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短歌と和歌と

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中学生向けに和歌・短歌を語る練習をしています。短歌は初学者。和歌は大学で多少触れたレベル。
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2021年1月の記事一覧

1月31日 僕の憎しみと良経の春海

1月31日 僕の憎しみと良経の春海

 数日ぶりに暖かい一日だった。海に行った。

 風もほとんど無く、子ども達は上着と靴下を脱ぎ、手足の先を波に洗わせていた。凧を揚げ、貝殻を拾い、砂遊びを楽しんだ。肌を傷つけないほどの優しい砂と無限の海水がある。砂浜は理想的な砂場だ。

ボード屋の値段表だけ確認しシーグラスのこと少し憎んでる

 シーグラスは、海に落ちているガラスの破片。転がされて角が丸くなっている。水槽などにいれる。子どもは見つけ

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1月30日 ドラえもん短歌と月夜の航海

1月30日 ドラえもん短歌と月夜の航海

 『ドラえもん短歌』を読んだ。ドラえもん達への語りかけ、祈り、願い、ツッコミ、決別。それぞれのスタンスからそれぞれのドラえもんが見える。

 大人になった僕からドラえもんへ。  

8時間寝たら体力全回復とか言う秘密の道具を貸して

 多分のび太は標準装備してる。

☆ ☆ ☆

 寝ても取り去れない疲れと付き合う時、大人は月を見る。月を見て、幻想に導かれて心を飛ばすのだ。

 今夜は『詞

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1月29日 僕は寒いし好忠も寒い

1月29日 僕は寒いし好忠も寒い

 寒の戻りというにはまだ早いが、今日の冷え込みには閉口した。普段なら嬉しくなる雪も、昨日までの居心地の良い暖かさを突然引っ剥がしてきたようで、苛立たしい。

昨日まで暖かかった一月の嘘を暴いた銀河かなんかが

☆ ☆ ☆

 寒さを愚痴る平安和歌を探した。愚痴っぽいのは勅撰集に合わない気がするので、私家集が良いと思った。曽禰好忠なら、素直に愚痴ってくれそうな気がした。

風寒み霰降りしき寒

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1月28日 次男の行き倒れと聖徳太子の憐れみ

1月28日 次男の行き倒れと聖徳太子の憐れみ

  4歳の次男は、僕が帰宅してドアを開けると、満面の笑みで迎えてくれる。

「おかえり!」を聞かせてくれない君はたぶん行き倒れてる絨毯の上で

 迎えてくれない時は、大体その辺で寝ている。奥さんは2歳の娘の世話や7歳の長男の学習指導で忙しいため、次男は毛布だけかけられて放置されている。それでも何だか幸せそうに見える。

 と、思ったら、今日は静かにニンテンドースイッチをやっていた。
 何か悔しいな

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1月27日 肉塊への期待と俊頼の桜

1月27日 肉塊への期待と俊頼の桜

 肉屋で買った豚バラ肉を冷蔵庫で塩漬けし、明日で1週間になる。1週間経った肉を塩抜きして乾燥させ燻製すると、ベーコンになる。

 前回作ったベーコンを、息子が初めて旨いと言ってくれた。
 子ども達がガツガツと食ってくれるということが、こんなにも嬉しいものかと思ったことを思い出す。

 今回のも旨くなりますように。

ベーコンに変ぜんとする肉塊よ明日食む子らの口を思えよ

☆ ☆ ☆

 工

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1月26日 僕のいきかたと慈円の夜闇

1月26日 僕のいきかたと慈円の夜闇

 4歳の息子に「こどもちゃれんじ」体験版が送られてきた。一緒にやった。

「いきかたをかんがえよう」はベネッセに突きつけられた僕らの問二

 いきかたは4通りあるらしい。スタートからゴールまで、中には回り道も含まれる。

☆ ☆ ☆

 生き方に悩む歌を、『千載和歌集』雑部に取材した。

月かげの入りぬる跡に思ふかなまよはむ闇の行末の空(一〇二一 法印慈円)

 400年続いた貴族の世が終

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1月25日 すがる僕と藤原義孝

1月25日 すがる僕と藤原義孝

 コンタクトレンズが割れたので、眼科に行ってコンタクトレンズを注文した。

 9年ぶりの新調だ。新商品も出ていた。今までのより6000円高くて、UVカット機能が付き、酸素透過性が向上していた。

 新商品を買った。

6000円高いコンタクトを買った6000円分酸素通すやつ

 実際の所、6000円分の違いがあるとは思えない。でも目の玉の大事さを思えば6000円はケチれない。
 そういう、信じてい

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1月24日 初句がショック

1月24日 初句がショック

 子の一大イベントが終わってホッとする親と、

 子の人間関係に悩む親と、

 子と喧嘩する親に出会った一日。

話すだろう 10年後にも今日のこと昨日の心配を語るように

 俵万智『考える短歌』第六講「初句を印象的にしよう」に学んだ。

☆ ☆ ☆

 古典和歌で初句が印象的なものは無いかな、と思って探した。こんなのはどうだろう。

さもあらばあれ暮れ行く春も雲の上に散ること知らぬ

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1月23日 熱い応援と気怠い重之

 入試当日。僕は監督。

 例年なら塾関係者や保護者が多く集い、賑やかに心の準備を整える。教室入場の際には応援の声がかけられる。

 本年は大人の人数が少ない。

 だけど、熱気が薄いわけじゃない。ここまで準備してきた受験生の、そして寄り添い導いてきた大人達の本気が、静寂の中に満ちている。

 列に並ぶ受験生の一人ににゅっと拳が突き出された。受験生は、静かに頷いて建物の中に消えていく。

声張れず

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1月22日 親バカな僕といじける曽禰好忠

1月22日 親バカな僕といじける曽禰好忠

  今日は俵万智『考える短歌』第八講「会話体を活用しよう」に学んでみよう。

 三十一文字に口語をなじませる方法として、とても有効だったのが、会話体を使うことだ。はじめから明確に意識していたわけではないが、試行錯誤の結果、会話体を活用することが、多くなった。地の文としては、まだ違和感のある口語も、かぎカッコに入れてしまえば、現在形以上の生き生きとした表情を見せてくれる。違和感も、おおいに減った。 

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1月21日 学校のトイレと後鳥羽院の強がり

1月21日 学校のトイレと後鳥羽院の強がり

 学校のトイレが詰まった。

 イタズラの痕跡がある。修理にはそれなりの工事が必要となった。

 イタズラをはたらいた者は、この報告をどんな表情できいているのだろうか。

学校に反吐を溢れさせし君はたぶんファミマでどん兵衛買ってる

 今夜は俵万智『考える短歌』第七講「固有名詞を活用しよう」に触発されて詠んだ。

 俵万智によれば、固有名詞は「短い言葉ながら、さまざまな思いをふくませることが可能だ

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1月20日 肉塊への敬意と後鳥羽院の空

1月20日 肉塊への敬意と後鳥羽院の空

 俵万智『考える短歌』で一首の内に動詞が多いととっちらかるという趣旨の教えがあった。

一首のなかに、あまりたくさん動詞が入っていると、「朝起きて歯を磨いてごはんを食べて・・・・・・」という小学生の作文の悪い見本のような印象になる。一般的には、三つが限度ではないかと思う。

 昨日の短歌は「立つ」「泳ぐ」「ある」の三つ。限度だ。加えて名詞化されている「頷き」もあるから、ほとんど四つといって良いだろ

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1月19日 ヘロヘロの僕とウキウキする俊成

1月19日 ヘロヘロの僕とウキウキする俊成

 クライマックスを残してはいるけれど、繁忙期の終わりが見えてきた。

 準備に時間をかけきれないまま授業に臨み、それでも頷きながら聞いてくれる生徒がいる。今日は君のために授業する。

教壇に立つ鉄面の裏で泳ぐ目の隅君の頷きがある

 今日も『長秋詠藻』を読む。

面影に花の姿を先立てて幾重越え来ぬ嶺の白雲(二〇七)

 春。うきうきが止まらない。桜の花が見たくて。
 そんな歌を俊成が詠んでいる。

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1月18日 僕たちの喧嘩と俊成の片思い

1月18日 僕たちの喧嘩と俊成の片思い

 妻と喧嘩した。

 喧嘩は良くする。子育てに関わることだと譲りたくない気持ちが出てしまう。

 だいたいの場合子どもらに諌められる。2歳の娘も「けんかはだめ!」と怒る。

 ダメな親なのだと思う。

学校を嫌いだと言う君の目が見ている90年代の冬

 『長秋詠藻』を開く。「ちょうしゅうえいそう」と読む。藤原俊成という、平安時代末期を生きた大歌人の家集だ。

憂き身をば我だに厭ふ厭へただそをだに同

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