no.21 Hilary
Hilary duPont
Visitor Services Coordinator
ドナルド・ジャッドのステンレスの棚と大きな金庫室のある部屋で彼女からもらったビジネスカードにはこう書いてある。
明らかにフランスの名前だからニュー・オーリンズの生まれかもしれない。
机の上に置いたそのカードを眺めながら、その日の Marfa TX を回想している。
もうすでにぼくの記憶は翳んでいてぼんやりとした残像でしかないけれど、リサやスティーブやジョージの顔はよく憶えている、もちろんヒラリーも。
微笑は忘れない、
出会いはたぶん一度きりだけど。
ファインダー越しに見る彼らの笑顔はいつもとても自然で、
それはテキサスだけじゃなく、アメリカという国そのものがじつは朗らかな微笑の国じゃないかと思ったりもする。
彼女の笑顔はとても素敵だった。
まるで古くからの知り合いのように挨拶をかわし、まだ見ぬアーティストの仕事場への期待に心を躍らせているぼくたちのときめきを和らげるように、柔らかな声で。
Have a good time !
それだけでもうすべての風景が、溶ける。
まるでいつかみたトリュフォーの映画のように。
その瞳に。
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