan/Martin Scorsese

2005年のマーティン・スコセッシの作品。
(もともとは Apple の提供で制作されたTVスペシャル、一番見たかったのはもちろん Jobs だろう)
2007年にやっとオスカーを手にしたスコセッシは、「映画オタク(by 小林信彦)」であると同時にかなりのロック好きとしても有名な監督で、この映画のあとには、ローリング・ストーンズの 「Shine a Light (2008)」も撮っているし、旧くはザ・バンドの「The Last Waltz (1978)」 も彼の作品だ。
 
そういえば「The Last Waltz 」も、この作品と同じように一見モノローグにも思えるような本人へのインタヴューを交えながらコンサートの映像やエピソードを挿入していくという手法だった。
 
この208分にもわたる長編はインターミッションをはさんだ2部構成で、前半はミネソタの音楽小僧だったロバート・ジンマーマンがどのようにボブ・ディランになったかということが、ディランにまつわる様々な人たちへのインタビューに未発表のライブ映像を交えて克明に記され、後半ではフォークの王子様にまつりあげられたディランが、どのようにグレて、ラジカルなロッカーに変身していったかということを、英国ツアーの映像をコアに撮られている。
 
今まで定説とされてきたことがひっくり返るような面白いエピソードもいっぱいあるけれど、なんといっても圧巻はエンディングの英国ツアー Newcastle (5/21/1966) での「 Like a Rolling Stone」だろう。

まさかこのコンサートの映像を見られるとは思わなかった。
 
ずいぶん昔から「 Royal Albert Hall 」というブートレグとして伝説にもなっていたパフォーマンスで、テレキャスターをかかえたディランが「Judas!(裏切り者)」と野次をとばす観客に、「I don't believe you(お前のことなんて信じてないよ) 」「 You're lier(嘘つき野郎) 」と毒づき、バックバンド( The Band だ)のほうに振り返って「Play it fuckin’ loud !(でっかくいこうぜ!))」と声をかけてその曲をスタートするシーンには思わず鳥肌が立つ。
 
ROCKの原形。
 
NO DIRECTION HOME というメッセージは胸にしみる。
 
How does it feel            どんな感じだい
How does it feel              どんな感じなんだい
To be on your own             独りぼっちになるのは
With no direction home   帰るすべもなく、
Like a complete unknown  見知らぬひとのように
Like a rolling stone ?      転がる石のように
 
アーティストであることの孤独と恍惚。
 
自分自身に立ち返れば、人には帰る家などないし、帰るところよりも行く先をもとめて歩きつづけることがアーティストの旅なんだろう。
 
それにしても、
前年1965年の英国ツアーのドキュメンタリー「Don’t Look Back」の野放図で傍若無人な明るさと比べると、たった1年しか経っていないこのツアーの緊張感。

1965年のツアーがマリファナ的だとしたら、このツアーはLSDのようだ。
 
このツアーのすぐあとに、彼はトライアンフで事故を起こし、ウッドストックで2年間の隠遁生活をおくることになる。でももし事故を起こしてなかったら、ジャニスやヘンドリクスのようにそのまま逝ってしまったんじゃないだろうか。そう思えるほどに凝縮された輝きと憔悴が、この映像に刻まれていて、個人的にはノーベル賞はこの時期の彼の詩に対して与えられたものなんじゃないかと思っている。
 
2019年ロンドンのハイドパークで観た78歳のボブ・ディランは、LAで初めて観たときの37歳の彼とはまったく違っていたけれど、生きて動いている彼の姿を見るだけで泣きそうになった。

彼がまだ健在で、80歳を超えてなおこの国を訪れてくれることを心から寿ぐ、生き残ることはひとつの価値だから。
 
「ゆく河の流れは絶えずして、しかももとの水にあらず。淀みに浮ぶうたかたは、かつ消え、かつ結びて、久しくとどまりたる例(ためし)なし。世の中にある人と、栖(すみか)とまたかくのごとし。( 方丈記 in 1212 )」
 
BGM : ” I Shall Be Released ”   by Bob Dylan    Greatest Hits 2 version
 

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